第32話
「ねえ榊原、お願いがあるんだけど。」
「折角だし悠人って呼んでよ。」
「……何が折角なの、
真剣な話なんだけど。」
「ごめん、なんか気まずい空気しんどくて和ませようとしちゃった。」
榊原はそう言って頭をぽりぽりと掻いた。
和ませようとした行動が空回りしたからなのか、榊原の耳は少しだけ赤い。
そうだ、榊原って、そういうやつだった。
実行委員の話し合いで沈黙が続いた時も積極的に話を振っていたし、とにかくみんなが明るくいられるように努力してくれていた。
私は榊原のそういうところが好きだったりもして。
……なんて。
今はそれどころじゃない。
「私と一緒に、犯人を捜してほしい。」
私がそう切り出すと、
榊原は不思議そうな顔をして
「犯人?なんの?」
と言った。
「なんのって、レンアイ放送のに決まってるじゃん。」
「いやいや。レンアイ放送って都市伝説なんでしょ?都市伝説に犯人とかいるの?」
「はあ?まさか本当にオカルトだとでも思ってるの?」
「うん、そうだけど……」
「はあ……オカルトなんてこの世に存在しないよ。結局すべては人間が起こしてることなんだから。
この犯人、言うなればレンアイ放送の主催者が、レンアイ放送という都市伝説を捏造した可能性だってあるでしょ?そういうの、考えていかないと。」
「ふーん、よく考えてるんだな、すげえ。
それで、主催者の目星はついてるのか?」
「それが……」
私は、保健室でゆりちゃんから聞いた話をすべて榊原に話した。
1年生と3年生が既にレンアイ放送をしていたこと。
そしてそこでほとんど全員が死んでしまったこと。
犯人が片想いの殺意を引き出しているのには何か狙いがありそうなこと。
榊原は難しい顔をしながらも、
真剣に私の話を聞いてくれていた。
「それで、犯人は2年生だと?」
「うん。まだ確証を得る材料は何もないんだけど、やっぱり最終日だし、ほとんどの他学年の生徒が死んでる今もレンアイ放送が続いてるから、まだ生きてる2年生の可能性が高いかなって。」
私は、ゆりちゃんから聞いた話に少し自分の考えを織り交ぜながら話した。
「まあ、ここまで言って手掛かりは何もないんだけどね……」
「いや、手掛かりは今から探せばいいよ。それだけ考えてる前提があれば大丈夫だ。
今B組の放送が終わったから、あとはC組とD組だよな。」
そう言って榊原はスマホを取り出し、
レンアイ履歴のサイトを開いた。
「まずいな。C、D組の生存者はかなり少ないぞ。早く探さないと、見つける前にレンアイ放送が終わるな。」
そう言って榊原が見せてくれたサイトには、クラスごとの生存者数まで書かれていた。
C組19人、D組13人だ。
そういえば、阪本も龍ちゃんもD組だったし、最初の混乱でうちのクラスの鈴木も愛美に殺されていた。
そして龍ちゃんの浮気相手である優実もC組だ。
思わぬタイミングで自分の名前が呼ばれることもあるわけだし、そうなるとC、D組の人たちも油断はできなかっただろう。
「うん……
でもその前に、美咲に会いたい。
待っててくれてるの、私のこと。」
レンアイ履歴のサイトでは、
美咲の安否だけが確認できなかった。
美咲には彼氏がいるから、
死ぬことなんてない。
でも、彼氏がいても裏切られれば死ぬ。
美咲の彼氏を疑いたくなんてないけれど、私は不安で仕方なかった。
「分かった。安藤は教室にいるのか?」
「うん、そこで待ってくれてるはず。」
「じゃあ行こう。レンアイ放送を潰すためにな、まずは心のつっかえを取っておかないと。」
そう言って榊原は立ち上がり、
私に手を貸して起き上がらせてくれた。
その手は大きくて、力強い。
榊原となら、きっと乗り越えられる。
榊原となら、この戦いだって勝てる。
榊原の大きな手に、私はそう確信した。
そして、私たちは教室へ向かった。
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