第22話
榊原を殺すことが本当にあげはちゃんに寄り添うことになるのか、私には分からない。
でも、罪は一人で背負うより
分け合った方が良い。
その方が、安心できるから。
……なんて。
私は自分の「榊原を殺して助かりたい」という気持ちを正当化したかっただけなのかもしれない。
あげはちゃんが龍ちゃんを殺した時、
私は恐怖を感じると同時に安心した。
あげはちゃんが死ななくてよかったと、
心の底からホッとした。
どちらかが必ず死ぬのなら、
友達に助かってほしいと思うのは
当たり前の感情だと思う。
生きるためなら、友達が殺人を犯すのだって仕方がないと思う。
ただ、それは客観的に見た話であって、
自分が当事者となると話は別だった。
本当に殺せるのか、
私のその罪を許してくれるのか。
そんな不安ばかりが頭を駆け巡っていた。
でも、今は違う。
あげはちゃんが龍ちゃんを殺すのを見て、自分が抱いた安心感にようやく気付かされた。
私が殺しても、きっと許してもらえる。
あげはちゃんも、美咲も。
私が生きていてよかったと、
思ってくれるはずだと。
「……みずきってぃー、何言ってるの?」
「私に死んでほしい?
私はあげはちゃんに死んでほしくなかったから、あげはちゃんが龍ちゃんを殺したことを責めたりしないんだよ。
これでよかったって、心から思ってる。」
「でも、人を殺しちゃったんだよ?
しかも二人も。これって殺人なんだよ?」
「ううん、違う。殺さなきゃ殺されてたんだよ。私はあげはちゃんが生きてるなら殺人なんてどうでもいい!悪いのはこんなルールを作ったレンアイ放送なの!」
「でも、」
「あげはちゃん、私はあげはちゃんが生きてて嬉しいよ。あげはちゃんは、私がこの試練を超えて生き残っても嬉しいと思ってくれないの?」
「ううん……そんなこと……」
私の必死な説得に、あげはちゃんは自分の血まみれの手をぎゅっと握りしめた。
「……うん、そうだよね。私、みずきってぃーに生きててほしい。死んでほしくないよ。」
「ありがとう……」
我ながら、卑怯な誘導尋問だったと思う。
自分が今から犯す罪を、あげはちゃんが容認したことにしようとして、少しでも自分の罪悪感が消えるようにしている。
これで、心置きなく殺せるよ。
さっきのあげはちゃんの言葉が浮かんだ。
私が気にしてるのは、
榊原のこの先の人生じゃない。
自分のこの先の人生だ。
人の命を奪おうとしているのに、
考えるのは自分のことばかり。
私は最低だ。
でも、大丈夫。
生きるためには仕方のないこと。
そして、あげはちゃんも美咲も望んでいること。
大丈夫だ。
出来る。
私は自分の最低さに蓋をして立ち上がった。
すると、あげはちゃんが私の袖をくいっと引っ張った。
「みずきってぃー、
これ持っていきなよ。」
「……え?」
あげはちゃんが差し出したのは、
龍ちゃんの喉から抜いた包丁だった。
「なに、怖いよ。」
「阪本?って奴もこれで死んだんだし、なんか色んな人の魂がこもってるから。
多分、強くなれるよ。」
あげはちゃんはそう言って、包丁についた血をブレザーの袖で拭ってから、私にその包丁を握らせた。
掠れた血の匂いが残るその包丁は、
正直気持ちが悪かった。
けれど、今から武器を探すのも面倒だし、私のために死んだ阪本の想いを無駄にしないためにも持っておくべきだと思った。
「……うん、使うよ、ありがとう。」
「私はここで待ってるよ。
ずっと待ってるから。」
あげはちゃんは優しく笑う。
さっき出会ったばかりなのに、励ましたり励まされたり、なかなかいい関係を築くことが出来たんじゃないかと思った。
この関係は、大事にしよう。
二人で生き延びて、これからもずっと、
同じ罪を背負って生きていこう。
そう決めて、
私は階段を一歩一歩昇って行った。
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