第18話

「で、みずきってぃーは?

好きな人いる?」




あげはちゃんは目を開けて、

柔らかい表情でこちらを見た。




「あ、うん……

その人、彼女いるんだけどね。」



「え、マジ?ヤバイじゃん。」



「うん、やばい。このままじゃ死んじゃうんだ。」




私がそう言うと、あげはちゃんはきまりが悪そうに黙りこくった。



そのうえ、気まずそうに

目をきょろきょろさせ始める。



優しいあげはちゃんだから、私の前で彼氏がいると言ったことを後悔しているのだろうか。



そう思って、私はあげはちゃんに話しかける。




「気遣わなくていいよ。大丈夫だから。」



「あっ、いやっ、そうじゃなくてさ。」




私があげはちゃんの顔を覗き込むと、あげはちゃんは焦って私から目を逸らした。



そしておもむろに私のブレザーを指さす。




「その、好きな人殺してないなら、

それって誰の血なんだろうって思って……」




あげはちゃんが指をさす先には、

もう随分と暗い色になった、

阪本と知らない人の血があった。



触ると、パリッとした手触りがする。




あげはちゃんは小声で


「触れちゃいけないかなと思ったんだけど、気になっちゃったから。」


と付け足した。



本当にどこまでも私を思いやってくれる子だ。



こんないい人に助けられて、

私はなんて運がいいのだろうと思った。





「これは、何て言えばいいのかな……

信じがたいことだと思うんだけど、

信じてくれる?」



「大丈夫、信じる!」




さっき会ったばかりの私に、あげはちゃんはかなり心を開いてくれているようだった。



それは私だって同じだ。



出会ったばかりなのに、私はあげはちゃんをもうこんなに信頼している。




あげはちゃんなら、

本当に信じてくれるかもしれない。



そんな安心感があった。




私は、あげはちゃんに

今まで起きたことを簡潔に話した。



阪本に告白され、そして自分の最期の姿を私のトラウマにするために、阪本が自殺してしまったこと。



制服の血とは関係ないが、

かなめちゃんのことも話した。



あげはちゃんは終始深刻そうな顔で、

けれどたまに顔をしかめたり。



静かにリアクションを取りながら、

私の話を黙って聞いてくれていた。




「……私、好きな人を殺そうとしてたんだけど、今までのことで気が滅入っちゃって。もう何もする気が起きないんだ。」




私が静かにそう言うと、

あげはちゃんは悲しそうな顔で



「そっか……話してくれてありがとう。」



と私を強く抱きしめてくれた。




「ごめんね、私って口下手だから、なんか励ますとか上手くできないんだけどさ。

でも、みずきってぃーが悪くないことだけは分かるし、私はみずきってぃーの味方だから。もう大丈夫だかんね。」




優しい声でそう言うあげはちゃんに、

身も心も解れていくようだった。




……そうだ。



私はこうして自分を認めてくれる人が欲しかったんだ。



私は悪くないって、

隣で支えてくれる人が。




美咲と離れた今、

そうしてくれる人がいなかった。



だから、私にとってあげはちゃんは

こんなにも大きい存在になったのだ。




「ありがとう、ほんとに……」



「どういたしまして!」




あげはちゃんはにっこりと笑った。





そんな時だった。






《続いて、B組12番 黒崎あげはさんの好きな人は……》






ついに、あげはちゃんの放送が始まった。


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