第19話

「うわ!きた!ヤバ!

余裕かましてたけど、いざ自分の番になるとなんか緊張すんね!」




あげはちゃんは、私を励ましてくれていた時とは全く違うテンションで、大声を上げて私の背中をバシバシと叩いた。



突然の大声に驚いた私を見て、

あげはちゃんはアハハ、と笑って謝る。



無理してるのかな、なんて思った。






《B組12番 黒崎あげはさんの好きな人は、D組6番 榎本龍太郎えのもとりゅうたろうくんです。》






「これこれ。この榎本龍太郎ってのが彼氏の龍ちゃんね。」



「あっ、そうなんだ。」



「後でみずきってぃーにも会わせてあげるよ。」



「いいの?ぜひ会いたいな。」



「楽しみにしてて。私の彼氏だけあってちゃんとイケメンだから。」



「え、そんなにハードル上げていいの?」



「いいよ!馬鹿にしてる!?」




恐怖とか不安とか、そんなことを忘れるかのように私たちは笑い合った。



笑うことが、一番自分を誤魔化すことの出来る方法なのだろう。



無理やり口角をつり上げて笑った。




こうは言ったけれど、こんなに優しくて素敵なあげはちゃんと付き合えているなんて、その龍ちゃんとやらもきっと良い人なのだろうと本当は思っている。



どっちから告白したのかな。



どんなシチュエーションで告白したのかな。



自分が今まで体験したことがないからこそ、あげはちゃんたちの馴れ初めが気になった。




きっと素敵なカップルだ。



あげはちゃんが疑いたくなくなるくらいに仲が良くて、誰からも羨まれるような、そんな素敵なカップル。




私は頭の中で、何度もまだ見ぬ龍ちゃんを思い描いた。



そうでもしないと、

不安が拭えなかったのだ。




二人が一緒に行動していないことに対しての、微かな不安が。





両想いが確実ならば、恋人が他の誰かに殺されないように一緒にいるとか、そういうことをするものなのではないだろうか。



お互いを守るために二人で行動するべきなのに。



なぜ、あげはちゃんは、こんなところを一人で歩いていたのだろう。



龍ちゃんは今、一体どこにいるのだろう。




恋人だからと安心していたかなめちゃんが死んだ。



両想いだから絶対に大丈夫だとか、そんな甘い考えでレンアイ放送を生き抜くことなどできない。



それを知っているからこそ、

私は不安に駆られていた。





……ダメだ、そんなことを考えちゃ。



あげはちゃんも言ってたじゃないか。



最期まで信じる。



疑うのは龍ちゃんにも龍ちゃんを好きな自分にも失礼だって。




私は、その気持ちを尊重してあげたい。



今この状況で、あげはちゃんに変な不安を抱かせるのはよくない。



黙っていよう。




私は、これまでの出来事を話した時にあげはちゃんが言ってくれた、


「みずきってぃーは何も悪くない。」


という言葉を、自分に都合よく解釈していた。



もしあげはちゃんが失恋しても、

あげはちゃんは私を責めたりしない。



私にはどうしようもないことだったと、私は何も悪くないと。




そう思ってくれると分かっていたから。






《そんな榎本龍太郎くんの好きな人は……》





「あげは、」




放送を遮るように、

階段の上から男の声がした。



疑心暗鬼になっていた私は、

黒パーカーの男ではないかと思い

ドキッとする。



けれど、見上げた先にいたのは

見慣れない男子生徒だった。




「あ!龍ちゃん!」




あげはちゃんは大声を上げて、嬉しそうにその男に飛びついた。




「龍ちゃん~どこで何してたの~。」



「ん、まあ色々な。」




龍ちゃんと呼ばれたその男は、

スラっとした体型に色白な肌の

見事なイケメンだった。



綺麗な平行二重と薄い唇が見るもの全てを魅了するような、あぁ、確かにあげはちゃんの彼氏だなという印象だった。



なぜこの人を知らずに今までこの高校で生きてこれたのか、不思議なくらいに王子様だった。




「あ、みずきってぃー!

この人が龍ちゃん!」



「あ、渡辺です……」



「へー、どうも。」




龍ちゃんは、あげはちゃんとは違い

クールな印象だ。



私には目もくれず、

あげはちゃんのことを見つめていた。




「え、なに?そんなに見つめて。」



「今自分が放送されてるってのに、

お前は気楽なもんだな。」



「だって不安なことなんてないじゃん!」



「……そうでもないかもよ?」




あ、どうしよう。



不安、当たるかも。

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