蝶の運命
第17話
「う、うん……ごめんね迷惑かけて。」
「いやいや~!こんな時はお互い様っしょ!気にすんな気にすんな~!」
ギャルは親指を立ててニカッと笑う。
今の私の廃れた心に、
そのギャルの笑顔がジンと染みた。
こんな状況でも明るいなんて、
ギャルはすごい。
あっけらかんとした表情に、
どこか心が救われていく気がした。
「てかその血って自分の血?
もしあれだったら止血したげるよ?」
心配そうな目で私を覗き込み、
ギャルは優しくそう言った。
「ううん、私のじゃ、な、い、けど……」
自分の制服で少し乾いた褐色の血を見て、
今までのことを思い出してまた息が詰まった。
せっかく助けてもらったのに、
また過呼吸になりそうになる。
「え!待ってヤバイ地雷踏んだわ!
めちゃ無神経な質問したね、ごめん!」
そんな私を見て、ギャルは焦った様子で
私に謝った。
当たり前な疑問を口にしただけなのに、
自分に非があるように思うなんて。
それに、もしかしたら人を殺した返り血かもしれないのに、警戒せずに私の心配をしてくれたことに驚いた。
見ず知らずの私を助けてくれたこのギャルは、見かけによらず優しい子なのかもしれないと思った。
「とりま自己紹介しよ!
私はB組の
「あ、私は、C組の渡辺瑞季……」
「瑞季?じゃあみずきってぃーね!
これからよろしくー!イェーイ!」
そう言って、あげはちゃんは私の手と勝手に握手を交わした。
ギャルなだけあって勢いがすごいけれど、私のことを助けてくれたし、きっと信じていい子なのだろう。
久しぶりに見た人の笑顔に、
なんだか泣きそうになってしまった。
「落ち着くまでここにいようよ。
私もなんか眠いしさ~。」
あげはちゃんはのんびりとした口調でそう言う。
あまりに優しい声が嬉しくて、
私はあげはちゃんにもたれかかった。
あたたかくて、安心できる。
初めて会ったとは思えないほど、
リラックスすることが出来た。
このままずっとここに居たい。
榊原のことも、
阪本のこともかなめちゃんのことも。
全部忘れて、ずっとここに。
そんな叶わない願いを抱いてしまうほど、あげはちゃんは温かくて優しかった。
けれど、私は。
あげはちゃんがなぜこんなにも余裕のある表情なのかが疑問だった。
生きるか死ぬかもわからないゲームの中で、赤の他人を助ける余裕があるなんて。
不思議でたまらなくて、
思わず口に出してしまった。
「あげはちゃん、
なんでそんなに余裕あるの?」
「え~?余裕に見える?」
「うん、見えるけど、余裕じゃないの?」
「いや~余裕ではないな~。」
あげはちゃんは目を閉じたまま、
優しい声でそう言った。
「彼氏いるんだよ、龍ちゃんって呼んでるんだけどね、優しくてさ~、大好きなんだよね。」
「うん。」
「もしかしたらって疑うのは、龍ちゃんにも、龍ちゃんのことを好きな自分にも失礼でしょ?自分の好きって気持ちに嘘つきたくないんだよね。」
のんびりとした声だけど、
その中に強い意志が見える。
あげはちゃんの言っていることは、
綺麗事だけど正しいと思った。
私も、言い方は違えど、かなめちゃんに同じようなことを言ったから。
「その通りだと思う。」
「でしょ?分かってんじゃん。」
あげはちゃんは明るく笑った。
その笑い声に、心も体も
癒されていくような気がした。
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