第16話
どうしよう、どうしよう。
もう私は二人も見殺しにしてしまった。
この短時間で、二人も。
口の中に酸っぱい味が広がる。
今までに味わったことがないくらいの吐き気に、胃のあたりが気持ち悪くなった。
このまま死んでしまいたいと思うくらいに苦しくて仕方がない。
もう嫌だ……
私は何も悪くないはずだ。
阪本は自ら死を選んだし、
かなめちゃんの運命なんて
私には到底変えようのないものだった。
でも、それでも。
もし私が阪本の手を止めていれば。
もし私が男の足止めをしていれば。
二人は助かったんじゃないだろうか。
あの時、阪本が何をしようとしているかに気付くことができていたら。
あの時、男に向かっていく勇気があれば。
二人は死なずに済んだんじゃないだろうか。
もうどうにもならないことばかりが
グルグルと頭を駆け巡る。
……私は悪くない。
私が止めていても阪本は死んだ。
男に至っては、止めていれば
私が殺されたかもしれない。
仕方のないことだったんだ。
なんとか気持ちを落ち着かせようと自分で自分をなだめても、手の震えが止まることはなかった。
理屈じゃどうにもならない罪悪感が、
いつまで経っても消えてくれない。
苦しい、苦しい……
いつの間にか呼吸の仕方が分からなくなって、息をしようとすると呼吸が早くなっていく。
「はあ……っはあ……」
階段に私の荒い呼吸だけが響く。
自分ではどうしようもないくらいに苦しくて仕方がなかった。
「えっ!大丈夫!?」
そんな時、階段の上から声が降ってきた。
「ちょ、なに過呼吸!?
こういう時ってビニール袋だっけ!?
探してくんね!ちょい待ってて!」
ギャルっぽい口調で叫ぶ声の主は、
そう言ってどこかへ走って行った。
誰かも分からないし、
余裕がなくて顔さえ見れなかった。
けれど、本当にビニール袋を持ってきてくれるなら、それ以上に有難いことはない。
精一杯自分で息を整えながらも、どこか安心した気持ちでさっきのギャルを待った。
「あったあった!ビニール袋!
うわ、てか血まみれじゃん!ヤバ!」
ガサガサという音と共に戻ってきたギャルは、正面から見た私の血まみれ姿に驚いている。
それもそうだ。
血まみれで過呼吸を起こしている人間を見て、驚かないわけがない。
それでも、過呼吸の私を見つけた時に、血まみれなことを気にせず声をかけてくれたことが嬉しかった。
「とりま息吸って!
……違う!吐くのか!」
そのギャルはぎこちない手つきで
ビニール袋を私の口に押し当てた。
それと同時にスマホを取り出して、
何やら文字を打ち込んでいる。
そのギャルは、ピンク色の髪をした派手な人だった。
「待って、そういやネット繋がらないんじゃん。過呼吸の対策方法調べたいんだけどな……」
「だ、大丈夫……
もうだいぶ、回復したから……」
「うわ!喋った!大丈夫!?」
ギャルは、喋れるまで回復した私を見て、心底驚いたような表情をした。
助けてもらって何だが、ギャルは苦手だ。
うわ喋った、という化け物でも見たかのような物言いに、私は少し怯んでしまった。
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