第15話
《A組9番 小栗かなめさんの好きな人は、
A組36番
かなめちゃんの好きな人が放送される。
さっきまで叫んでいた「たかくん」というのは、多分この湯川孝也のことなのだろう。
そういえば、あまり放送を聞いてなくて気付かなかったが、最初より放送の間隔が短くなっているような気がする。
焦らしの演出をやめたのだろうか。
なんにせよ、放送の結果は早い方がいい。
こんなのは心臓に悪すぎる。
「……み、瑞季ちゃん!どこ行くの!」
立ち上がった私のスカートを、
かなめちゃんは必死に掴んできた。
「ちょっと、無理……
さすがにもう人が死ぬとこ見たくない……」
「っ!!
なんで私が死ぬって決めつけてんの!?」
……うっかり、口が滑った。
思っていることをそのまま言ってしまった。
「ごめん、そういうわけじゃ……」
「もういい!勝手に行けばいいじゃん!」
そう叫んで、かなめちゃんは私の脚をドンと突き飛ばした。
少しよろけてしまったが、
あまりにかなめちゃんが強く睨むので
素直にそこから離れることにした。
目の前で阪本が死んで、
正直私の心はボロボロだ。
もう少し気持ちを整理する時間が欲しいのに、かなめちゃんがそばにいると落ち着かない。
それに、嫌な予感がするのだ。
レンアイ放送の始まりでも感じた、
あの嫌な予感がよみがえってくる。
かなめちゃんは確実に死ぬ。
心のどこかでそう思ってしまった。
そんな気持ちのままあの場にいても、
かなめちゃんを慰めることは出来ない。
そう思って、
私は階段を上るために角を曲がった。
すると、そこに。
黒パーカーの男がいた。
「え……」
思わず漏れ出た声を抑える。
どうしてここに……?
コイツは、かなめちゃんを狙ってここにいるのだろうか。
ならば、今からかなめちゃんは……
かなめちゃんに、気付かれちゃダメだ。
どうにかこの恐怖を堪えないと。
《そんな湯川くんの好きな人は……》
もう、結果が目の前にある。
かなめちゃんは確実に殺される。
深く被ったフードの奥と目が合った。
鋭く、突き刺すような視線だった。
思わず涙が零れそうになる。
これが、人を殺す人間の目……
殺意で目を光らせた人間の目だ。
《A組16番
「っ!?……嘘だ!」
角の向こうから、かなめちゃんの叫ぶ声が聞こえてくる。
「嫌だ!そんなわけない……!」
その声が大きくなればなるほど、
目の前の男は私に近づいてくる。
狙われているのは私ではないと分かっていながらも、歩み寄ってくる男に足がすくんだ。
あと少しで、かなめちゃんが殺される。
この男が、かなめちゃんを殺す……!
《小栗さんは、失恋です。》
その言葉を合図に、
男は勢い良く走りだした。
目で追う間もないうちに、
ドンッと身体がぶつかる音が。
そして、小さいかなめちゃんの悲鳴が聞こえてきた。
「なんでよ……
こんなの、おかしいじゃん……」
かなめちゃんがそう呟く。
何も見ていないのに、
耳からの情報だけで卒倒しそうだった。
私は、かなめちゃんを見捨てたんだ。
助けを求めるかなめちゃんを見捨てて、
黒パーカーの男のことも止められないで。
……また、人を殺した。
私は悪くないと分かっているのだ。
私がかなめちゃんを救えるわけもないと、全てわかっていたけれど。
もう少し、優しく寄り添ってあげられれば。
あんなキツイ言い方なんて、しなければ。
自分の発言がいかに酷いもので、いかに最低なことだったのか、身に染みて感じる。
私が、殺したんだ。
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