第5話

確実に殺されるという恐怖を抱えて、

私は榊原をちらりと横目で見た。




榊原悠人さかきばらゆうと……



私の好きな人。




去年の文化祭実行委員で少しだけ話した、榊原悠人だ。




少し話したと言っても、人見知りの私のせいで会話は続かなかったのだけれど。



私が一人でしていた作業を、「手伝うよ」と言って手伝ってくれた。



「そんなに大変な作業でもないし、一人で大丈夫だよ。」



と遠慮して言うと、



「でも二人でやった方が早いから。これ終わらせて、向こうでみんなと一緒に作業しよ!」



と言ってくれた。




その時、生まれて初めて胸が高鳴った。



美咲とばかり過ごして、男子を無意識下で遠ざけていた私の初恋だった。




美咲以外に友達のいない私にとっては、私のことを気にかけてくれる榊原は貴重な存在になった。



榊原が輪に入れてくれたおかげで、人見知りな私も少しずつ実行委員に馴染めるようになっていき、少しだけれど友達もできた。



流石に打ち上げに参加できるほどの度胸はなかったが、私が参加しない旨を伝えると榊原は残念そうな顔をしてくれた。



嘘だって良い。



少しでも私を気遣ってくれた、

その気持ちが嬉しかった。




隣のクラスだった榊原とは本当にそれしか関わりがなかったけれど、その優しさに、単純だけど惚れてしまったのだ。





そんな榊原にはもちろん彼女がいる。



B組の藤田花音ふじたかのんだ。



去年同じクラスだった二人は、

文化祭実行委員も一緒にやっていた。



だからもちろん、

私も少し話したことがある。



正直、私は苦手なタイプだが、

男子が好きそうな「いかにも」な感じだ。



男はすべて私のもの、

という自信を持っている感じ。




二人が付き合っていることには、私が榊原を好きになる前からずっと気付いていた。



それに、私に付け入る隙なんてないくらいに仲の良いカップルだとも分かっていた。



だから、私は同じクラスになっても不用意に話しかけられることもせず、ただひっそりと好意を抱いていただけだった。





……それなのに。



今からこの放送で発表されてしまう。



その上、両想いじゃなければ殺されてしまうなんて。



まさに公開処刑だ。





人間は、マイナスなことほど信じてしまう生き物なんだと思う。



もし私が両想いなら、レンアイ放送なんて冗談だとか、どうでもいいだとか。



そんな風に笑い飛ばせたのかもしれない。




でも、現実はそうはいかない。



決まりきった失恋を目の前に、

私は一歩も動くことが出来ない。



ただ迫り来る死を、

待つ以外なかった。





「どうしよ、私、死んじゃうなあ……」




考えていることがそのまま口に出た。



私のその呟きを聞くと、美咲が不安げな顔で私の手を握り締めてきた。




「大丈夫だよ、こんなの冗談だよ。」



「でも、実際にそういう都市伝説があるんだよ?本当に死んじゃうかもしれないじゃん。」



「きっと、ただの都市伝説だから、大丈夫だよ……」



「大丈夫ばっかり言って……

美咲は彼氏がいるから関係ないって思ってんでしょ?余裕のある人には、私の気持ちなんて絶対わかんないよ。」




……しまった。



自分の発言の醜さに気付いた時には、

美咲の顔は涙で歪んでいた。




「ごめ……そういうわけじゃ、」



「うん、わかってる……混乱してる瑞季の気持ち、全然考えてなかったもん。私が悪いよ、ごめんね。」




目に浮かぶ涙をこらえて、

美咲はにっこりと笑ってくれた。




「私に瑞季の気持ちは分からないかもしれないけど、でも、瑞季に生きていてほしいって気持ちは一緒だよ。そばにいるから。守るから。」




そう言って、美咲はまた私の手を

強く握りなおした。




「ありがとう、ごめんね。」



「うん、大丈夫。流石に、このレンアイ放送?も逃げ道ゼロな理不尽なものじゃないと思うから。助かる道はあると思うよ。」




レンアイ放送なんてただの都市伝説だよ、と言っている割には、美咲も真剣に考察をしているようだった。



生き残れる希望の全くない私にとって、

その言葉は救いだった。



助かる道がもしあるなら、

それに賭けたい。


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