第6話 最速の忍者
隣の通路から悲鳴が聞こえる前。
少し時間は遡り、トラとダイキを誘う為、サスケが家と家の間の横道に入ったところ。
サスケは一つ隣の通路へと飛び出した。
基本的に同じ作りの家が並び、同じコンクリートの地面。通路の広さもこれまで通り広い。
サスケは、少し進んだところで後ろを振り返り、抜けてきた横道を見る。
そこには赤髪のトラ、青髪のダイキが追ってきていた。
『このスピードについて来れるか。20くらいは素早さ振ってそうだな』
小さく呟く。
全力の1割も出していないサスケだが、それでも早いに決まってる。
それについてきたのだ。
少なくとも0ということはない。
そして、2人が同じ通路へ飛び出てくる。
お互いの間は20m程。トラとダイキは立ち止まり、戦闘姿勢をとる。
いつ戦闘が始まってもおかしくないこの場所で、1人異質な者がいた。
『ふっ! 俺1人に雑魚2人しか寄越さないとはな! お前らのリーダーは相当馬鹿だな』
そんな言葉を発し、忍者っぽいポージングをとるジャージの男。
そんなふざけたやつに自分達のリーダーを蔑まれたのだ、怒らないはずがない。
『ふざけてんじゃねぇぞ!』
『キジマさんを馬鹿にすんじゃねえ!』
2人がサスケに向かって突撃をする。
もう手を伸ばせばサスケを殴れるだろう位置。
だが、サスケは動かない。
『やっちまうぞダイキ!』
『たりめぇよ!』
2人が同時にサスケを殴る。
突き伸ばされた2人の腕が、ポージングをとったまま動かないサスケの顔を捕らえた。
サスケの両頬が拳で凹む。
そして、サスケは吹き飛んだ。
吹き飛んだサスケは、後ろの家の玄関を破壊しながら、さらに家の奥へと飛ばされていく。
木が潰れる音が辺りに響いていく。
埃や木材の破片が飛び散り、視界が悪くなる。
やがて音は鎮まり、目の前の家は半壊した姿に変わっていた。
『アイツ、キジマさんのこと馬鹿とか言ってたけどよ。自分が馬鹿だったな!』
『防御0だったんじゃねーか!? すげえ吹き飛んでいったぞ!』
思い切り殴った感触、急所に決まった時の感覚がふたりを包む。
2人はサスケのあまりの弱さに大声で笑い、勝利を確信している。
勝利を確信した時が一番油断している。
その光景を見るのは1つの青眼。
片目を隠した男だ。
半壊した家とは真逆。
傷ひとつない家の屋根の上。
見えるのはトラとダイキの2人の背中。
手に持つのは2本のクナイ。
踊る胸を押さえ、目を瞑る。
いける。
俺ならできる。
そうだよね?じいちゃん。
思い浮かべる光景はいつも同じ。
泣いて抱きつく俺の頭を撫でる、じいちゃんの姿。
そして、いつも同じ笑顔でこう言ってくれるんだ。
(お前は大丈夫じゃよ)
いつもと同じ声、優しい口調、大好きな匂いで返ってくる答え。
いつになっても忘れない。
じいちゃんの勇気をくれるおまじない。
心に、体に、全身に勇気の炎をくれる。
『ありがとう、じいちゃん』
そう呟いて、サスケは目を見開く。
全身から湧き立つ力を足に集中。
手に持つクナイを握りしめ。
思い切り屋根を蹴る。
素早さ248から生まれるのは、全てを置き去りにするスピードだ。
風を、音、時間までも置き去りする。
超高速移動。
一瞬で狭まる距離。
トラとサスケの背中が迫る。
両手に握るクナイを首の位置へ合わせる。
ここからはスピードの仕事だ。
俺の仕事は着地だけ。
クナイから伝わる何か太いものを切り裂いた感覚。
その感覚が伝わる頃にはもう着地だ。
目を瞑る。
両手に持つクナイを捨てて、両手両足で着地する。
こうしないとこのスピードは殺せない。
四肢を用いて着地。
揺れる青髪。
そうして、後ろを振り返り、目を開く。
今まで止まっていた時間が、突然動き出す様に。
サスケ以外の時間が動き始めた。
先ほどまで綺麗だった家の屋根は、とてつもない衝撃を受けたのを思い出す様に崩れ始める。
未だ生きていると思い込んでいる2つの顔面は、笑い声を上げながら空中へと投げ出される。
体は崩れ落ち、地面に倒れようとしているのに。
少し遅れて、死に気づいたのか、笑い声は途絶え、体と同様に地に落ちる。
『【分身】にも気づけないとわな。馬鹿はリーダーだけじゃなかったか。はっはっは!』
いつものサスケだ。
そして、勝利の忍びポーズを決めようとしたサスケの耳に不吉な音が聞こえる。
ぐちゃり。
何かの肉を刃物でえぐった様な音。
忍として鍛えられた耳に届いたその音の発信源の方向を見る。
サスケとトラとダイキが抜けてきた横道。
その奥だ。
今その奥にいるのは、ユウとキジマ。
その2人で刃物を持っている方は……
あの幼い少女を傷つけたであろうノコギリを持っていたキジマしかいない。
その光景を思い出したサスケは、全速力で、横道に突っ込んだ。
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