第5話 ユウ対キジマ 死の宣告

 Bチームのリーダー、キジマの言葉を合図に

ユウ、サスケ、キジマ、トラ、ダイキは走り出し、2vs3が始まった。


 この人数差はとんでもなく厳しい。【固有能力】や【スキル】という1人につき1つしか持てず、かつ、強力なものが相手は1人分多いのだ。


 数の有利はそう簡単に覆せるほど、単純なものじゃない。


 俺は、走りながらも、サスケが2人相手するという言葉を信じ、キジマに【覗き見】を使うと考えていたが、あまりに距離があると使用できないらしい。

 

 ハルトとのゲームで【覗き見】を使った時を考えると射程は10m程だと思う。


 俺達の後ろ。大体20mほど後ろにはユイと女の子がいる。

 後ろに行かせるわけには行かない。


 俺は敵との距離が20mほどのところで立ち止まり、これより先は行かせないと言わんばかりに通路の真ん中で止まる。


 そして、【覗き見】の射程である10mにキジマから入ってくるのを待った。


 サスケはというと、俺が急に立ち止まったのを見て、ここが俺とキジマの戦闘場所になると察してくれたらしい。


 だから、戦闘の邪魔にならない様、キジマ以外の2人、トラとダイキを引き付けるため、

加速して家と家の間の路地へと入っていった。


 俺達の動きを見て、敵のリーダーであるキジマが、指示を出した。


 『トラ〜、ダイキ〜、片目を隠したジャージのやつを頼んだよ〜』


 『おいっす!』

 『了解っす!』


 指示通りに赤髪のトラ、青髪のダイキが路地へと入っていった。


 サスケがうまく2人誘ってくれた。

 絶対にここでお前を倒す。


 小さな女の子にあんな傷をつけるなんて許せない。

 あの女の子は全く知らない子だったが、人を道具アイテムの様に扱い、傷つけたことがとにかく許せなかった。


 決意と怒りを全身に宿し、敵を向かい打つ覚悟を決めた。


 とうとうキジマが、【覗き見】の射程に入った。


 発動させる。


【プレイヤー名】キジマ ケンジ


【ステータス】

 Lv3

 状態:なし (解除済み)

 HP200 MP100 攻撃力50 防御力0

 能力攻撃力0 能力防御力0 素早さ0


【固有能力】巻き戻しLv1

 消費MP50 任意の時間、自分と自分の触れているものの時間を巻き戻す。

 Lv1 0〜5秒前までの時間から選択可能。

【スキル】闘争本能Lv2

 MP消費0 常に発動。

 自身の攻撃により対象を出血させるほど攻撃力上昇。

 Lv1 10mLで1上昇

 Lv2 5mLで1上昇


 そうか、こいつ【スキル】の効果を上げるため、あんな小さい子を傷つけたのか。


 コイツへの怒りが更にこみ上げ、俯く。


 やっぱり許せない。


 いくら【スキル】のためだからと言っても傷つけて良い訳がない。


 それに、すごくイライラする。こんなにイラつくのは久しぶりだ。


 『本当にクズ野郎だなお前ッ!!』


 心では抑えられない感情を声に出し、顔を前に上げキジマを睨む。


 もうキジマは目の前にいて、右腕を上げ、手に持つノコギリを光らせていた。


 俺は作戦を考える以前に、怒りが頭の中を支配し、この接近を許してしまった。


 【覗き見】を使用したって、時間が止まるわけじゃない。相手の【ステータス】を見て、作戦を考える時間が必要になるのは勿論だ。


 それに今回の相手はLv3、戦闘経験も俺より豊富だ。相手が隙を見せているのに仕留めないわけがない。


 思い切り振り下ろされたノコギリを紙一重で左に避ける。


 ハルトとの試合で、攻撃力100にしていたのが仇となる。

 不意を突かれた攻撃だった。

 だが、ギリギリ避けることができ、髪の毛数本持っていかれるだけで済んだのは奇跡だ。

 


 キジマのノコギリが地面に当たり、コンクリートの地面を削り取る。


 とてつもない威力。攻撃力50の本気のスイングだ。地面は悲鳴を上げるようにひび割れた。


 あぶね!! 怒りで頭の中がごちゃごちゃになっていた。ひとまず距離を取らないと!


 距離を取るために俺は【固有能力】を使った。

 

 【ステータス】変化

 攻撃力100→0


素早さ0→100


 素早さ100なら逃げ切れる。

 そう思っていた俺は、見逃していた。


 【スキル】ばかりに気を取られていたから。


 ノコギリのスイングが外れ、地面を削った直後、俺は距離を取るため、後ろを振り向いた。


 振り向き様に、キジマが笑った気がした。


 そして、背をキジマに向けた状態の俺に、一つの情報が届く。


 それは、【スキル】のレベルアップゆえの死の宣告となった。


 【相手ステータス】変化報告

 MP100→50


 俺は、何が起きたのか、瞬時に理解し、背筋が凍る。


 俺の【スキル】覗き見のレベルアップによる効果。


 【スキル】覗き見Lv2

 MP消費50。

 Lv1 任意の物や相手のステータス画面を見れる。

 Lv2 MP消費量の低下、


 キジマのMPが50減った。


 つまり、【固有能力】か【スキル】を使ったことになる。


 【スキル】は気を取られてたのもあり、よく覚えている。


 だが、奴のスキルの消費MPは0だ。


 となると、【固有能力】を使ったことになる。


 瞬時にその考えにいたった俺は奴のステータスをもう一度確認した。


 【固有能力】巻き戻しLv1

 消費MP50 任意の時間、自分と自分の触れているものの時間を巻き戻す。

 Lv1 0〜5秒前までの時間


 ってことは……


 その考えに至った瞬間。

 死の宣告を受けてから、走馬灯のように長かった時間が終わった。


 後ろを向いて走り出す直前。

 左目のすみで先ほど自分を殺しかけたノコギリを確認しようとする。

 本当にさっきまで、真横に刺さって地面を削っていたノコギリと、それを掴んでいた腕は消えていた。


 そして覆いかぶさっている影。

 先ほどまでは、俺の左にあった影。

 影は俺を目掛け、スイングしていた。


 ノコギリを振る前に時間を戻しての2連続スイング。


 避けられない。

 

 避けるには遅すぎた死の宣告。

 

 そして、キジマの一振りにより、通路の中心から、赤い液体が飛び散った。


 

 

 


  

 

 


 


 


 


 



 


 




 

 

 


 


 


 


 




 

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