第1章 殺し合いのゲーム
第2話 1vs1死の恐怖
ユウは絶対に人を殺すなんてしないと決めていた。
殺し合いなんて馬鹿馬鹿しい、相手だってそう思っていると、信じていた。
一緒に協力して、ここから出ようと、相手に言うつもりだった。
だが、それは叶わなかった。
ドアを開く。
その部屋は今までとは全然違う光景が広がっていた。
床には畳が敷き詰められ、壁は障子、天井も木で作られていて、和室を彷彿とさせている。
形も今までと違い、直方体になっている。
広さも大きく、体育館1つ分と言ったところだろう。
あまりに広い和室作りの部屋を中央に向かって歩いていく。
その途中、自分の正面の壁のドアからも1人の男が出てくる。
身長は俺より少し高い180cmほど、特徴的な赤い髪と、怖い風貌、金属アクセサリーをジャラジャラつけている。
ユウギみたいな狂っているやつかもしれない。
慎重に会話をしないと…
そう考えている間に中央に着く。
また突如、テレビ画面が現れる。
『さあさあ、ゲームを始めるよ!
今回のゲームは…1vs1!
ユウvsハルト
お互い10歩ずつ後ろに下がって距離をとってね!』
お互いに距離を取る、お互いが10歩ずつ距離を取ったことで、20メートル程の空間が開く。
『じゃあ始めるよ!レディースタート!!』
始まった瞬間俺は、両手を上げ、戦意がない事を表した。
『俺は戦う気がない!ハルトっていったな、ここは俺たち協力しよう、お前も連れてこられたんだ…』
俺が話を中断された理由はとてつもない痛みが左腕を襲ったからだ。
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!』
痛みがひどく、立っていられずに倒れてしまう。
必死に傷口を手で抑えながら自分左腕を見る。
そこには大きな円形の穴が開き、血が漏れ出ていた。
『お前さ、馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。協力しよう? 笑わせるな、できねえんだよ! このゲームに参加させられたらな!』
ハルトと言われていた彼の手には銃が握られていた。
あんな小さな銃なのにこんなに威力が高いのか!?
血が溢れて止まらない。
『なん……でっ! 待ってくれ、殺さ……ないでくれっ!』
あまりの痛みに声もかすれ、息が整わない。
突然として芽生えた、死の恐怖。
怖い。
死ぬ。
生きたい。
出てきた感情はそれだけだった。
『お前もういいわ。このゲームのことなにも知らない初心者かよ。初心者は勝っても全然ポイントもらえないんだよなぁ〜。まあいいや、少しでも俺のポイントになって役にたてよな』
ハルトが引き金を引く瞬前。
俺は走り出していた。
死にたくないと、行きたいと叫ぶ余裕はないけれど、思いを体に宿して、全力で走った。
隠れなきゃ! 死ぬ!
この和室ステージには、家具も置かれている。
長方形の机に座布団、布団など、部屋に合った家具が置かれている。
片手だけで、机を起こし、せめて銃で撃たれてもいいように、机の裏に隠れた。
やばいやばい、あいつは本気で殺しに来てる。
『やらなきゃ、やられる!』
そう思ってしまった。
机から少し顔を出しハルトを観察する。
ハルトは歩きながらこっちに迫ってくる。
『おいおい! 男が尻見せて逃げるなんて、だせぇだせぇ。俺はもともと、撃つより殴る方が好きだからよぉ。トドメはこいつで決めてやるよ』
そう言うと、ハルトの持っていた銃が変形し、丸くて黒いビー玉のようなものになり、そこからさらに変形して、バットになった。
『さあさあ、俺を少しは楽しませてみろよ!』
どんどんと近づいてくる。
なんだあれ!
銃からバットになったぞ!
あれがハルトの能力なのか?
俺が今できる事を考えろ…
ひとまず俺は【スキル】である覗き見を使って見ることにした。
スキルや能力は頭で使うと思った瞬間に発動できるみたいだ。
ハルトを覗き見する。
そう考えた瞬間。ハルトのステータスが頭の中に入ってきた。
【プレイヤー名】イチカワ ハルト
【ステータス】
Lv2
状態:なし (解除済み)
HP100 MP120 攻撃力80 防御力0
能力攻撃力0(80) 能力防御力0 素早さ0
【固有能力】武器生成Lv2
消費MP60 特定の物質を特定の武器に変えられる。
Lv1バット Lv2銃 に変えられる。
【スキル】
攻撃力リンクLv1
消費MP0 常に発動。
攻撃力または能力攻撃力にステータスポイントを振った場合、どちらにも同じ値振った効果がでる。
ハルトの【ステータス】が頭の中に入り、相手のことが分かり、少し落ち着いてきた。
一度深呼吸をして情報を整理する。
さっきは死に物狂いで気づかなかったが、
走って逃げる俺が捕まらなかったのは素早さの値がハルトより高いからだろう。
それにハルトは俺を初心者と舐めて、じわじわ心を削る様に歩いて移動している。
そして何より、あの小さな銃でこんなに左腕に穴が開くなんておかしいと思っていたが、ハルトのステータスは【スキル】の効果もあり、攻撃力にばかりポイントを振っている。
その【ステータス】が影響して、あの銃を化け物染みた威力にしているんだと思う。
しかも、よく観察して分かったがハルトが撃った銃弾はBB弾だった。
『BB弾でその威力は化け物すぎだろーが』
馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
『【ステータス】の恩恵はそんなに大きいのかよ』
小さく呟いた自分の言葉が何かに引っ掛かった。
いや、待てよ。
【ステータス】の恩恵があそこまで凄いものならば、俺の【固有能力】変換でステータスを振りなおせば一発逆転だってあるんじゃないか?
俺のMPは【スキル】覗き見で100消費され、今は0だが、俺の【固有スキル】変換は消費0だから使える!
俺は初めて、人を倒すための作戦を考えた。
『おいおい、いつまで隠れてんだよ!』
バコンっ!
攻撃力80の力でふるわれた能力攻撃力80のバットは単にバットを振っただけとは思えない威力で木製の机が弾け、粉々の破片が飛び散る。
机が弾ける瞬前、俺は能力を発動させた。
【ステータス】変化
攻撃力20→0 防御力20→0
能力攻撃力20→0 能力防御力20→0
素早さ20→100
俺は素早さにポイントを全て振り直した。
自分の体は本当にあるのかと思う程に体が軽い、自分が早くなったと確信させられる様にハルトの振るうバットが遅く見える。
ハルトがバットを振り下ろす瞬間、俺は踏み込む足で畳を焦がしながら超加速した。
そして、バットを全力で振り下ろしたハルトは異変に気付く。
今までの様に肉を潰した感覚がバットを通して伝わってこないことに。
『どこに消えやがった!?』
混乱し、叫ぶハルトは背中の気配に気づけない。
ユウはハルトの背後に回っていて、拳を握りしめた。
ハルトの背中に死が迫る。
顔だけだが、咄嗟に振り向けたのは、少しでもこのゲームで勝ってきた者の勘なのだろうか。
【ステータス】変化
素早さ100→0
攻撃力0→100
殴る寸前、俺は【ステータス】を変えていた。
殴る前の素早さ100の速度の慣性と攻撃力100の力が相まって、とてつもない威力となった拳がハルトの頬にめり込み、遥か遠くへ吹き飛ばす。
骨が砕けたのだろう、腕には何かを砕いた感触が伝わってきた。
ハルトは遠くで倒れたまま、動かない。
ひとまず安堵し、大の字で寝転ぶ。
出血がまだ少しある左腕の痛みなど感じないほどに疲れていた。
『つかれ……た……』
それを言い残し、俺は目を閉じた。
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