ノーオンライン

おじいちゃん

第0章 殺し合いの世界へようこそ

第1話 殺し合いゲームの始まり。

 この日、日本各地で行方不明者が出た。


 だが、誰1人この事件を知る事はなかった。


 いや、誰1人この事件に気づけなかった。


 まるで初めから存在していなかったように。


 この事件を機に、僕は殺し合いのゲームに巻き込まれることになった。



 『さあ、ゲームの始まりさ!』

 オレンジ色の短髪に中性的な顔立ち、幼い少年にも少女に見える体は、喜びを全身に出し、高らかに宣言した。



 誰にも気づかれない事件から数時間後。


 硬い感触を背中に受けながら、俺は目を覚ました。


 『いてて、背中が痛い』


 ひとまず状況を理解するために、立ち上がる。


 長い時間同じ姿勢で寝ていたのだろう。

 服には強くシワがやっていて、アイロンでも直すのは時間がかかりそうだ。


 あたりを見渡すと、コンクリートの打ちっぱなしで天井、壁、床の全てが覆われた正六面体の部屋。

 正面の壁には木で出来たドアがある。


 俺が知らない場所だ。


 なぜここにいるのだろう?ここにいる経緯を思い出そうとしたけど、思い出せない。

 自分の名前や住所、基本的な事は覚えているのに、この場所に関する事は何も思い出せない。


 『どうしよう……誘拐? 拉致? でもこの場所で思い当たる事は何もないし…』


 そんなことを考えていると。


 ビコンっ!


 突如、何かの電源を入れる様な音と共に、目の前にテレビ画面の様なものが現れた。


 画面に映るのは、オレンジの髪と幼い顔。

笑顔で笑う。無邪気そうな子供だ。

 そして、その子供は喋り始めた。


 『やあやあ! 聞こえるかい! 

  スズキユウくん

  僕の名前はユウギ! 

  こらからよろしく!

  何がどうなってるんだって顔してるね〜

  知りたいのなら、さあドアを開けて!

  ゲームを始めよう!』


 ビコンっ!


 目の前のテレビ画面が消え、現実に戻される。 


 『なんだ……今の……』


 あまりに突然の出来事で、理解をするのに時間がかかった。


 あの子供が、俺をここに連れてきた犯人かなのか?


 『ここにいても何もわからないし…とりあえず行ってみるか?』


 立ち上がり歩き始める、不安と緊張の中、眼前のドアを開け、中に入る。


 その部屋は先ほどの部屋と同じ形、天井、壁、床でできていた。

 そして次の部屋に繋がるであろうドアがあった。

 だが一つ違うものがあった。


 それは、部屋の中心にスロットマシーンの様な物とイスが置いてある事だ。


 子供なら、いや、大人でも絶対にワクワクさせられる様な派手な色と音楽を流していた。

 こんな状況でなければ。


 『怪しすぎるだろ……』


 知らない場所で、こんな怪しい機械をやれってか?


 さっきのユウギとかいう子供が言ってたゲームってこれのことか?


 様々な考えが頭をよぎるが、硬い床に座るよりは良いと、スロットマシーンの前のイスに腰掛けた。


 スロットマシーンをよく観察してみる。

 イスと同じく全体的に赤色に染められ、所々には装飾の様に金色が使われていた。


 よく知られている、スロットマシーンとは違い、画面とレバーのみが付いていて、プレイ可能数1と表示されている。


 『うーん……とりあえずいきなり変なことされるわけでもないと思うし……無料で1回できるみたいだし……やってみるか!』


 思い切ってレバーを引いた。


 参加登録完了。


 一瞬そう表示されたように見えた。

 

 ピロピロピロピロ…


 画面がスクロールを繰り返し、やがて止まった。


 その画面には以下のことが表示されていた。


【プレイヤー名】スズキ ユウ


【ステータス】

 Lv1

 状態:呪い

HP100 MP100 攻撃力0 防御力0

能力攻撃力0 能力防御力0 素早さ0


ステータスポイント残り:100

【固有能力】変換Lv1

MP消費0。ステータスの振り直しができる。


【スキル】覗き見Lv1

MP消費100 任意の物や相手のステータス画面を見れる。


 『なんだこのゲーム画面みたいなのは……』


 俺の名前が書いてあるし、俺のステータスってことか?


 てか、呪いってなんだ! きみわるいな!


 ビコンっ!


 画面が切り替わる。


【ステータスポイント振り分け】

100ポイントあるステータスポイントをお好きなプレイスタイルに合わせてお振りください。

各ステイタス最大100ポイントまで振ることができます。


 『本当にゲームみたいだな』


 HPとMPを除く5つのステータスは全て0と書いてあるがこれからステータスポイントを消費する事で、増加するんだろう。


 『俺には固有能力っていうので、ステータスをいつでも振り直せるならしっかり考えなくても大丈夫だろう!』


 そんな考えで、俺はHPと MP以外の5つのステータスに、均等に20ずつ振ることにした。


【ステータス】

HP100 MP100 攻撃力20 防御力20

能力攻撃力20 能力防御力20 素早さ20


 そうして俺のステータスはこうなった。


 ビコンっ!


 ステータスを振り終えた画面はすぐに切り替わり、

 1人の子供を映し出す。


 『やあやあ!

  ステータスが決まったようだね!

  さあここからがゲームの始まりさ!

  僕が選んだ君を期待してるよ!』


 画面に映るユウギは俺に向かって言葉を紡ぐ。


 『ゲームってなんだ! なにをすればここから出してもらえるんだ!』


 『君には今から殺し合いをしてもらうよ!最初のゲームは1vs1さ! 勝った方には生きる権利と勝者ポイントが与えられる! ここから出たければ勝者ポイントを貯めることだね! あっそうそう! 負けたら死ぬから気をつけてね!』


 は?


 殺し合い?


 死ぬ?


 意味がわからない。


 『ふざけないでくれ! たしかに勝手にスロットマシーンをいじったのは悪かった。だから今すぐ出してくれ』


 『ごめんね〜。それは無理なお願いかな〜。出たければ実力で相手を殺し、生き残ってポイントを貯めるのが最短だよ。ちなみに僕に逆らっても君は死ぬよ!

君の状態異常、【呪い】は僕の能力さ! 命令を聞かない者を殺す力。逆らってみてもいいけど…その瞬間に君はパーさ!』


 『殺せ?なに言ってるんだ! 人を殺すなんてできるわけがない!』


 『まあいいさ! 僕から言える助言はこれだけ! どんな手を使ってでも相手を殺せ。自分の全てで殺せ。やられる前にやるのさ。ここでは相手を殺すことだけ考える。これが生き残るコツさ!』


 意味がわからない。

 狂ってる。

 そうとしか思えなかった。


 『1ゲーム目を体験してみればわかるさ! 殺さなければ死ぬってね。じゃあ、健闘を祈っているよ! ユウくん!』


 ビコンっ!


 電源が切れる音と共に、画面は黒く染まる。


 この時の俺は、ユウギの言葉なんて聞かず、殺すなんて事は絶対にできないと自分でも信じていた。


 対戦相手だって人を殺すなんてできるわけがない。


 だから、協力して馬鹿馬鹿しいこの場所から脱出することを誘おうと心に決めた。


 この決心を胸に、次の部屋へのドアに手をかけた。


 だが、この決心はすぐに崩れることとなる。


 ユウギが言っていた事は、なに一つ間違っていなかった。


 そう、思わされるほどの何かがこの先に待ち受けている事を今の俺は知らなかった。

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