第9.5話 妹の事情

コン、コンとドアがノックされる。

「利奈、ちょっといいかな?」

兄の声だ、今頃何の用だろう?

今日自転車貸したお礼なら夕食後にケーキをもらった。

「うん、いいよ」

模試の自己採点中だったが、とりあえず用を聞くことにした。

ちょうど7教科の中で3教科が終わったところだった、

兄が入ってきた、

「模試、どうだった」

「まあまあ」

だいたいまだ採点終わってないの。

「あのさ、なんか困ったことないかな?」

「別に」

自己採点中断されて困っているんですけど。

兄はメモのような紙を机に置いた。そこには電話番号が書かれていた。

「これ、お兄ちゃんの友達で、あ、女の人なんだけど」

そういうことか、だいたいわかってきたので、先回りして言ってみる。

「沙織先輩でしょ」

「あ、そうそう、そういえば二人会ったことあるんだっけ」

まったくコイツは何も分かっていない。

うちの学校では沙織先輩は超有名人なのだ、それも憧れの。

幼馴染のクソださ男を好きになり、一途に追っかけて、どんな男に言い寄られても相手にしなかった伝説の持ち主。

しかも推薦入学の話を全部断って、あえて受験してその男と同じ大学へ行ったのでした。

問題はその男といのが、目の前にいる兄だということ。

こんな都市伝説レベルのクソださ男の妹だなんてバレたら、私の高校生活終わってしまう。だから私は学校では一人っ子といことにしている。疑われたこともあったが、その度に『わたし、一人っ子なんですよ、お兄ちゃんってなんか憧れちゃいます』と誤魔化してきた。

だいたい沙織先輩もなんでコイツがいいんだろ、兄は母が買ってきた服しか持っていないようなださ男なのに。

だけど二人はうまくいってなかったんじゃ?

二人が別れたとこいう噂を聞いたのは1年の冬頃だった。ちょうどその頃から、兄はバイトに没頭していった。

夜中に帰ってくる日が続き、家に帰らない日も多かった。

大学にもろくに行ってないようで、母は心配していたが、父はほっとけばいいさと兄に任せた。

家にアニメのDVDやフィギュアが届くようになったのもその頃からだ。

今でもたまに届く。

母とそのうち売りに行こうと計画中だ、もちろん兄の留守中に。

もしかして二人は今日寄りを戻してきたのかもしれない。

「お兄ちゃんが今日会いに行った人って、もしかして沙織先輩?」

「違うよ、違うって」

動揺しすぎだって。

「ほら、そう街で会ったんだよ、たまたま」

はい、はい。

「それで利奈の自転車乗ってたから、妹さんはどうしてるって話になって」

チョロい、チョロすぎる、お前は埼玉銘菓かつーの。

「受験とかいろいろと相談にのってくれるっていうからさ」

「ふーん」

私はあえて興味なさそうに返事をした。

「それじゃ、困ったことがあったらさ、連絡してあげて」

なんで”してあげて”なんだろ。

「あと、メッセージアプリも入れてるみただから、そっちでもいいから」

言うだけ言うと兄は出て行った。

いやいや、メッセージアプリんなんて入れてる当たり前でしょう。

スマホに入れてない人なんてお兄ちゃんくらいだよ。

だいたい家族で使おうってなったときに嫌がったはお兄ちゃんじゃないの。

おかげでうちの家族グループにはお兄ちゃんは入っていない。

 さてどうしよう。

今日兄と沙織先輩はよりを戻した、あるいは関係を戻すようにした。

そもそも、あの二人は何で気まずくなったんだっけ。

沙織先輩が兄を振った?いやいや、それはないって。

沙織先輩が他の人と付き合い始めたという噂も伝わって来なかった。

高校時代に他の誰にもなびかなかった伝説の人だよ。

兄の方が浮気した?こっちはもっとない。

だいたいアニメとか2次元に逃げるヘタレだし、

兄が私や母に気づかれることなく浮気できるわけがない。

沙織先輩のことだって私が知らないと思っていた。

二人のことは私だけでなく、母だって知っている。

前に母に聞かれたことがあったけど、わからいとしか答えられなかった。

ただ、あの頃の兄はただ逃げているだけじゃないかなと思っていた。

何かから・・・

ある答えが浮かんできた。

そう、沙織先輩は私を利用して兄を逃がさないようにしたいのだ、

兄とよりを戻して今度は逃がさないように。

それなら私のやることはひとつだけ、気持ちよく利用されてあげればいい。

沙織先輩に逃げられたら、兄は一生独身かもしれないし。

これからの受験勉強でで沙織先輩のアドバイスが受けられることは

私にとってめちゃめちゃ心強い。

ふふ、このことを母に話したら、どんな顔をするかな?

私は自己採点を早く終わらせることにした。

なんとか今日中に沙織先輩に電話しなくちゃ。

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