第6話 商品リスト

説明を次に進めることにする、まずは落ち着こう。

「あと、Aさんに必要なものは何だかわかる?」

沙織に質問してみる、沙織は考え始める。

答えが出るまで待ってみることにする、これでかなり落ち着ける。

沙織は何か気づいたように答えた。

「もしかしたら、これってメールの一斉送信みたいなもの?」

かなり近い、やはり沙織は鋭い。

「そう、出力されるのが、メールじゃなくてオークションなだけだ。メールの一斉送信に必要なものは?」

「えーと、一斉送信リスト」

答えにたどり着いたようだ。

「一斉創始リストにはメールアドレス、じゃ出品ツールに必要なリストは?」

「えー、わかないよー。ヒントは?」

まあ可愛いからヒントをあげよう。

「オークションに出品したい品物、商品にたどりければいいんだ」

まだ考えている、こういう時に正解を言ってしまうとんでもないことになる。

以前にも同じことをして1週間も機嫌が悪かったことがあった。

おれはなんとなくあるしぐさをしてみる、コンビニのレジでバーコード読み取るしぐさだ。

「あ、バーコード!」

あたっってくれた、ちょっと安心する俺。

「そう、でも正確にはバーコードじゃないんだ」

「えーバーコードでしょ、ぴっとやればお買い物したものがぱっと出るじゃない」まったく擬音の多い子だな。

「本質は同じなんだが、”みっつリーン”では独自のコードを使ってるんだ」

沙織はまだ不満そうだっが、続けよう。

「バーコードはJANコードまたはEANコードと呼ばれるんだが、これは日本やヨーロッパ、アメリカの品物には付けられが、その他の国のものには付かない。それじゃ困るんで”みっつリーン”では”Mコード”と呼ばれる独自のコードを使っている」

さすがに”Mコード”は知らないらしく、おとなしく聞いてくれている。

「それじゃ、その”Mコード”のリストからオークションに出品してるの?」

「そう、”Mコード”は”みっつリーン”で販売している品物にあって、間違えることなくその品物の情報にアクセスできる」

これでツール出品の入力、出力と出荷オペレーションの説明は完了。

沙織もちゃんと理解しているみたいで、安心した。

「それじゃ、Aさんがそのリストを作っているの?」

沙織が質問してくる、今回は先回りされた形になる。

「Aさんじゃないから、正確にはわからないが」

俺は闇に踏み込むことにした。

「Aさんはリストを作っていない、誰かが作ったリストを使っているだけだと思う」

沙織が不思議そうな顔をする。

おれは根拠を示すため、ノートPCを操作する。

Aさんの電気掃除機のオークションページの類似のオークションを見せながら

「Aさんの掃除機はこれだけ他に出品されている」

沙織がうなずくのを確認してそのなかで一番安く、かつ送料無料のページに移動する。

沙織も確認する。

「この人も”みっつリーン”のツール転売者なんだ」

タブレットでも同じ商品を見せる。

「あれ?”みっつリーン”とよりちょっと高いお値段ね、だけどこっちは送料無料だから、」

Aさんよりも利益を低く設定しているのに気づいたようだ。

「損はしてないけど、利益は少ないよね」

沙織がそう思うのも無理はない。

「だいたい”×オク”の手数料くらいが上乗せされている。一見利益0みたいだが」

俺は説明を進める。

「ところが利益はあるんだ、売れた分だけ”みっつリーン”のポイントがたまる」

そして出費者の評価数を指す、そこにはAさんの20倍以上の数字があった。

「安いから取引が増える、扱い量が増えればそれだけ入ってくるポイントは多くなる」

納得する沙織、彼女も”みっつリーン”のポイントのことは知っているはずだ。

こういうやり方もあるのねと言いたげだが、だがAさんの立場ではこれの意味するとこは変わってくる。

「この人がいるおかげで、Aさんの掃除機は売れない、いや売れる可能性が限りなく低いということになる」

そう、Aさんは売れるはずのない物品をオークションに出している、それも何百と。

「どうしてAさんはこの”ポイント”さんみたいにしないの?」

沙織は神妙に聞いてくる。闇に踏み込んでいることを感じたようだ。

「これも本当のところはわかない、なにか事情があるのだろうけど」

俺が言い切ることができるのはこれだけだ、Aさんは自分のオークションページを見ていない。

俺が口ごもっていると沙織が睨んできた、子ども扱いはやめてと目で言っているように。

「弘樹が思っていることを教えて」

そういう沙織の声はいつもと違っていた。

「ここから先はすべて俺が勝手に思っていることなんだが」

俺は自分が思っていることを言うことにした。

「Aさんは誰かに商品リストを、貰っている。ツールの代金もしくは月額の使用料を払っている誰かに」

「代金?」

聞き返す沙織、スマホのアプリのように無料で配っていると思っているのだろうか?

「俺が思うにこのツールの代金はかなり高い、または高い使用料をふんだくられてる」

納得していない沙織に俺は質問してみることにした。

「たとえばこのツール、20万円と5千円のがあったら、沙織はどっちを選ぶ」

すこし迷って沙織が答える。

「うーん、やっぱり20万円の方かな」

そりゃそうだろ。だが現実は違う。

「でも5千円の方が優れている場合だってある、20万円のソフトに何の価値もない場合だってある」

沙織の常識では理解できない世界だろう。

「高い方が良いというのは現実に存在しているモノものの世界なんだ」

一般に流通しているかという観点もあるが、ここでは省略する。

「極端な話、ソフトウエアには正確な値段なんてものはない」

飛ばし過ぎたせいか沙織はまだ戸惑っている。

「でもタダじゃできないよね?」

またしても沙織はいいトスを上げてくれる。

「そう、原価はある、タダじゃ開発できない」

そうよねと沙織がうなずく。

「でも原価と値段つなり価値が一致しないのがソフトウェアなんだ」

俺は例を出すことにした。

「沙織だって無料のアプリを使っているだろ?」

うなずく沙織。

「それだって」開発費はかかっている、沙織は一円だって払ってないだろ」

「そうだけど」

あまりゲームに課金している沙織はみたくないが。

「そのアプリは広告を表示することで価値を生み出している、それと誰かが広告をクリックすることにも」

沙織のあっという表情を確認して俺は続けた。

「正確な価値は何台の端末に広告を表示できるか、そして何人がクリックするかで決まる」

ちょっと考えてから沙織が聞いてくる。

「弘樹はそのツールにはお金がかかっていないと思うの?」

俺は自分の直感を素直に口にする。

「ああ、いろんな動きから、かなり粗末な出来だと思っている」

商品イメージの加工からみて素人が作ったものだ。

枠を描きたいなら、外枠から12ピクセルを塗りつぶせとプログラムすればいい。

またはイメージをパーツ化して繰り返すように配置させるプログラムだ。

設定したテキストを配置するのもいい、テキストを自由に入力できるようにすれば喜ばれるし、フォントだって凝ったものが使えるようにしたい。

どのやり方でも”あいちゃん”なら魅力的なイメージを作ってくれる。

「値段の高いことに意味があるんだ、高ければそれだけ稼げると信じやすい」

俺は人間性が疑われることを覚悟して核心を伝えた。

壺だって安かったら誰も信じない、あの値段だから御利益があると信じられる。

この利益を生むツールが安い値段だったら、誰も買わない。

利益なんてでないと疑うから、でも高い値段がついていたら人は迷う。

数か月で元が取れると言われた信じてしまう、商品リストもそうだ。

こんな商売をする奴らがまっとうな訳がない、アウトなことを平気でやってくる連中だ。

できるなら沙織や沙織の家族にはもうこれ以上かかわって欲しくない。

考え込んでいた沙織が口をひらく。

「Aさんは騙されているの?」

神妙な表情で沙織が言う、俺のことを軽蔑しているだろうか。

「たぶんね」

俺はそう答えるのが精一杯だった。

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