第3話 接近

妹の話題を終わらせたころに、さっきのお姉さんが注文をとりにきた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「アイスオーレを」

アイスカフェオレのことだが、ここでは”アイスオーレ”と言わなければならない。

メニューではアイスカフェオレと表記されているのだが。

「ガムシロップはお入れしますか?」

これもこの店独特のやりとりになる。

「入れてください」

ここでの選択肢は”入れる”or”入れない”の二つしかない。

”入れる”を選択すると、ガムシロップが入ったドリンクが提供される。

ガムシロップがポーションや容器で別途提供されるスタイルではない。

俺はエコを先取りしたものとしている、知らんけど。

まったく、少し入れたい、たくさん入れたいという人はどうしているのだろうか?

「かしこまりました」

お姉さんがカウンターのほうに戻っていく。

俺がオーダーしている間、沙織はにこにこしているようだった。

どうせ、沙織相手に見栄を張ってもしょうがない、俺は甘党だし猫舌なのだ。

こちらの勘定はおそらく沙織持ちになるだろうから、ドリンク一杯にしておこう。

ソフトクリームを使ったスイーツが好みなのだが、頼むのは気が引ける。

ましてかわいい女の子の前で若い男がスイーツを食べてる江面はどう見ても美しくないのだ。

さてあのお姉さんには俺と沙織の姿は一体どう映っているのだろう?

兄妹には見えないだろうし、やはりカップルになるのだろうか?

カップルなら不釣り合いなカップルと思われていないだろうか?

「えーと、本題なんだけど」

妹の話題を終わらせることにする。

「あ、そうだったね」

沙織が脇に置いたノートPCを取り出す。すでに電源は確保されているようだった。

バッテリーを気にしながらということにはならないようだ。

沙織がノートPCを開く、新しそうな機種で性能でイラっとくることはなさそうだ、

「WiFiにはつなげた?」

ネットの接続状況を確認する。ネットなしでは何も進まないからだ。

すると沙織がノートPCを手渡してきた

「はい、」

またしても笑顔だった

やってね、ということだ、まあ初めから期待はしてなかったが。

それでもよその家のPCの設定をいじるのは緊張する、PCの一番重要な設定を変えることになるからだ。やましいことをするつもりなどなくても。

ノートPCを受け取ると、キーボードの下のポインタを操作する。

いわゆる普通のPCなのでコントロールパネルをさがす。

そこからの手順はいつもやっている通り、接続設定を有効にしてWiFiを拾えるようになるまで、1分くらいか。

設定が終わりネットが繋がったことを確認してノートPCを返そうとする。

だが正面にいたはずの沙織がいない。

「よいしょっと、」

ちいさな掛け声のようなものと同時に沙織が俺の隣に座ってきた。

膝にひと肌がふれた感覚が伝わる。

と同時に甘い匂いが鼻に使わってくる。最初は石鹸のような香り、続いてなにやら甘い香りが続く。二つの香りはお互いにいがみ合うことなく調和しているようだった。遅れて別の香りがやってくる、顔のあたりだからシャンプーの香りだろうか。

沙織のセミロングの髪が揺れたようだった。

こちらも先ほどの香り達と調和した良いものだった。

匂いから記憶がもどるというが、沙織からこんな香りはしなかったはずだが。

俺からノートPCを受け取るとお沙織はキーボードを打ち始めた。

沙織の様子を眺めているとさきほどのお姉さんが、ドリンクと豆菓子を運んできた。

心なしか視線が痛い、先ほどとは明らかに違う視線を向けられている。

そんなにニヤけてはいないはずだ、落ち着け俺。

ドリンクとおまけの豆菓子を置くとお姉さんは戻って行った。

さきほどよりも早いい足取りで。

俺がストローを取り出し、アイスオーレに一口つけたあたりで沙織の作業は完了したようだった。

「これなんだけど」

沙織がノートPCをちょうど二人の間に置いた。

ノートPCのブラウザには”×オク”のページが表示されていた。

オークションページの確認を始める。

このオークションは終了しています、これは問題ない。

次にログインIDの確認、取引連絡などは当事者のIDでログインしていないと見られないからだ。

ん、ユーザIDのなんか変な単語が目に入ってくる。

「この lovely kirakiraなんとかって、沙織のID?」

返事がない、横をみると真っ赤な顔をしてにらんでいる。

そこに触れないでオーラを全開に出してるようだ。

しばしの沈黙の後、沙織が口を開いた

「お母さんのよ」

沙織の母親には一度だけあったことがある。中2の体育祭の準備で沙織の家で打ち合わせをしたときだ。男女4人くらいで沙織の部屋に集まったときにお茶を出してくれたの覚えている。沙織はこの母親に似たのだとそのとき思った。いまも若くてきれいでいるのだろうか?

しかい、あのきれいな母親がラブリー・キラキラ・サヤカとは、人の闇を感じつつうページの確認を続ける。

ふと沙織が小声で言った。

「パスワードなんかもっとすごいんだから」

おそらく今日のために母親からユーザID、パスワード聞き出してきたのだろう。

この母娘がどんな会話をしたのか興味がわいた、その禁断のパスワードにも。

俺はこれ以上沙織を傷つけないように調査を続けることにした。

借りたノートPCを駆使して情報の収集を始めた、ログインアカウントのおかげで必要な情報は確認できるだろう。

俺はまず問題のオークションから手を付けた。

予想通りそれはある作法を守って作成されていた、くそ面白くも無い代物だ。

それでも特別なものは無いかと見返していると、俺はある違和感を感じた。

その違和感から糸を手繰るようにサイトを渡っていく。

今回の事件がだいたいわかってきたのは5分後くらいか、その時は沙織は立ち直っていたようだった。

「だいたいわかった」

俺は沙織に調査が終わったことを伝えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る