ゲーム&プレイ

 視界が開き、始まりの街『トータス』と目の端に表示される。

 周りを見渡すとファンタジーゲームにありがちな中世をモチーフにした町並みが広がっていた。ただそれだけではなく、所々に機械的なものが浮遊していた。

 それには電気とか科学的なものが付属しているようには見えないので、魔法とか不思議な力で作られた設定なのだろう。

 他に何かあるのかと見渡していると周りにはたくさんのプレイヤーと思わしき人たちが街の中を歩いていた。

 背中に大きな盾や剣を背負う男性、身長ほどの大きな杖を持ち修道服に似た装備をして歩く女性、頭から足の先まで鎧に身を包まれた人。

 見ているだけでワクワクが心の底から湧いて出る。


「あっ、そうだ」


 僕は身体を見下ろして自分の姿を確認する。

 素朴ではあるが服を着ており、足にはあまり綺麗ではない靴を履いていた。服は少し触ると少しざらついている布の感触で、現実で日常的に着ている服よりは質は良くないようだ。

 なんとなく襟を引っ張り、その中を見る。

 中は裸ではなく黒いインナーを着ていた。ただ服に対してインナーのほうはあまり着ているという感覚はなかった。

 多分脱げないんだろうなこれ。


「顔はどうだろ」


 近場にあった噴水に行き、溜まっている水を覗き込むように見る。

 そこには先程キャラメイキングで作った通りの顔があった。


「わぁーおんなのこー」


 やや棒読みで呟きながら顔を見つめ、頬を突いたり引っ張って歪めてみる。

 そんなことをしていると髪型が下に落ちそうだったので髪をかきあげ、身体を起こした。

 あとで髪留めのアクセサリーでも購入するかな……。

 購入といえば装備品はどうなのだろう。

 メニュー画面を開いて持ち物欄をチェックする。

 そこは空白で何も入ってない状態だった。

 ただ別の項目に赤い点が付いていたのでそれを開く。そこには『チュートリアルクエスト1/3』と書かれていた。


『チュートリアルクエスト1/3<装備を整えよう!>

 街の道具屋で「初心者セット」を購入 0/1

 街の武具屋で「武器」「防具」を購入 0/2』


 なるほど、こういう形で初心者を誘導するのか。

 ……絶対無視する人いるだろうなぁ。

 まぁ、僕はそこまで捻くれ者ではないので順当に進めよう。進だけに。

 マップを表示させると街全体を上から写したような画像が出る。そこには自分の現在地と各地に利用できる施設の名前が書かれていた。

 ここから近いのは道具屋だな。

 早速向かおう。


 ■


「よし、こんな感じかな」

 あれから道具屋と武具屋に行って指定されたものを購入した。

 それが完了するとクエストクリアの文字と一緒にクリア報酬のNゲーム内通貨と経験値を取得した。それによって僕のレベルが一つ上がり、レベル2だ。

 一応、購入した物を確認しておこう。

 まず初心者セットには、ポーション15本、MPポーション15本、状態直し5本、アイテムポーチ1個と5種類の物が入っていた。

 初心者セットはバラバラで買うとなる価格が倍以上になるような内容なのでかなりお得だ。ただし、購入できるのは一度のみ。まぁ、そうだろうな。

 武具は、武器として<ショートソード>を1本。

 防具は<革の胸当て>と<革のブーツ>を、そして<革の籠手>だ。

 防具は頭と胴体と足、手を左右別に、計五箇所に装飾品四つ装備できるが、手持ちのNを少し残したいのでとりあえずこの三つだけにした。それでも十分にファンタジーな見た目になった気がする。

 装飾品の欄にアイテムポーチを選択して腰に装備した後、購入した回復アイテムを入れた後、メニューを開く。そこには先程と同じように赤い点が表示されていた。


『チュートリアルクエスト2/3<戦ってみよう!>

 フィールドにいるモンスターを倒す 0/5』


 いよいよRPGの醍醐味を味わう時が来た。

 マップで出口を確認し、歩いて向かうことにする。

 別に走ってもいいのだけれど、もう少し街の様子を見て回りたいし。

 そう思いながら改めて周りを見ると結構賑わっている様子が見て取れる。

 始まりの街というから他のプレイヤーはもうすでに出払っていると思っていたのだが……。

 まぁまだ新しいゲームだから残っている人も多いのだろう。

 ゲームフィールドも結構広いらしいのでここを拠点として色々と見て回っているのかもしれない。

 それにしても匂いから風の感じ方、気温の暖かさなどの細部に至る感覚が現実と相違ない。キャラメイキングで感じた感覚よりもずっと情報の量が多い気がする。

 このゲームが凄いのか、この情報を伝えるハードが凄いのかどっちなんだろう。


「そういや、このゲームとハード作った会社は一緒なんだっけな……と、ここか」


 思っていたより出口は離れていなかったようだ。

 目の前には整備された道と広大な草原が広がっていた。

 心地よい風が吹いていて、ただここを進むだけでもピクニックみたいで楽しそうだ。


「さて、じゃあモンスター探してみますかぁー!」


 意気揚々と走り出し、草原に駆け出す。

 見通しのいい場所だからすぐに見つかるはずだと思うけど。


「PUGIIII!!」


 丁度いいタイミングで猪に似たモンスターが出現ポップした。

 そのモンスターの前に立ち、腰に装備している<ショートソード>を抜いて構える。

 モンスターは僕を見るやすぐさま突進してくるが距離が離れている為、それを危なげなく躱す。

 後ろに駆けていく猪は走る速度をそのままに大きく曲がってこちらに向かってきた。

 今度はギリギリまでモンスターを引き寄せ、闘牛士のごとく紙一重で避け、同時に<ショートソード>を横に振って一撃を与える。


「PUG!?」


 モンスターは驚いたような声を出すが行動は変わることなく再び突進をしてくるが、僕は先程と同じように躱してまた一撃。

 これを何度か繰り返してモンスターを倒すと、可愛らしい声と共に光の粒子になって消えてしまった。

 そしてすぐにウィンドウ画面が現れてNと経験値が手に入ったことを僕に教える。

 初めての戦闘にしては上出来だったんじゃないか?

 僕は<ショートソード>を片手に次の目標を探す。

 この調子でドンドンモンスターを倒していこう!

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