ゲーム&メイキング

 それから数日後、春秋さんからVR機器一式を譲り受けた。

 流石に学校で貰うわけにはいかず、かと言って家まで運ばせるわけにはいかないので彼女の家に取りに行った。

 初めて女の子の家に行った気がする……。

 いや、別に入ったのは玄関までだけどさ。

 言うことがあるとすれば、春秋さんはお嬢様だったって事かな。

 それは横に置いておこう。

 ただその時に言われたことがある。


「ごめん!誘ってはなんだけど、次のテストが終わるまでゲームできんくなった!」

「なんてこったい」

「富士見くんはそういうのない?」

「無いけど……」

「じゃあ先にプレイしちゃってよ!

 絶対楽しいから!」


 と、言うことでしばらくはソロプレイをすることになった。

 ……。

 ………。

 見知らぬ世界に一人で放り出される気分だ。

 いや、気分というか実際そうなんだけど。

 そんなことを考えながら黙々と機器を設置していく。

 ゲームソフトを入れるハードをルーターに接続、そのハードにVRヘッドギアを接続する。

 VRヘッドギアと言っても見た目はフルフェイスのヘルメットみたいだ。結構重い。

 プレイする時は寝転がった状態が推奨されている。

 まぁ、プレイ中は現実の身体は動かせないみたいだし妥当だと思う。

 座ってたら身体痛めそう。

 ハードに予め買っておいたソフトを入れ、電源のスイッチを押してヘッドギアを被る。

 必要な設定を済ませると眼前にある画面に『プレイ可能なソフトがあります。プレイしますか?』と表示された。

 ……これどうやって始めんだろ。


「え、はい」


 とりあえずそう言ってみると、視界が暗転する。

 数秒後には黒い空間が広がっていた。

 おぉ、立ってる感覚がある。

 それ以外にも全身の感覚が現実と同じぐらいに感じるな……これはすごい。

 身体をあちこち動かしていると目の前に半透明のウィンドウが表示され、その後ろに白く光るマネキン人形みたいなものが出現した。

 ウィンドウには『キャラメイキング』の文字が書かれていた。

 メニューを開いてみると様々な項目が表示される。

 見ているだけで頭が痛くなりそう。

 ザッと目を通して確認したが、このゲームのアバターはかなり細かく設定できるらしい。メイキング中、マネキン人形でどう見れるかチェックできるようだ。

 キャラメイキングかー……僕はあまり時間かけない人だからなぁ。

 ここまで細かいと逆に困ってしまう。

 どうしたものかと悩んでいるとメニュー枠の右下に『ランダム作成』という文字が見えた。

 もしかしてと思い、恐る恐る押してみるとマネキンが世紀末に出てきそうなモヒカン男に変化した。

 なるほど、これは便利だ。

 だけど流石にこれは無い。

 僕は続けてランダム作成を押す。


 ダンボールが似合いそうなバンダナ男。

 筋肉ムキムキマッチョマン。

 胸に七つの傷がある男。

 カニのような髪型をした青年。

 頬に十字傷をつけた侍風。

 etc。


 何度も繰り返しているが、どれもしっくりこない。

 いやでもこれ以上やっても時間を消費するだけだし、次に表示されたやつにしてしまおう。 


「頼むからおっさん以外で!」


 願いを込めながらランダム作成を押す。

 そして表示されたアバター。

 ………?


「これ女性アバターでは?

 バグ?」


 まるで女性の姿をしたアバターを見て目を丸くし、表示されたアバターをぐるりと周り、全身を確認する。

 腰まで長い白髪、華奢な身体、胸は無いがお尻の方は少し出ている気がする。

 念のためメニューでアバターの設定値を確認する。


「んー?」


 すると、ちょこちょこ最大設定値以上、逆に最低設定値以下のものがある。

 これは本格的にバグでは?

 GMコールってあるのかな……?

 ウィンドウを確認すると左下に歯車のマークがある。押してみると『オプション』の文字が書かれなウィンドウが重ねて表示された。

 下にスクロールさせると一番下に受話器のマークがあった。

 これかな?

 押してみると数回コール音がなった後、どこかに繋がる。


『あ、こちら運営ですぅ〜。

 どうかしましたかぁ?』


 対応ゆっる!

 これ怒られない?プレイヤーにも会社にも。

 いや僕は気にしないからいいけどさ。


「あの、キャラメイキングでバグが起きてるみたいなんですが……」

『え、マジ!?

 どんなバグ!?』

「えぇっと……」


 ほんとにそんな対応でいいのか……?

 ひとまずそれは置いておき、バグについて報告した。

 すると相手は「おぉー!!」と、まるで喜んでいるような声を上げる。


『バグじゃないっすよ!

 むしろレア!ラッキー!ってやつです!』

「ラッキー?」

『ランダム作成でしか作れない、超超ちょぉぉう!レアアバターっすよ!

 まさかネタで仕込んだヤツを引き当てる人がいるとは……キャラメイクの自由度高すぎてみんなランダム作成使わないから今まで誰も引かなかったっすよねぇ』

「はぁ……」

『ぜひぜひそれでプレイしてほしいっす!』


 まー、レアとか限定とかに弱いお年頃なわけで、公式の人にそんな強く進められたらな。


「まぁ、バグじゃないならいいですよ。

 どうせこれでランダム作成を最後にするつもりでしたし」

『いぃやったぁぁぁ!』

「対応ありがとうございました」

『いえいえこちらこそありがとうっす!

 ぜひ楽しんで……え、先輩?なんす、あいたぁぁ!!』


 通話が切れる最後に何か痛そうな声が聞こえたが、まぁいいか。

 改めてアバターを見直し、メニューの決定を押す。

 次は名前を入力する欄が表示された。

 名前……名前か……。本名が進だし、『ムーヴ』でいいかな。

 名前を入力して決定を押すとチェックの文字が重なるように出てきた。

 もしかして既にいるのか?と思ったがすぐにOKに変わった。


『ようこそフリーダム・ファンタジーへ。

 我々はあなたの自由なる冒険を歓迎します』


 そんな声が聞こえ、周りが白く染まり始める。

 どうやらここからが本番らしい。

 胸のドキドキが加速する。


「よし!いくぞ!」

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