神様とお父さん
山吹弓美
神様とお父さん
神様のところにお出かけしていたお父さんが、予定よりも早く帰ってきた。私の家畜を引き取ってくださった神様に、お会いできたのかなあ。
今の時間にやらなくちゃならないお仕事は終わっているから、私はお父さんを迎えに出る。
「おかえりなさい、お父さん!」
「ただいま。家畜の世話は進んでいるか?」
「うん、もちろん!」
今から、四年後に神様にお捧げするための家畜をきっちり育てていかないとね。今年の家畜はとても褒めてもらったんだから、次はもっともっと褒めてもらうのが私の目標なんだもん。
「本当はな、お前の家畜のことで神様とお会いする予定だったんだ」
よそ行きの、質のいい上着を脱ぎながらお父さんは、そんな事を言ってきた。神様に会うんだから、いつもの作業着なんて着ちゃだめなんだよね。
「神様の方で事情があったみたいで、お会いできずにUターンするはめになってしまったよ。ははは、残念だ」
「そうなんだ?」
うわあ、本当に残念だ。でもお父さん、なんだかほっとした顔をしている気がするのは気のせいかな?
きっと、神様と直接お話するのはとっても緊張するからなんだろうな、と私は思う。だって私、まだ神様とお会いしたことないもの。
「お父さん、神様とお話できるチャンスだったのにねえ」
「そうだな。せっかくだから、お前の家畜を高く引き取ってくださったお礼を言いたかったんだが」
「私も、お礼は言いたいなあ。そのおかげで、ちゃんと生活できてるんだもんね」
「ああ」
四年に一度、私が大事に育てた家畜を神様にお捧げする。その代償として神様から私たちに、その品質に応じたお金をくださる。そのお金のおかげで私たちは生活することができるし、新しい家畜を育てることもできる。
そのお礼を私は、たった一度でいい。直接、神様に言いたいのだけれど。
「実はだな。その機会がすぐあるぞ」
「え?」
シャツを脱いで作業着を羽織り、お父さんは私に向き直った。表情を引き締めて、ゆっくりと口を開く。
「今日は予定が合わなくなったが明後日、お前と会いたいそうだ。神様が」
「ほんとに!?」
「ああ」
「やった!」
信じられない、と思う。
私が、ただの牧場の娘が、神様と直接対面できる機会を得られるなんて。
「あ、でもお父さんは?」
「俺は、しばらくこっちを離れられないからな。時間になったら、神様のところからお迎えをくださるそうだ」
「わざわざ、お迎えを?」
「ああ。神様はお前に、とても会いたいらしいからな」
にやにやと笑うお父さん、なんだか私のことをとっても羨ましがってる……と思う。そりゃそうだよね、こんな子供のときに直接神様に会える名誉をいただけるなんて、よっぽどのことだもの。
「じゃあ、早速準備しないと!」
「そうだな。服はお母さんにお願いしなさい」
「はあい!」
できる仕事はさっさとやっておいてよかった。さあ、明後日のためにしっかり準備しないと!
服を選んで、お湯と石鹸で身体を洗って。ご飯もちゃんと食べないと、神様の前でお腹を鳴らすわけにはいかないもんね!
「家畜の育成で、自身も育成されるタイプ。ここまで育ってくれるとは、思わなかったけれどな。さて、神様には気に入っていただけるかな?」
神様とお父さん 山吹弓美 @mayferia
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