大変なUターンラッシュ
ちかえ
大変なUターンラッシュ
「おいっ! どけ。わたしは最短距離で行くんだ」
「わたしだってそうだ。どくのはそっちだ」
「先に行かせろ」
「行かせるものか。そちらが向こうに行け!」
俺のユニコーンのマリウスが他のユニコーンともめ始めた。その間、乗っている俺たちはほったらかしである。その間にも他の人間の乗るユニコーンは、こんなもめ事は知らんとばかりに彼らをよけて先へ行っている。正直羨ましい。
動物が興奮していると乗っている人間の方は逆に冷静になる。なのでお互いに目配せをして相手をねぎらう。
——うちのユニコーンがすみません。
——こちらこそ。
そう心の中で言い合いながらもケンカをしているのは自分のユニコーンなのでなだめなければならない。
「なあ、別の道を……」
「イヤです!」
イヤです、じゃねえよ! と怒鳴りたくなる。ユニコーンはプライドが高いと聞いていたが、こんなプライドの高さは嫌だ。
今は楽しいヴァカンスが終わって帰る道の途中である。道とは行っても空の道だ。
何年か前までは魔法で動かす車が主流だったが、空の方が広いという事でユニコーンに乗っていくのが流行っている。そうすればそこまでは渋滞も起こらないはずだったのだ。
それに俺もあやかった。のんびりと空を飛びながらいい気分で移動したかったのだ。なので、半年くらい前に可愛いユニコーンを大金をはたいて買ったのだ。そうしてかわいがりながらヴァカンスを一緒に過ごすのを楽しみにしていた。
なのに、現実はこれである。いくら首都に戻る道で交通量——ユニコーンでもそう言うのかは分からないが——が多いとは言っても酷すぎる。
きっかけは相手のユニコーンがマリウスとぶつかった事である。俺たち人間はすぐにお互いに謝ったが、ユニコーンのプライドとしては許せなかったらしい。
本当にいい加減にしろよと言いたくなる。
「お前、いい加減にしろよ!」
横から俺の心の声が聞こえた。いや、これは心の声ではない。ケンカ相手の乗り手だ。それを聞いてマリウスが満足そうに首を上げた。
「ほら、あなたのご主人様は聞き分けがいいようだぞ。言う事を聞くといい」
「そちらだって同じだろう。先ほどのあなたのご主人様の言葉が聞こえなかったのか? いや、聞こえていたよな。返事をしていたよな」
「うるさい! 黙れ!」
「何だと? おい、角で突っつくんじゃない!」
ついに暴力に訴え始めた。めちゃくちゃ揺れる。マナを使って必死にしがみついているが、正直やめて欲しい。
さすがに腹が立つので手綱を引っぱり怒りを示す。そしてお互いに『乗り手の事を考えろ』と叱った。
「他のユニコーンさんは普通に離れて飛んでいるだろ。何でお前はこうなんだ! 譲るという気持ちがないのか!」
ここまで言えばさすがに分かってくれるだろう。だが、残念な事に俺たちの期待は外れた。
「そうか。あなた達、何を先に行ってるのですか。それは割り込みと言うのですよ」
なんと、他のユニコーンに文句をつけ始めたのだ。そうしてケンカ相手のユニコーンも似たような事を言っている。
なんて自己中なのだろう。そしてどうしてこの部分に関して、この二頭は気が合うのだろう。
他のユニコーンが迷惑そうな顔をしている。当たり前だ。
「あなた達うるさいんですよ。わたしたちの迷惑です!」
ついにケンカを売られたユニコーンが言い返して来た。他のユニコーンもその意見に頷いている。
ああ、乱闘が始まるのかと絶望的な気分になる。
「黙れ!」
「黙りませんよ。黙るのはあなた方です、この若造どもが!」
一頭のユニコーンのその言葉に、俺たちのユニコーンの動きが止まった。そうしてまじまじと叱って来た相手を見る。そしてすぐにしゅんとした。
「すみませんでした」
「ごめんなさい」
何故か突然しおらしくなった。何が起こったのか俺らにはさっぱり分からなかった。なので、相手と目配せをして困惑を共有する。
「よい。これからは雇い主の言う事を聞いて立派なユニコーンになるのだぞ」
「わかりました」
そしてその間にユニコーン同士の話は終わったらしい。そしてお互いに道を譲った。
話を聞く限り、年長者の言う事は聞くようだ。ユニコーンのルールなのだろうか。
やれやれとため息を吐く。
「迷惑をかけてしまって申し訳ありません」
マリウスを叱った相手の乗り手に謝る。彼は笑って許してくれた。本当に申し訳ないと思う。もちろん、ケンカ相手の乗り手とも謝り合った。
「これに懲りず乗ってやってくださいね。ユニコーンだっていろんな経験から学んでいくんですよ。こいつも今は落ち着いていますが、父さんが乗り手だった頃はやんちゃだったと聞いています。父さんから軽い雷魔法がよく効くと聞いているので試してみるといいですよ」
雷魔法、と聞いて俺たちのユニコーンが怯え出した。でも仕方のない事だ。
そしてこれは嬉しいアドバイスだ。ありがたく受け取る事にする。
「本当にこれからはこんな事やめてくれよ」
きちんと挨拶をし、少し彼らが遠くなったのを見届けてからマリウスに改めて注意をする。
「雷は打たないですよね?」
「分からないぞ」
そう言うと、マリウスは悲しそうな目で俺を見上げて来た。自業自得である。
でも、こいつは約半年の間かわいがって来た大事なユニコーンだ。怒りすぎるのもいいとは思わない。
来年のヴァカンスも大変なんだろうな、と俺はそっとため息を吐いた。
大変なUターンラッシュ ちかえ @ChikaeK
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます