短編第2話【血塗れた手記】

「あはは。もっと。もっと苦しんでください。そうしないと割に合わないじゃないですか」

こんなんじゃ全然ダメ。こんなので許す訳にはいかないの。あの人の何千倍も何万倍も苦しまないと意味が無いの


どうしてあんなことになったのか。ここに書き記させてもらう。そうだな。事の発端はあの時からだった。


今日初めて好きな人に告白された。

ずっと見守ってるだけでいいと思ってた。この恋が叶わなくても彼が幸せならそれでいいと思ってた。

「由比ヶ浜紗希さん。僕はあなたのことが好きです!」

それは私に初めて訪れた春だった。


彼と過ごしてる時間はとても楽しかった。初めてのことだらけでとても新鮮で幸せだった。あの事件が起こる前の日だってお花見を一緒にした。人生初のお花見だった。


「あの。悠さん。お花見行きませんか?」

「お花見?」

あぁ。断られちゃうかな?お花見なんてそんな行きたがる人なんてあんまりいないよね?やっぱり違うところの方がいいのかな?

「や、やっぱり違うところの方がいいですよね?」

「いいや。いいと思うよ?行こうお花見。」

え?ほんとに?一緒に行けるの?嬉しいなぁ。

「あ、はい!行きましょう!私お弁当作ってきますね!」

「おお!紗希のお弁当か。楽しみだな。」

彼がとても嬉しそうに笑ってくれる。あぁ。嬉しいな。彼を今私が幸せに出来ている。それはとても嬉しいことだよね。

「はい!頑張りますね。」

「うん。だけど無理はするなよ?」

彼は優しい。とっても。本当に私には勿体ないほどいい人だ。


私達はいつもの集合場所で合流してお花見に向かった。私は初めて行くお花見にとても浮かれていたのだろう。


「おお!もうこんなに咲いていたんですね。」

「あぁそうだな。とても綺麗だ。」

お花見なんか家族ともしたことなかったからな…こんなに穏やかで幸せな時間なのか。

「もうお昼時だしお弁当食べようか。」

え?!もうそんな時間なの?!時が過ぎるのはとても早いな…

「はい。そうですね!」

あぁ。今日は張り切って作ったからな。でも普段から料理してないのバレないかな?料理は苦手だからな…

「おお!美味しそうだね!卵焼きから食べてもいい?」

「あ。はい。いいですよ。お口に合うといいのですが…」

私は甘い卵焼きが好きだから甘くしちゃったんだけど彼はしょっぱい卵焼き派だったかな?大丈夫かな?

「おっ、美味しいよ!僕が甘い卵焼き派って知ってたの?」

良かったぁ。美味しいって言って貰えるなら苦手な料理もしたかいがあるね。

「いえ。私も甘い卵焼き派なんです。」

「そうなのか!一緒なんだな」

彼はそう言って笑ってくれた。それがとっても嬉しかったの。


その後も私達は色々なところを回った。射的や輪投げで遊んだりりんご飴や焼きそばを食べながら歩いた。それはとても楽しくキラキラと輝いた時間だった。けれど私は幸せすぎてこの幸せが永遠に続かないことすら忘れていたのだろう。だからこそあの悲劇は起こってしまったのだ。


「送ってくれてありがとうございます。」

「いいや。僕も紗希と長く一緒にいたいからね。」

う、彼はサラッと恥ずかしくなるようなことをたまに言ってくるな…

「あ、ありがとう…そうだね。私も一緒にいたいです」

は、恥ずかしい!よし。さっさと家に入るに限る!

「じゃ、じゃあ帰りますね。また一緒に出掛けましょう。」

「あぁ。」

彼の笑顔をみたのはそれが最後だった。


翌日から彼と連絡が取れなくなった。


なんで?何か昨日怒らせるようなことしてたのかな?嫌われちゃったのかな?よし。放課後彼の家を訪ねてみよう。


よし。ここだね。あれ?なんか騒がしいな。どうしたんだろう?あ。あれ彼のお母様だよね?

「あ、あのすみません。どうしてこんなに騒がしいんですか?」

「あ。悠の彼女さんですよね?悠は昨日通り魔に殺されたんです」

え?誰が?彼が?カレガコロサレタ?

「それもじっくりじわじわと殺されたみたいで…」

嘘でしょ?冗談でしょ?なんで?

気がついたら私は自分の部屋にいた。多分全速力でかけてきたのだろう。


それからの私はとても無気力だった。生きる意味なんか見いだせず自分も彼の後を追おうかと思った。けれど自殺する勇気も出なかった。そんなある日私はある噂話を聞いた。

『実はあの事件は通り魔ではなく彼を恨んでいる人が復讐屋に頼んで殺してもらったのではないか』

という噂だ。その噂を聞いて私は生きる目的を手に入れたんだ。

そうだ。その依頼をしたやつを彼と同じ目、いやそれ以上酷い目に合わせて殺してやろうって。


それからその人について、そして復讐屋について調べた。そのかいあってか私は4年後に真実に辿り着くことが出来た。


「あなたが、あなたが悠さんに復讐してと依頼したので間違いはないですか?谷崎翔さん。」

これで違かったら困るなぁ。沢山準備したのに。

「あぁ。そうだよ。俺が依頼したんだよ!」

あぁ。やっぱりそうか。当たりだったね。良かった。あ、そうだ。一応聞かないといけないことがあった。

「あなたはなぜ悠さんに彼に復讐したいなんて思ったんですか?」

どうせくだらない逆恨みだろうけど。

「ある人からあいつが妹をいじめて殺したって聞いたから。復讐してやろうと思ったんだよ!妹はまだ生きられた!なのにあいつがいじめたせいであいつは自殺した!」

は?悠さんがいじめ?コノヒトハナニヲイッテイルノ?

「ふざけないでください。悠さんがそんなことするはずないじゃないですか。誰に何吹き込まれたかは知りませんが私はあなたの事を絶対に許しません。殺してやる…」

「は?ほんとだ!あいつは優しい顔して人をいじめ抜く性格最悪のやつなんだ!」

イミガワカラナイ。コノヒトハナニヲイッテイルノ?


気づいたら谷崎翔は私の目の前に転がっていた。

「なんででしょう?まぁ気絶させる手間が省けたならいいのですが…」

あれ?死んでたら嫌だなぁ。とりあえず運びがてら生死の確認でもするか。


「あ。目が覚めましたか?谷崎翔さん。」

「ここは…って痛い!ど、どうなっているんだ?」

ふふ。やっと気づいた。

「それはですね。あなたが寝てる間に指を切り取っておいたからですよ。」

「はぁ!なんでそんなことされなきゃいけないんだ?!」

なんでそんなに混乱してるような表情をしてるの?なんでそんなことされないといかないか?なんて言うの?ふざけてるの?

「あなたがそれを依頼したからですよ。復讐屋さんに。だから彼がやられたことをあなたに返してるんです。」

だから簡単にくたばらないでくださいね?あの人の何千倍、何万倍苦しまないとダメなんですからね?


話はここら辺で終わらせてもらおう。ここから先はこれを読む人の想像に任せよう。だがあとから聞いた話だったが谷崎翔の言っていたことは本当だったようだ。だからこそ私はこれを記しているのかもしれない。だけど勘違いしないで欲しい。私は別にこの復讐を後悔しているわけではないということを。


「よし。書き終わりました。さぁ。これは誰が一番最初に読みますかね?それはとても気になりますね。」

でもこれでもうこの世に思い残すことはないな。じゃあね。

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春という季節には…? ❅銀花❅ @ginka_snow

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