6/23 すてきな夢
土曜日。休日。バイトがあり、本を買いに行き、家に帰ってきた。
今日は、それだけ。もとよりオオタキのことを書きたくて始めたのだから、オオタキに会えなくて書くことが少なくなるのは至極当然のことだった。
それでも机に向かってノートを開いたのは、自分のことながら偉いと思う。
とはいえ私のやってることは、とても、褒められたようなものではないけれど。
そういえば昨晩、不思議な夢を見た。
言うほど、不思議ではないかもしれない。でもこれを不思議じゃないと認めてしまったら、色々、マズい気がしてならない。そう思いたい。
多分、時刻は四時を過ぎた頃だったと思う。西日の差す教室に、私とオオタキはいた。他の生徒は一人もおらず、思い返せば高校の教室というより中学校の教室に近い景色だった。入学して二か月程度の付き合いの景色に比べればそっちの方が馴染みがあるし、深く記憶に刻まれているとか、そういうものだろう。
まぁ所詮は夢だし、どれだけ考えたって大した意味なんかない。
窓の外から蝉の声がしていたので、きっと夏だった。お互い、夏服だったし。ただ暑いとか寒いとかってことはよくわからなくて、目の前にいるオオタキが今日も可愛いなぁ、とか、そんなアホなことばかり考えていた。
開けた窓の縁に腰を折ろして、オオタキの長い髪とカーテンを優しい風が揺らしていた。一方の私は、行儀悪く机に座っていた。
沈黙の中でたまに目線がぶつかり合い、にこ、と微笑みを返されて。だけど私は上手く笑うことができなくてもどかしく、それでも心地の良い時間が過ぎていき。
やがて。
『オガワは、わたしのこと、好き?』
いつもそうするみたいに優しい笑顔で、そんなことを聞かれた。きっとこれが夢じゃなかったら、飲んでるジュースとか勢いよく噴き出したりするんだと思う。
夢の中の私はそれを聞いても特に何か焦ることも無く、何か挨拶めいた当然のことのように当たり前な会話に思えた。この時点でだいぶ不思議ではある。そして。
『好きだよ』
私は、バカなんだろうか。
もしこれが現実だったら、色んな意味で終わってたと思う。
夢か現実かもわからないのに、そう口走った。そこに私の意思は無くて、いや彼女を好きだって言うのは私の意志に変わりないんだけど、それを隠そうとしないのは私の意志じゃないというか、夢だから自由が利かずに思うことがスラスラ外に出てくるというか。そういう感じだと、思う。そもそも私の想う好きって気持ちは、友達の延長にあるような友愛に近いモノであって、じゃなくて、だって私とオオタキは女同士であって、だからそういった思いが私とオオタキの間に介入することは良くないこと、で、いや、そういう訳でもないけど、でも私はそういう風に思っていて。もしも、万が一、本当にあり得ない話ではあるからそれは私の願望にも似た憶測と言うかそれこそ夢のようなお話ではあるけれど、仮に、仮にオオタキがそういう想いを私に向けていたとして、でも、それを受け入れることは果たしてできるかなって、そういうことを考えたら一概にダメと無下にできるものでもなくむしろ喜ばしいというか願ったり叶ったりというかオオタキとそういう関係になれるのならっていや待って何書いてんだろ私。何、何。もうよく分からない。思い返すと恥ずかしすぎる。なんでこんな夢を見るんだ。自己嫌悪がすさまじい。恐らくあの場で交わした「好き」のやりとりは多分、なんか、違う。これからオオタキと卒業まで一緒に過ごして、それでもたどり着けない場所にある到達点みたいな、いやそれよりももっと先にある、正体の見えない暗闇に二人で沈むみたいな……あまり心地良さを感じない関係を、想像する。
そういうのじゃ、ない。私は違う。ない。ないってば。
でも兎に角、そう答えた。夢の中で、そう答えてしまった。
『そっか』
そしたら、そう返された。
で、目が覚めた。
なんだ、これ。
なんなんだ、これ。
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