第5話 束の間の平穏

今、俺の目の前には装備が一式。

戦闘服(BDUと呼ぶらしい)と、色々ポーチがくっ付いたベスト。

ブーツやグローブ、ヘルメット、ホルスターなどの小物類。

あと、ゴーグル。

全て黒で統一されている。


そして銃が二挺。

一つは両手で構えられるが比較的小型のもの。

銃とは思えない特殊へんな形状をしている。

バッテリーや弾などと一緒に渡された説明書にはP90TRと記されている。

上にはたまに映画で見る、レンズを立てただけのような照準器オープンドットサイトが載っている。

もう一つは少し大きめの拳銃。

サイズ以外に変わった所は無いが、一緒にボンベを渡された事を考えるとガスで動くのだろう。

説明書にはUSPとあった。

特に目立つ追加パーツは無い。


「さて、コレをどうやって隠そうか…。」


というのは、つい数時間前に掛かってきた電話が元凶なんだが———



———数日前


黒水先輩から新歓サバゲーの話を聞いた後、俺と須賀川の新入生コンビはすぐに装備と着け方とエアガンの扱いを学ぶ事になった。


「さて…改めて紹介しよう、ここが俺たちの射撃練習場シューティングレンジだ。」


そういって、俺たち新入生コンビを部室から出して黒水先輩が連れて来たのは、例の塹壕だった。

細長く掘り下げた土の中に鉄板製の的が置かれており、端の方にはちょっとした雨除けとテーブルがあった。

射線の両脇と的の向こう側には人の身長より少し高いネットが張られ、塹壕の深さと合わせるとかなりの高さになっている。

的が鉄板なのは命中した際に音で分かるように、だとか。


「2人とも、なんでこのネットがこんな高いか分かるか?」

「(・Д・)ワカンネ」

「外に流れ弾が出ないように、ですね?」

「正解だ。エアガンを扱う際に最も大切なのは『安全』セーフティだ。自分の過失で自分が怪我するだけならまだマシな方だが、他人に怪我させる事など絶対にあってはならない!

…まあ怪我人が出ると規制が進むひどくなるから正直自爆も勘弁だけど」


黒水先輩の説明を聞いて、俺は目が覚めるように納得した。エアガンはいくらおもちゃと言えどもBB弾という飛翔体が飛び出す道具だ、仮に人に当たれば無傷で済むとはとても言い切れない。

つーか即答した辺り須賀川はそういうの慣れてんのか?

俺は少し気を引き締めて説明の続きを聞いた。


「じゃあ、実際に銃を扱う前にコレを着けてくれ。」


そう言って先輩が俺たちに渡したのは、レンズが厚い偏光サングラスのようなものだった。


「ゴーグルだ。アクリル製のレンズで被弾しても割れにくいし、眼を守る重要な装備だ。

このレンジに居る間は絶対に外さないように。」

「失明しても良いなら外しても「こらっ!」…いっててててて!耳引っ張るなって!」


黒水先輩の説明を聞きながらゴーグルをかける。

金羽先輩が瓶辺先輩にシバかれてるけどスルーだスルー。調子乗って余計な事言っちゃうタイプだこの人。

すると、黒水先輩が何やらデカいコンテナを開けて俺たちに差し出した。


「それじゃあ、練習として何種類か撃ってみようか。好きなのを選んでくれ。」

「「おぉ…(ゴクリ」」


そのコンテナを見ると、緩衝材の上に何種類もの自動拳銃が並んでいた、弾倉も一緒に並べてある。もちろんエアガンだが。

リボルバーもあるようだが、かなり少ない。


「リボルバー少ないっすね…?」

「それなんだがな、リボルバーは構造的にエアガンには向いてないんだ。どうしても弾数が増やせないし、発射時の内圧ロスやら弾速の不安定さやらがネックで…少し難しい話になってしまったな。」

「いや俺工学部なんである程度は分かりますけどね。」

「…そうか。ともかく、初めてなら自動拳銃をおすすめするよ。」


あいにく、俺は人生においてこういった物を触る機会が無かった…いや、潰され続けたので、今回は素直に黒水先輩の勧めに従う事にする。

俺は一通り握ってみて、それから2挺ほど銃を選んだ。


「この2つが握りやすいですね。」

「なるほど、USPとグロックか。ソイツらは割と新しい設計だから扱いやすいと思うぞ。」

「私はコレにします!」

「須賀川は…M1911ナインティーンイレブンか。45口径フォーティファイブの定番だな。それじゃ2人ともここに立ってくれ。」


そう言うと先輩は塹壕の端に俺たちを促し、的に向けて立たせる。


「それじゃ、加藤は俺が教えよう。瓶辺、須賀川を頼む。」

「オッケー、任せて。」

「俺はー?」

「何か飲み物買ってこい、人数分。」

「パシリかよぉ!」


黒水先輩が俺の傍に立ち、銃の使い方を説明してくれる。須賀川さんには瓶辺先輩が付いた。

…金羽先輩の扱いが酷いのは安定なのか?


それからしばらく、俺たちは練習を続けた。

———この時、俺の知らない内に、火種は灯されていたんだが…それを知るのはもっと後の事だ。

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