第2話 邂逅

俺、加藤 利一かとう りいちは大学生になった。

高校を卒業して春休みを遊んで過ごしたのも束の間、気づけば入学式を迎えていた。


「うーわぁ、人多いって…。人混みとかダメなんだよ俺…」


式場を出てすぐ、サークルの勧誘に来た先輩方の大声の坩堝るつぼが精神力をえぐり取る。

人の量と混じり合う声の多さに軽く目眩を覚えつつ有象無象の群れを抜けると、サークルに入る予定も無い俺はそそくさと正門を目指して移動を始めた。


———数分後———


「迷ったwww\(^o^)/」


なんと数分で現在地を見失った。朝に入って来た門すら見つからない。

大学生にもなってMA☆I☆GO☆である、とんだバカタレが居たものだ。俺だけど。

仕方なく、柵に沿ってひたすら歩くというなかしらみ潰しのような方法で門を探していると、妙な物が目に入った。

柵の内側をなぞるように、塹壕ざんごうが掘られているのだ。


「何だコレ…?」


俺の独り言に反応したのか、人影が2,3人ほど塹壕から出てきて声をかけてきた。


「おや、新入生かな?」

「入部希望者!?だよね!?そうだよね!?」

「うん、新入りが嬉しいのは分かったから、まず落ち着こうか。」


ただ、それは妙な風体の連中だった。

タイガーストライプや陸自やデザートピクセルの迷彩服にゴーグル、手には銃。

よく見ると彼らの背後にも多くの銃器類が並んでいる。

拳銃ハンドガン狙撃銃スナイパーライフル短機関銃サブマシンガン自動小銃アサルトライフル軽機関銃マシンガン。さらには推進弾発射機ロケットランチャー擲弾筒グレネードランチャーらしきものまであるようだった。


「えっ…と、え?えっ?」


普通に怖い。

何だよテロリストのアジトかよ。


「あれ、入部希望者じゃなかったか?」

「ってか軽く怯えてないかー?」

「だな。」


その後俺がただの迷子だと説明し、そもそも彼らが一般市民だと理解するのに5分ほど要した。


———んで5分後———


「つまり、皆さんはこの大学の先輩で、この『サバゲー』をやってるサークルのメンバーなんですね?」

「そうそう。良かったら見学でもどうかな?まだ入るサークル決めて無ければだけど。」

「えっと、それなんですけど…特にサークルに入ろうとか考えて無くてですね…」


流石に誤解は解けたものの、案の定勧誘を喰らった。

ぶっちゃけどう断るべきか分からん。

なんでって?今まで人付き合いを避けて生きてきたからだよチクショウ。

正直、今すぐ逃げたい。こんな風貌の連中と居るのが学内に知れたら、また「戦争マニア」だの「危険人物」だの「キチ○イ」だの言われかねない…高校時代の二の舞などまっぴらゴメンだ。

そう、俺は別に昔から無趣味だった訳じゃない。かつてはFPSなんかにハマって、人並みにはミリタリー方面の知識もあった。

…まあ、それが反社会的だの犯罪者予備軍だのと謗られ、無趣味人間に成り果てるのにそう時間もかからなかったが。


「そっか、でもサークルに入ってれば先輩との情報網なんかも繋がるし大学生活楽になるかもよ?」

「えぇ……」


そんな事を目の前の迷彩服集団が知る訳も無く、呑気に勧誘を続けてくる。

どうお断りするか考えつつ聞き流していると、突然手を引かれた。


「実際に撃ってもらえば良いんじゃないかな?ね、後輩くん。」


俺の右手の先、デザートピクセルの袖から視線を上げて、改めて先輩方をよく見てみた。

…なぜか振り解いて逃げようとは思わなかった。断る事も、忘れていた。

まず、一番肩幅のデカいタイガーストライプ。

M16を背負っている。右の腰のホルスターにはM1911ナインティーンイレブンが収まっている。

その隣には少し細身の陸自迷彩の人。89式ではなくSCARっぽいストックを付けたHk416なのが面白い。ちゃんとセレクターが「安全・単射・連射ア・タ・レ」な辺りにこだわりを感じる。

そしてデザートピクセルの戦闘服を着て、特に銃を持たずに俺の手を引いているのは、女性だった。

女性の手が、俺の手を、握っていた。

女性が、その細くて滑らかな手で、俺の手を、女性が、握っていたのだ。


「オ゜ピッ」


どう発音したのか自分でも分からない声を上げて、そこで記憶は途切れた。

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