冬と猫

するめ星人

第1話

横浜にはあまり雪が降らない、私は物心がついてから雪遊びなど五、六回ほどしかした記憶がないほどに。もし雪が降れば近所の子供たちと雪合戦やかまくら作りに興じたいものだと夢想する。暇を持て余した私は、なにか驚くような出来事でも起きないかと期待に胸を膨らませながら、こたつの中で日々を無為に過ごしている。

2月も終わり、気づいたら庭の桜も花開いていた。もうしばらくすれば赤くて可愛らしいさくらんぼが実る。これは野鳥や野良猫、時には狸やハクビシンとの取り合いになる。甘くてすっぱい、芳醇な果実を口にしながら毎年、春の訪れを実感する。春までもうしばらくの辛抱だ。

庭の桜にメジロが留まっていた、おそらく花の蜜を吸っているのか。日光が燦々と降り注ぐ晴れの日でも部屋の中はしんみりと冷ややかだった。カーテンが開け放たれて部屋に日光が差し込むと、部屋は少しだけ暖かくなった気がした。私は陽の当たる場所で寝転ぶと、よりいっそう春が恋しくなった。

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冬と猫 するめ星人 @taroshimal

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