第5話 話し合い

 シズルがユースティアのことを受け入れることに抵抗があったのは、ルキナに対して申し訳なさがあったからだ。


 そこに前世の記憶が、という名目をもって自分を正当化させようとしていたあたり、恋愛ごとに対してはいまいち強くなれないとシズルは思う。


 そのルキナ自身が背中を押したことで、元々ユースティアのことは友人として好んでいたシズルとしてもこれ以上悩む必要はない。


 とはいえ、だからすぐに、はいそうですと答える前に、やはりユースティア自身の言葉も知りたいと思っていた。

 それに、ルキナの本心も。


 そう思いシズルは屋敷に戻ると、それぞれ話し合う時間を取ることを決めて――。




 部屋に入ってきたのは、ユースティアだった。


「シズル」

「ユースティアが先だったんだ」

「ああ、ローレライに言われてな」


 学園で見たとき、率先して行動を起こすのはユースティアで、ルキナは控えめな行動を取ることが多かった。

 だがどうもこの屋敷に来てから、主導権を握っているのはルキナな気がする。


 部屋で事前に用意していたテーブルを挟むように座る。


「……」

「……えっと」


 正直言って、シズルはこれまでユースティアのことを、女性という目線で見たことはなかった。

 自分にはルキナという婚約者がいて、彼女と共に在ること以外は考えていなかったからだ。


 だが今、初めて目の前の少女を『女の子』として意識しつつ見る。

 すると、まつ毛が長いとか、肌には沁み一つなく綺麗だとか、これまで見えなかった部分がたくさん見えた。

 

 スタイルも良く、美しい金色の髪は輝いていて、空色の瞳を真っすぐ見つめると吸い込まれそうな錯覚になる。


 ルキナとは方向性が違うが、間違いなく彼女はシズルが見てきた女性の中でもトップクラスに入る美少女だった。


「……ユースティアはさ、大丈夫なの?」

「お前との婚約の話か?」

「うん」


 王子の件、ユースティアに非はない。だがそれでも責任を背負うのが彼女だ。

 今回の件は彼女の貴族としてのプライドを酷く傷つけたのではないかと思う。


「正直言って、最初にこの話を聞いたときは戸惑った。だが、相手がお前だとわかって、喜んだ自分もいたんだ」

「喜んだ?」

「ああ……あの学園での出来事。最後の最後まで、私の傍で支えてくれたのは婚約者であるジークハルト様ではなく、幼馴染であるミディールでもなく、お前だった。そんなお前に、私は……」


 ユースティアは一度言葉を切ると、黙り込む。しかししばらくして、覚悟を決めた様に顔を上げる。 


「たしかに、惹かれていたのだ」

「……」

「駄目だと分かっていた。この気持ちは絶対に隠し通さなければと思っていた。だというのに、周りは次々とお前との婚約を進めていく。戸惑いと、嬉しさと、卑怯な自分に対する嫌になる気持ちと、ごちゃ混ぜだ」

「うん」


 それは、シズルも近しい部分があった。彼女のことは友人として好ましく思っていた。だがそれがいきなり婚約者、それも二人目のと言われて、混乱していた部分が多い。


 だから思考を放棄して逃げ出そうとしたりもしたし、諦めに近い形で受け入れようとも思ったときもある。


 だがしかし、こうして改めてユースティアと向き合って、そんな中途半端な気持ちじゃ駄目だとはっきりわかった。


 それは、彼女にもルキナにも失礼な行為なのだから。


「俺はまだ、ユースティアのことを女の子として好きか、と言われると答えられない」

「ああ……」

「だけど学園にいた頃から、君のことは尊敬していたし、友人として好ましいと思ってた。だから、これからは婚約者としてのユースティアをもっと見せて欲しい。もっと教えて欲しい。そうすればきっと、俺は君のことを――好きになるから」


 もしルキナという婚約者がいなければ、自分がユースティアに惹かれていたと思う。それは学園にいるときに何度も思ったことだ。


 だからこそ、これから彼女と共に在ると決めたなら、きっと自分はもっと惹かれることだろう。


「……ありがとうシズル。こんな私を受け入れてくれて」

「逆だよ。俺が君に、君たちに受け入れられたんだ」


 そして、その環境を整えてくれたのはルキナだ。


 いくらエリザベートやイリーナ、ラピスラズリ公爵家などが根回しをしたところで、自分たちの気持ちが動かなければどうにもならなかったはず。


 それに気づいて、先に色々とフォローをし続けてくれたのは、間違いなくルキナの功績である。


「ローレライにも感謝しなければ。お前がいないうちにな、色々と教えられたよ」

「へえ、なにを?」

「お前が如何に彼女を大切に思っているか、そして彼女のお前に対する思いをな」

「……俺がいないところでそんな話をされるのは、ちょっと怖いなぁ」


 本気で思っていることではあるが、冗談交じりにそう言うとユースティアは少しおかしそうに笑う。


 ――本当に、いったいなにを話したんだろうか。


 いつもグレンが言っているが、女性たちが集まって男のことを言うとき、そこには絶対入り込んではいけない。

 迂闊に入ると、後戻りは出来なくなるらしい。


 シズルはグレンのそう言うところはあまり尊敬していなかったが、しかし先人の教えというのはとても参考になる。


 だからあえてそれ以上は触れず、その代わり――。


「ねえユースティア。君のことをもっと教えてくれる?」

「ああ……その代わり、お前のことも教えてくれ、シズル」


 この屋敷に帰ってきて以来、ユースティアと話すときはいつも気まずさがあった。


 しかし今、ようやくそのわだかまりが解消されて、二人は笑い合う。


 それからしばらく、お互いのことを話すために、二人きりの時間を過ごすのであった。



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