第24話 処遇
シズルたちが冒険者に絡まれたことは、すぐにギルドまで広まった。というのも、あんな街中で起こした騒動が広まらないはずがないのだ。
しかもこの街の顔と言ってもいい冒険者が、幼い子どもにやられてしまうなど、日々を退屈に過ごしていた者たちとっては格好のネタだった。
噂はどんどん広がっていき、きっとあの時絡んできた冒険者たちはもうこの街にはいられないだろう。
「申し訳ありませんでした!」
シズルはさすがにこのままではまずいと思い、ギルドに顔を出して改めて説明を求めようと思ったのだが、それより早くセリアを筆頭に冒険者ギルド職員から頭を下げられる。
「まあまあ、別にセリアたちが悪かったわけじゃないから頭を上げてよ」
「ですが、これらは明らかにギルドの不徳です! ましてや侯爵家子息であるシズル様に襲い掛かるなんて!」
「向こうは俺のことを知らなかったみたいだし、あの時の俺は一個人、ただのD冒険者のシズルだったから、気にしてないよ」
「たとえシズル様が許そうとも、貴族様に手を上げるなど言語道断! 即刻冒険者としての資格を剥奪、そして侯爵家へ連行致します!
困った、というのがシズルの感想だ。別にあの程度のことでいちいち目くじらを立てるつもりはないのだが、どうにもギルド職員たちの熱量は自分の想像を超えている。
たしかにあの冒険者たちの行動は問題だ。だがしかし、彼らの言い分も決して間違いではなかった。
たとえばこれが、シズルのように貴族ではなくただの冒険者であれば、喧嘩両成敗レベルの話であったかもしれない。
少なくとも、冒険者の資格を剥奪されることもなければ、貴族に突き出されることもなかったはずだ。
貴族としての自覚はあるとしても、その特権階級に甘んじる気はないのだが、しかし自分の周りはそうは思ってくれないらしい。
さあどう説得しようか、と悩んでいると、アポロが不思議そうにこちらを見ている。
「うん? どうしたのアポロ?」
「ぅー?」
首を傾げているが、彼の言葉はイリスしかわからないので、彼女に助けを求める。
『なんでこの人たちはシズルを困らせるの? だって』
「……えーと」
その言葉を聞いて言葉に詰まってギルド職員たちを見ると、彼らはどこか気まずそうな顔をしている。どうやらイリスはわざと彼らにも聞こえるように言葉にしたようだ。
ギルド職員たちとて悪気があったわけではない。むしろシズルのためにを思って動いているはずだ。
だがしかし、その中に別の思惑もあった。すなわち、このフォルブレイズ領における領主である侯爵家の怒りを買いたくないという打算が。
だからだろう。幼い少年にそれを指摘されたような気分になり、一様に気まずそうな表情をしてしまうのは。
「いい、アポロ。彼らは俺を困らせようとしてるわけじゃないんだ」
「ぅー!」
『でもシズルがもういいって言ってるに、全然聞かずに望まないことをしようとしてるよー、だって』
「うーん」
今の一言にそんなにたくさんの意味が込められてるんだと思いつつ、どう説明すればいいか。
そこまで考えて、そもそもアポロを説得する必要がないことに気が付いた。
「ねえ」
シズルがセリアたちに声をかけると、彼らは一斉に背筋を伸ばして顔を強張らせる。
「とりあえず、さっき絡んできた冒険者たちの処遇は、もっと簡単なものでお願いね」
「っ――! ですが!」
「父上と義母上にはちゃんと手紙を書いておくから。厳しい処遇を求めたギルドに対して、自分が抑えたってね。だから、ここらで手打ちにしよう。だって、これ以上言われても、俺も『困っちゃう』からさ。ね、アポロ?」
「ぅー!」
笑顔でそう言うと、アポロは同意するように両手を上げてギルド職員たちを威嚇する。どうやら彼の中では、シズルに対する優先順位はかなり高いらしい。
まだ出会ってそう時間は経っていないのに、何故だろうと思うが、今はそれを考える時ではないだろう。
「ってことで、いいよね?」
「は、はい! かしこまりました! では彼らは冒険者ギルドのランクを二つ下げ、さらに一年間、再試験を受ける資格を剥奪します!」
「まあ、それくらいが妥当かな」
今回の件、自分たちだから怪我無く終えたが、もしあの冒険者たちよりも弱い者が襲われていたら、大惨事である。
反省くらいはしてもらう必要があるが、これ以上の処罰を求める必要もないだろう。
そうしてギルドに報告を終えたシズルは、外に出るとアポロの頭をクシャクシャと撫でる。
「ありがとう、アポロのおかげで助かったよ」
「ぅー」
『アポロお手柄だね』
「ぅー!」
イリスと一緒に彼を誉めると、嬉しそうに無邪気に笑う。
「おうシズル! なんだギルドにいたのか!」
「あ、兄上。ちょっと用事があってですね――って」
ローザリンデと二人でデートをしていたはずのホムラが、なぜ冒険者ギルドにやってきているのだろうと思っていると、後ろには簀巻きにされた見覚えのない冒険者が引き摺られている。
「それ、もしかして……」
「なんかいきなりダンジョンに潜れないのは俺らのせいだー、つって襲い掛かってきたからよ。ボコボコにしてやろうと思ってたら、なんかやたら機嫌の悪いローザリンデに――」
「おいホムラ! それ以上言うな!」
兄の言葉にシズルは思う。きっとそれまでのローザリンデはさぞ機嫌も良かったことだろう。それはホムラとのデートを楽しんでいた証拠だ。
「なるほど」
「おいシズル、なにがなるほどだ! なにを分かった風に頷いている! 違うからな! お前が思っているようなことじゃないからな!」
「わかってるよ。ローザリンデがこの冒険者たちをボコボコにしたの理由も、ちゃんとわかってるから」
「わかってんなら教えてくれよ。こいつ全然教えてくれなくて――」
「シズル! 言うなよ! 変な想像で変なことを言うなよ!」
言うつもりはないが、言わなくても察した方がいいとは思う。
とはいえ、この子どもをそのまま大きくしたような恋愛観しか持っていない兄には中々難しいのだろう。
そんな風に少しだけローザリンデをからかっていると、後ろからイリスとアポロが話し込んでいる声が聞こえてきた。
「ぅー」
『うん、そうだね。みんな仲いいね』
「ぅー?」
『もちろん。アポロも一緒で仲良しだよ』
「ぅー! ぅー!」
そして、そんな自分たちを見て、イリスもアポロも嬉しそうに笑うのであった。
――――――――――――――
【後書き】
どうしても書きたい衝動が止められず、完全新作の短編を投稿しました。
●タイトル
『果て無き旅路の果てのルサルカ』
●キャッチコピー
【エピローグ短編】魔王討伐後、エルフの魔法使いが旅に出る物語の『序章』
●URL https://kakuyomu.jp/works/16816452218641361380
短編で軽く読めると思いますので、ぜひこちらも読んで頂けたら作者としても嬉しいです。
良ければよろしくお願い致します。
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