第17話 巨大ゴーレム

 大きい、硬い、重いというのはそれだけで脅威だ。


 巨大ゴーレムの細長い腕から繰り出される攻撃は、鈍い風切り音がダンジョン内に響かせながら、まるで鞭のようなしなりを保ちつつ迫ってくる。


「はっ! そんな大振りが当たるかよ!」


 上段から叩き潰そうとしてくるその一撃をホムラは大きく横に飛んで避けると、一気に距離を詰める。


 彼の狙いはその長く伸びた足部分。


 シズルから見ても、あの巨大ゴーレムの身体はあまりにもバランスが悪い。こうして立てているだけでも奇跡に思えるほどだ。


 ゆえにそこを狙うのは当然、なのだが――。


「っ、全然効いてねえ⁉」


 ホムラが全力で叩きつけた大剣は金属音を打ち鳴らすだけで、ゴーレムを倒すことはおろか、ダメージを与えることすら出来ていない。


 先ほどまではアイアンゴーレム相手でも力づくで叩き潰してきたが、どうやら集まることで密度が上がり強度も強くなっているらしい。


 ただのアイアンゴーレムの寄せ集め、というわけではないようだ。


「ローザリンデの槍もあんまり効いてないし、これは相当厄介かも」


 時折飛んでくるレーザービームを避けながら、シズルはまるで羽虫を払う様に両腕を振り回している巨大ゴーレムを眺める。


 動き自体はそこまで早いわけではないので、ホムラにしてもローザリンデにしても当たることはなさそうだが、こちらの攻撃も通じないのであれば千日手状態だ。


『シズル……』

「うん? どうしたの?」


 腕の中ですっぽり収まっているイリスが、服をクイクイと引いてくる。なんだろうと思って軽く視線を向けると、クリッとした翡翠色の瞳が巨大ゴーレムの一部分を見ていた。


『あそこだけ、魔力の流れが違うよ』


 そう言いながらイリスが指さしたのは、巨大ゴーレムの左胸。人で言うところの心臓部分だ。


 シズルも集中して見てみると、たしかにあの一部分だけ、他とは違う魔力の渦のようなものを感じる。


「もしかして、あそこが動力部分?」


 アイアンゴーレムの身体に覆われているから分かり辛いが、その隙間からわずかに金色が見え隠れしている。恐らく、あそこにこの巨大ゴーレムを操っているゴールドゴーレムがいるのだと分かった。


「けど、あそこをピンポイントで撃つのはかなり難しいかも」

『ブンブン動き回ってるもんね。道、作る?』

「うーん、それなら当てられるけど、ダメージ与えられるかなぁ?」


 仮にシズルが雷弓で打ち抜いたとしても、ダメージを与えられるかわからないのがネックである。


 というのも、先ほどのシルバーゴーレムですら邪魔をするだけで、大したダメージを与えられなかったのだ。あの上位互換であるゴールドゴーレムに、同じ攻撃が通用するとは思えない。


 確実に一撃で倒そうとすれば、かなり魔力を練る時間が必要となるだろう。


 だがその間にあのレーザービームを撃たれたら、避けられる自信はなかった。


 なにより、一撃で決められなかったときが厄介だ。一気に守られてしまえば、今度こそ打つ手が無くなってしまう。


「さて、どうしたもんか……」


 巨大ゴーレムの周囲で動き回りながら攻撃を仕掛けているホムラとローザリンデに教えてもいいのだが、彼らとてかなり高い位置にあるゴールドゴーレムをピンポイントで打ち崩すのは相当難易度が高い。


 その攻撃をしくじって、一撃でも喰らえばあの巨体である。まともに受けきれずに潰されてしまうだろう。


 なによりあのゴールドゴーレムがこちらの会話が分かるのかは分からないが、大声で伝えればこちらの狙いがバレてしまう。


 ホムラたちには伝えることが出来なかった。


「やっぱこっちが、なんとかやるしかないよね」


 弱点が分かっても、それを打ち砕くための手段が取れないというのは中々もどかしい。とはいえ、こういった時のためにこれまで様々な武器を練習してきたのだ。


 とはいえ、イリスを守りながらというこの状況では、シズルとてどういう手段を取ればいいのかわからない。


 そうして悩んでいると、腕の中にいるイリスがもぞもぞと動き出す。


『私が守るよ』

「イリス?」


 そういう彼女はシズルの腕の中から降りると、そのまま目を閉じて両手を組む。すると風のないはずのダンジョンに、うっすらと黄緑色の柔らかい風が充満し始めた。


「これは……?」

『矢避けの風<<シル・フィールド>>』


 イリスがそう言った瞬間、その風がシズルとイリスの前に壁となって渦巻く。それとほぼ同時に、巨大ゴーレムがこちらに向かってレーザーを放ってきた。


「っ――イリス、危ない!」


 その軌道は、間違いなく自分たちを打ち抜くもので、シズルは思わず声を上げる。だがイリスは微笑みながら、動こうとはしない。


『もう大丈夫』


 そして、その言葉の通り巨大ゴーレムの放つレーザーはその風によって逸らされてしまい、シズルたちに当たることはなかった。


「……おお」

『ね?』

「うん、凄いね。これなら……」


 相当な破壊力を秘めたレーザーのはずだが、どうやらイリスの魔術の前には無力だったらしい。


 それならシズルは思う存分、魔力を込める時間が得られる。問題なのは、あの巨体が直接こちらに攻撃を仕掛けてくる場合だが――。


「ホムラ! わかっているな!」

「おう!」


 ホムラやローザリンデもこちらの状況を把握したらしく、動き方が変わる。


 それまではダメージを与えることに重きを置いていた二人だが、今はゴーレムがこちらに直接来ないように邪魔をする形だ。


 それはつまり、シズルならこのゴーレムを倒せるという信頼。


「さあ、それじゃあ今度こそ終わりだ」


 先ほどとは違う、魔力を込め切ったその稲妻の矢は、激しいスパークを放ちながら黄金に輝く。込められた魔力は強大でありながらも、圧縮に圧縮を重ねられ、細い矢へと変貌していった。


 ギリギリと弓を引きながら、シズルはその雷の矢を巨大ゴーレムの心臓部に狙いをつける。


『道は作るよ』

 

 イリスがそう言った瞬間、シズルと巨大ゴーレムの間に風の通り道が生まれる。


 それは以前フェンリルと戦ったとき同様、ゴーレムがどれだけ動いても目的地までの道は違えることはない。


「ありがとう、イリス!」


 そしてシズルはその風に身を任せるように受け入れて、ゴーレムを狙い撃つ。


「打ち抜け、稲妻の矢!」


 そして、解き放たれた閃光が走ると同時に、鈍い金属の隙間から見え隠れてしていた黄金、ゴールドゴーレムに突き刺さり――。


「弾けろ轟雷!」


 その矢が内部から激しい雷を発し、その巨大ゴーレムの全身を破壊しつくす。


『ゴ、ガ、ガ……』


 しばらく立ち尽くしていた巨大ゴーレムだが、ボロボロとメッキが剥がれるようにアイアンゴーレムの欠片が落ち始め、一気に全身を崩してしまう。


 そして、むき出しになったゴールドゴーレムは、壊れた機械のように鈍い動きを見せながら、その活動を停止させるのであった。


―――――――――――――――――――

【後書き】

本日、書籍版『雷帝の軌跡~俺だけ使える【雷魔術】で異世界最強に~』が発売してから一週間となります。


おかげ様で売れ行きは新シリーズとしてはかなり好調で、応援してくださった読者様方には感謝しかありません。


本当にありがとうございます!


引き続きWEB版は変わらずの更新頻度で投稿していきますが、もし良ければ書籍版もかなり加筆をしてますので、楽しんで貰えたらと思います!


これからも変わらずの応援、よろしくお願い致します!

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