第16話 合体

 それからしばらくして――。


 周囲には粉砕されたアイアンゴーレムが瓦礫のように崩れ落ちており、そこにキラキラと銀色が混ざっていた。


 もはや数十以上いたゴーレムはみんな、二人によって粉砕されたのだ。


「これで、あとはあの金ぴかだけだな」


 ホムラが最後のシルバーゴーレムを叩き潰し、最後まで動かなかったゴールドゴーレムを睨む。


「気をつけろよホムラ。あのシルバーゴーレムとて、アイアンゴーレムよりもずっと強かった。そしてこいつは……」

「おお、わかってるって。結構ヤバ気な雰囲気をひしひしとさせてやがるぜ」


 ゴールドゴーレムはホムラが言う様に、シズルから見てもかなり危険な雰囲気を漂わせている。


 だがそれ以上に、ここまでシルバーゴーレムたちが倒されるところをただ見ているだけというのが、不気味だった。


『シズル……おかしいよ?』

「ん、なにが?」

『あのゴーレムたち……倒したはずなのに――』

『ガ……ゴ……』


 イリスがなにをを伝えようとしたとき、ゴールドゴーレムがゆっくりと両腕を前に出した。

 

 慌ててホムラとローザリンデが武器を構えて警戒するが、しかしなにも起きない。


「……あぁん?」

「ホムラ、油断するな。このゴーレムのプレッシャーは危険だ」


 そんなローザリンデの言葉に、シズルはイリスを守るように背後に置き、ゴールドゴーレムを睨みつける。そして、全員が警戒をしただけの、無言の時間が流れた。


 すると、今度はゴールドゴーレムが急にフルフルと震えだす。その仕草はまるで、怯えた小動物ようだ。


 だがしかし、ローザリンデが警戒するように、シズルもまた、この無機物とは思えないプレッシャーを放つ目の前のゴーレムから目を離せない。


 そして――。


「ゴォォォォォォ‼」

「っ――」


 突然、ゴールドゴーレムが怒ったように激しく叫びをあげると、巨大な魔力が嵐のように吹き荒れる。それに共鳴するように、倒したはずのシルバーゴーレムやアイアンゴーレムがカタカタと動き始める。


「……あれ?」


 その光景にシズルは違和感を覚えた。なにか、これまでとは異なる状況なことに気が付いたのだ。


 だがしかし、それがなにかわからない。そう思っていると、先ほどイリスがなにかを言いかけていたことを思いだす。


「ねえイリス。なにに気付いたの?」


 振り返りそう尋ねると、イリスは真剣な表情で倒れたゴーレムたちを見ていた。


『シズル……今までのゴーレムは、倒したら全部ダンジョンに吸い込まれてたよね? だけどこの部屋のゴーレムは……』

「……あ」

『ゴォォァァァァァァァ‼』


 その言葉にイリスがなにをいいのかに気付くと同時に、ゴールドゴーレムが更なる叫びをあげる。


 そして――。


「なっ⁉ 倒したはずのゴーレムたちが――」

「あのゴーレムに集まっていきやがる⁉」


 ローザリンデとホムラが驚き、その言葉の通りアイアンゴーレムとシルバーゴーレムが、ゴールドゴーレムにの下にまるで超強力な磁石によって吸い寄せられるように集まっていった。


 そして四体いたシルバーゴーレムは両手両足に、そしてそこにくっつくようにアイアンゴーレムたちがベコベコと張り付いていく。


「……うわぁ」


 その光景に、シズルは少し前世の戦隊モノを思い出してしまう。


 戦隊モノシリーズにはお約束があり、倒した敵が巨大化してヒーローたちに襲い掛かるのだ。


 それに対抗すべく、ヒーローたちも己の相棒であるロボットなどを合体させて戦う。


 今のゴーレムは、まるでその戦隊モノのロボットのようだ。もっとも、見た目ははっきり言って不格好であるし、なによりヒーロー側というにはどうにもダサかった。


 どんどんとアイアンゴーレムが集まっていき、すでに巨大な金属の塊となって目の前にそびえ立つそれを見ると、さすがに圧迫感がある。


 重量というのはそれだけ強力な武器だが、金属の塊で出来たそれはすでに全長だけでも十メートル越しており、圧倒的な質量と言っていいだろう。


 ただし、手足が妙に細く、ひょろっとした胴体はどうにもバランスが悪い。


 これまで数多の合体ロボットを漫画やアニメで見てきたシズルからすれば、残念な形としか言いようがなかった。


『シズルもあれを格好いいと思うの?』

「いやー、あれは微妙かなぁ。もっとこう、全体的に太さが欲しい」

『なんか細くて格好悪いもんね』


 というのがシズルとイリスの感想だ。だがしかし――。


「おおお! なんかしんねぇけどカッケェじゃねえか!」

「そ、そうか? 私にはどうにも理解出来んが……」


 兄であるホムラにはそれがどこか浪漫を感じさせるのか、興奮した面持ちでゴーレムを見て声を上げる。


 たしかに男として、合体ロボットというそれだけ興奮するのかもしれない。シズルだって集まっていくアイアンゴーレムたちを見たとき、色々と期待したものだ。


 残念ながらローザリンデの感性には合わないらしいが、これも仕方がないだろう。もっと格好良かったらきっと、彼女もホムラの気持ちを理解出来たはずだ。


「と、軽口を叩くのもいいんだけど……あれって実際、相当ヤバイやつだよね」

『私、あれをどうにかできる自信がない』


 いくらひょろっとしていて見た目がダサかろうと、相手は全長十メートルを超える金属の塊だ。


 しかも魔術的なコーティングもされているのか、見た目のバランスの悪さに比べてしっかりと大地を踏みしめている。


 たとえばホムラがあれに斬りかかって、転ばすということは恐らく出来ないだろう。


「すっごい見下ろしてくるし……」


 黄金に輝く瞳らしき部分が、こちらをじっと見つめている。


 今のところ動く気配はあまりないが、少なくとも敵対認識はしているらしい。


 そしてその瞳がキランッと輝いた瞬間、そこに魔力が宿るのが分かった。


「って、まさか⁉」

『きゃっ⁉」


 シズルは慌ててイリスを抱えると、その場から飛ぶ。それとほぼ同時に、巨大ゴーレムの瞳から黄金の光線が放たれた。


 その閃光は元々いた地面を吹き飛ばし、地面に大きな穴が空けられる。


 もしその場にいたらと思うとぞっとする。それほどの破壊力だった。


「レーザーって……」


 シズルは思わずそれを放った巨大ゴーレムを見上げてしまう。どうやら今の一撃を連発出来るわけではないらしいが、あまりにも脅威すぎる。


 幸い初動がわかりやすいので、自分やホムラ、ローザリンデからすれば避けるのはそう難しくはないが、イリスは危ないだろう。


「イリス、悪いけどしばらく抱えられててね」

『う、うん!』


 落とさないようにひざ下と背中で支える腕にしっかりと力を籠めると、イリスも首に回した両手をぎゅっとしてきた。


「兄上、ローザリンデ!」

「おう!」

「ああ!」


 それだけで二人はやるべきことを理解してくれたのか、一気に巨大ゴーレムに向かって距離を詰めていく。


 そしてシズルは自分が先ほどのレーザーのターゲットになるように、巨大ゴーレムの視界で動き続けるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る