第15話 ゴーレム襲来

「これで……ってあれ?」


 空を見れば、魔物の群れが一斉にその姿を消していた。


 どうやら水晶が生み出した魔物は、水晶が消えると同時にいなくなる仕様だったらしい。


「……幻影かなんかだったのかな?」

『普通の魔物と同じ気配はあったけど、どうだろ?』


 イリスと二人で首を捻っていると、ホムラたちが笑顔で戻ってきた。


「おいおいおい、スゲーなイリス! ありゃヤベぇわ! 見直したぜ!」


 ワシワシとイリスの柔らかな髪の毛を、ホムラが雑に撫でる。


『わ、わっわ! ホムラ! 髪の毛崩れる!』

「おっと悪い悪い」


 困った様子のイリスを笑いながら、ホムラはその手を離す。そして、その瞳が急に鋭くなった。


「さて……シズルよぉ」

「はい、分かってます」


 ホムラの睨む先、それはイリスがあると言っていた小部屋の方角だ。そして、ローザリンデもまた、そこを鋭く睨む。


 そこから出てくるのは、ガーディアン・ゴーレムの群れ。


 その数は先ほどの魔物たちに比べてだいぶ少ないが、それでもぱっと見で百体以上。


「ここを作った奴は、よっぽど奥の部屋に行かせたくねぇらしいな」

「みたいですね。ところであれ、新型いません?」


 これまで見てきたのは、アイアンゴーレムと呼ばれる種類だ。


 だがしかし、目の前のゴーレムの群れのなかに十体ほど、銀色に光るゴーレムが混ざっている。


 さらにその最奥、そこには黄金に輝く、明らかに他とは違ったゴーレムが混ざっていた。


「……さしずめ、シルバーゴーレムとゴールドゴーレムってか?」

「とりあえず進化版と思ってた方が良さそうですね」


 普通のアイアンゴーレムでもホムラの大剣を弾くほどの強度を持つのだ。


 別に銀や金が強度的に硬いというわけではないが、普通に考えればあれはバージョンアップしたゴーレムだろう。


 見た目で判断しては、とんでもない目に合うかもしれない。


「どうする?」

「まあとりあえず一当てしましょう。イリス、さっきの出来る?」

『……あれ、重たいから無理だと思う』

「あー……」


 たしかに一体一体がとてつもない重量になりそうだ。


 軽い存在を纏めてならともかく、イリスの出力ではあの金属の塊を浮かすことは出来ないらしい。


「んじゃ、とりあえずいつも通り俺とロザリーが行くから、お前はサポート頼むぜ」

「はい。アイアンゴーレム程度なら問題ないと思いますが、あの新型は気を付けてくださいね」

「おう!」


 そして飛び出すホムラ。そしてそれを追いかけるローザリンデ。


 ホムラは最初と異なりアイアンゴーレムの対処法はしっかり覚えているので、先陣を切るそれらを一蹴する。


 そしてローザリンデも的確なやり捌きで関節部分を上手く落とし、戦闘不能にしていった。


「……どうやら、さっきみたいに魔物が増えるってわけじゃないみたいだね」

『うん。だけど……』


 イリスが少し不安そうな表情をしている。


 これまでと違い、アイアンゴーレムの動きには明確な意思があった。


 まるでチームのように、攻撃する時は必ず数体で動き、そして弱点を攻撃されそうになった者を庇うような動きも見せるのだ。


 明らかに誰かが指揮している。


「指揮を取ってるのは、あのシルバーゴーレムだね」

『うん、今までとは全然動きが違う』

「まあ、だからって兄上とローザリンデが不覚を取るとは思えないけど……」


 実際、アイアンゴーレムがいくら集まった所で、対処法を知った二人なら十分対応できる。


 問題なのは、あのシルバーゴーレムがどれほどの力を秘めているか。


 普通に指揮する個体だから弱い、ということであればいいのだが、それはあまりにも希望的観測過ぎることだろう。


「オラァ!」

「シッ――!」 


 次々とゴーレムの群れを破壊していく二人を見ながら、シズルは雷で作った弓で、シルバーゴーレムを狙う。


「響け雷弓!」


 音を切るような甲高い音を鳴らしながら、雷の矢がアイアンゴーレムたちをすり抜けてシルバーゴーレムに向かう。


 だが、その矢が当たることはなかった。


「……見た目の割には結構素早いな」


 シズルの遠距離攻撃の中ではかなり早い部類に入るはずの雷弓であるが、あのシルバーゴーレムは一目してすぐに動き出して躱してしまう。


 だがそれは同時に、あのゴーレムに対してこちらの攻撃が有効なことを意味する。


「それが分かれば十分。それじゃあ邪魔をさせて貰おうか」


 シズルは先ほどよりも少し大きな矢を作ると、それを斜め上、天井に向かって構える。そして矢を番えるその指を放す。


 その矢は一瞬で天井付近まで飛ぶと、そのまま軌道を変えて地面に向ける。


 それと同時にいくつもの小さな矢に分かれ、地上にいるシルバーゴーレムたちに向かって落ちていった。


 感情があるのかないのか分からないが、突然の強襲にシルバーゴーレムたちの挙動は少し遅れる。


 そして三体ほど逃げ遅れた者が、その矢が当たった、のだが――。


「……うん。あんまり効いてないか」


 避けた七体は当然として、当たった三体もそこまでダメージを負ったようにはなかった。


 とはいえ、目的はそもそも倒すことじゃない。シルバーゴーレムたちが焦ったその瞬間、アイアンゴーレムの群れの動きが一瞬鈍る。


「はっはー! 中々ナイスだぜシズル」

「ずいぶんと動きが鈍っているぞデカブツ共!」


 当然、その隙を逃す二人ではない。これまで明確な指揮系統があった分、一度乱れると普通の状態よりも脆いものだ。


 それに気づいたシルバーゴーレムたちが慌てて指揮を執り直そうとするが――。


『――ゴッ』

「やらせないよ」


 その度にシズルは弓を放ち、シルバーゴーレムの邪魔をする。


 十体程度なら纏めて相手に出来るので、次々と矢を放ってはシルバーゴーレムを狙い撃ち続けた。


 自分の邪魔をするシズルを先に倒したい、そう思っているのかこちらを睨みつけてくるが、シルバーゴーレムの前にはまだ大量のアイアンゴーレムが並んでいる。


 さらにその先には悪鬼のごとくゴーレムを蹂躙している二人がいるのだ。


 たとえ感情がなかったとしても、そこを進むことが如何に危険なことはわかるだろう。


 身動きの取れないシルバーゴーレムは苛立ったように身体を振るわせているが、シズルからすれば知ったことではない。


「さあ、どんどん邪魔するよ」

『シズル、私も邪魔して良い?』

「ん?」


 隣を見れば、イリスがシズルの真似をして風の弓を作っていた。


 これまで彼女が攻撃的な武器を持っていることは見たことないが、どうやら相手が無機物だからか遠慮する気はないようだ。


 小さい身体で持った大きな弓は妙にミスマッチで、だがそれがエルフらしくもあり、自然のようにも見える。


「いいよ。どんどん邪魔しちゃおう」

『うん!』


 そして、シルバーゴーレムたちはシズルとイリスの弓の嵐に巻き込まれて、指揮を取れなくなっていく。


 そしてアイアンゴーレムたちが蹂躙されていくのを、ただ見ていることしか出来ないのであった。

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