第14話 イリス大活躍!
それから翌日。
シズルたちは再びヘルメスの大迷宮へとやってきていた。
「うっし、それじゃあ昨日の続きといくか!」
「ホムラ、今朝のことをちゃんと覚えているか?」
「おう、とりあえずあの部屋は後回しにして、俺らは先に進んでいくってことだろ? わかってるって」
シズルはそんな二人の会話を聞きながら、大迷宮の入口で備品のチェックをする。
マールが準備をしてくれただけあって、必要なものはすべて揃っていた。
『どうするの?』
「うん、とりあえず進むよ。階段を目指すにしても、第一層のフロアマッピングを優先するにしても、あの部屋の近くは通ることになるからね」
『うん』
「そこまで行ったら、あとはちゃんと事情を説明して、ローザリンデを説得すればいいだけだからね」
『ホムラは?』
「兄上は特に説得しなくても、ノリノリで乗っかってくるよきっと」
なにせあの兄だってこの場で足止めをされて許せるタイプの人間ではないのだ。他の者に手柄を取られるくらいなら命を賭けて自分の物にする。
ただその命に自分以外の、特に王国とフォルブレイズ領のなにかが乗っかってくると、セーブがかかるだけだ。
「よーしシズル! 準備はいいかぁ!」
「はい、大丈夫ですよ」
そうして再びヘルメスの大迷宮の中へと入っていく。
相変わらず隊列はホムラ、ローザリンデ、イリス、シズルの順番だ。
前回の探索の時にかなり奥までマッピングが完了しているので、しばらくイリスに関してやることがない。
シズルも『
常時魔力を放出し続ける『
ここから長いダンジョン探索を行う上で消耗は抑えるに越したことはないという話だ。
もちろん赤子のころから魔力を増やし続けていたシズルにとっては、負担と言うほどではない。
だが魔物と死闘を繰り広げたいホムラだけでなく、ローザリンデからもそういう声が出たので、素直に従っておくことにした。
すでに魔物たちの生態系もおおよそ掴めている。
ゴーレムがどこから湧いてきているのかは不思議で仕方がないが、苦戦することなく目的地に着いた。
「あーあ。ここはスルーか」
「おいホムラ。なに未練がましくしている。さっさと行くぞ」
「へいへい」
閉められた扉を見ながら動きを止めているホムラだったが、ローザリンデの言葉に従って離れていく。
「ちょっと待った」
「ん?」
「……どうしたシズル?」
前を歩く二人が同時に振り返る。二人の表情は対照的だ。
ホムラは嬉しそうに、そしてローザリンデは嫌そうな表情でこちらを見ている。
どちらも共通していることは、今から自分がややこしいことを言おうとしていることに気付いていることだった。
「やっぱりさ、ここをそのまま放置してたら危ないと思うんだ」
「……それはそうだ。だが見ろ。この部屋にはしっかりと鍵がかかっている。そしてギルドにはすでに事態は報告済みだ。つまり、弱い冒険者がここに迷い込むこともないし、仮にあったとしても自己責任でしかない」
ローザリンデはシズルの言いたいことを理解したようで、それを否定するように首を振る。
「まあ冒険者に関してはそうかもしれないけどさ。もしかしたら、気付かないうちに手遅れになるかもしれないよね?」
「ほう、たとえば?」
「この中の魔物たちが自分たちで殺し合って、勝手に増殖してたりとか」
「……」
ローザリンデが考える素振りをしながら腕を組む。
それは一見、荒唐無稽な話に聞こえるが、ここはダンジョン。人類には解明されていない謎が多々あるし、魔物の生態系すらよくわかっていない。
なぜダンジョンが魔物を生み出すのか、それも学術的には解明されているように見えて、実はただの仮定でしかないのだ。
そして、もしダンジョンが本当に生きているというのであれば、先日の自分たちの行動は、ダンジョンに危機感を与えたかもしれない。
そうなれば、生存本能として、これまでと異なった動きを取るかもしれないのだ。
「たしかにその危険性はある。だが仮に、勝手に増殖していたとしてどう対処するつもりだ? この扉の奥の部屋はかなり広い。あの魔物を生みだす水晶までは遠く、その間には無限に増殖する魔物の壁が存在するのだぞ?」
たとえば、あれが雑魚であればホムラも、ローザリンデも突破は用意だっただろう。
だがしかし、あそこにいる魔物たちはどれもB級相当の凶悪な魔物ばかり。
ホムラたちが簡単に倒しているように見えて、城塞都市マテリアの冒険者たちであれば一匹一匹が死を覚悟するほど強い。
「それはね……」
再び電子錠で部屋を開錠したシズルは、かなり広い空間に大量の魔物たちが跋扈している様子を見る。
その数はすでに五百を超えており、あれを纏めて吹き飛ばせば一気に二千もの魔物が生まれると思うと、恐ろしい罠だ
「倒せば倒すほど生まれる魔物。どういう理屈かわかならないけど、だったら倒さなければいい」
目の前の空間はとても広い。天井も高く、それこそ万くらいの魔物であれば収まってしまうほどだ。
たとえば錬金術師ヘルメスがここで国家転覆を考えて魔物たちを増やしていれば、たった一人で国堕としが成功成したことだろう。
そう考えれば、恐ろしい男がいたものだとシズルは思う。
『シズル?』
「おっと、ごめんねイリス。それじゃあ、お願いね」
『うん』
魔物たちがこちらに気付き、一斉に近づいてくる。そんな魔物たちにイリスが手をかざして一言。
『
そう言った瞬間、この広い空間の足元一帯に薄い緑色の風が広がっていく。
そしてそれが魔物たちの足に触れると、まるで縄に引っかかってコケるように前のめりになった。
そのままコケるかと思えば、その身体は見えない空気の膜で浮かされている。
魔物たちはなにが起きたのかわからないまま、全身をバタバタさせるが、そもそも地面に足が付いていない存在が前に進めるはずもなく、その場で暴れるだけで終わっていた。
『上がれー』
イリスが掌を天井方向へと向けると、五百を超える魔物たちは一斉に天井付近まで押し上げられた。
「……これ、名前は結構可愛いけど、もし軍隊相手に使ったら相当怖い魔術だよね」
「人前では使わせないようにしよう……」
たとえばこの状態で魔術を解除すれば、空を飛べない魔物たちは一網打尽になるだろう。そしてそれは人間の軍隊でも同じだ。
今回の目的が殲滅でないのでそんなことはしないが、イリスが本気になったときの力を見て、ローザリンデと二人で今後のことを相談する必要があると思った。
空を支配する存在の怖さを、再認識したシズルである。
「さて……」
すでに魔物たちは地面に付近に一匹もおらず、四つの水晶を守る魔物は一匹もいない。
『シズル、準備できたよ?』
「うん。それじゃあ兄上、ローザリンデ。あの水晶壊してきて。俺は万が一を考えてイリスを守るから」
「おう!」
「ああ!」
どうやら水晶たちは殺された魔物を四倍にして増やすことが出来ても、なにもないところから魔物を生み出すことは出来ないらしい。
そうして四つの水晶は、それぞれホムラたちによってあっさりと破壊された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます