第12話 怪しい部屋
シズルたちが部屋の中に入ると、これまでと異なり巨大な空間が広がっていた。
トロールのような巨大な魔物や、ダークスライム、スケルトンといった多種多様な魔物たち跋扈している。どうやらゴーレムはいないようだが、どれもこれも危険な魔物たちである。
「良い感じじゃねえか! それじゃあやるぜぇ!」
「あ、勝手に一人で行くなこのバカ!」
それを見て歓喜の声を上げながら、ホムラが魔力を纏って部屋の中へと突撃していき、追いかけるようにローザリンデも駆け出していく。
「……ズルい」
『シズルはいかないの?』
「行きたいけどさ……」
ここでシズルまで離れてしまえば、万が一が発生した場合イリスを守る者が誰もいなくなってしまう。
それはさすがに問題だと思ったシズルは、行くに行けなかった。
『私は大丈夫だから、行ってもいいよ?』
「うっ……いや駄目駄目。やっぱり危ないから俺はここにいるよ」
見ればホムラが楽しそうに魔物たちを蹂躙している。
普通ならその強さに恐れを抱いて逃げ出すところであるが、ダンジョンの魔物たちは特別だ。恐れを知らず、たとえ勝ち目のない敵であっても関係ないと言わんばかりに突撃を繰り返す。
そしてホムラとローザリンデの二人によって次々と屠られていき――。
「……って、あれ?」
シズルが最初に『
おかしいと思って部屋の奥を見てみると、そこには水色の水晶のようなものがあり、そこから波紋が生まれたかと思うと、魔物たちがどんどんと現われる。
「あれは……?」
『あそこから魔物が出てきてるね』
「うん。あれがいつまで続くかわからないけど、ずっと続くんだったら兄上たちでもさすがに不味いかもね」
出てくる魔物たちはそれぞれが危険なものばかり。ホムラたちが一蹴しているせいで雑魚に見えるかもしれないが、普通の冒険者では一匹ですら脅威としか言いようがない者たちである。
シズルはとりあえずその水晶が元凶だと思い、掌に魔力を込めて放つ。
真っすぐ飛んでいく雷は、水晶に当たる瞬間そこから生まれた魔物が間に入り防がれてしまう。
「いくらなんでも、こんな魔術じゃトロールは倒せないか。とはいえ……」
『シズルの魔術、強すぎて壊れちゃうかもだよ?』
「そうなんだよねぇ」
魔物が生まれるダンジョンとはいえ、ここは洞窟の中。ファンタジーゲームと違い、普通に壁は壊れるし下手をすれば内部が崩れて生き埋めだ。
先ほど放った程度の威力であれば問題ないが、トロールを一撃で殺すような魔術を放って、そのまま周辺一帯を崩してしまえば大変なことになる。
「兄上とローザリンデは……囲まれてるね」
『水晶、四つもある』
「全然気づかなかった。やっぱり罠だったんだこの部屋」
『……どうする?』
「とりあえず、一時撤退……」
そう思った瞬間、黒いスライムが近づいていて来たため、雷で吹き飛ばす。まるでサッカーボールのように転がって離れていく姿は間抜けだが、実際は超危険生物だ。
『ブラックスライムに触れたら、問答無用に溶けちゃうから気を付けて』
「うん、大丈夫。っていうか、魔術耐性も強いから結構厄介だね」
そう言いながら雷で出来た小さな槍を生み出すと、それを素早く投げる。それだけでブラックスライムを貫通し、内部にあったコアが粉砕して溶けるように消えていった。
それと同時に、奥にある四つの水晶から四匹のブラックスライムが現れた。さらにホムラがトロールとスケルトンを粉砕すると同じように四匹ずつ生まれてくる。
「なるほどね、そういう仕組みか」
一匹倒せば四匹現れる、凶悪な仕掛けだ。どうやらローザリンデも同じことに気付いたらしく、ホムラの首根っこを引っ張ってきてこちらにやって来た。
「シズル。ここの突破はだいぶ難しいが、どうする?」
「とりあえず、一度撤退して考えよ」
「んだよ、全部ぶっ飛ばせばいいじゃねえか。あの水晶が原因だろ?」
分かっていて、それでも魔物と戦うことを優先していたらしい。とはいえ、あれだけの魔物に囲まれて、水晶のところまで突破できたかと言われれば、厳しいものがあるのだが。
「兄上が単独突破できるって言うなら止めませんけど、無理ですよね?」
「この部屋全部ぶっ壊していいなら余裕」
「それなら俺も出来ますが、なら駄目です」
魔術で吹き飛ばすという選択は、さすがに現状ではまだなかった。それはホムラもわかっていたらしく、諦めたように頭をかく。
「せめて魔物の再投入にタイムラグがあれば話は別なんですけどね」
「ほぼノータイムで四倍の数が生まれるのはどうしようもないな」
自分の言葉にローザリンデも同意してくれる。これで四人とも納得したので、一度部屋の外へと向かっていった。
「……でも」
シズルは思う。
これまでの道のりでは、ここまであからさまに危険度の高い部屋はなかった。もしかしたら、ここにはなにかを隠してるのかもしれない。
『シズル、奥に小部屋があるよ』
そんなシズルの思いを後押しするように、イリスがそう言う。
それを聞いたシズルは振り返り部屋を見ると、たしかに奥に続く道が見えた。イリスが言っているのは、あそこのことだろう。
「……なんか怪しいね」
そこを『
偉大なる錬金術師ヘルメス・トリスメギストスが生み出したこのダンジョン。この先にいったい何があるのか、興味が引かれてしまう。
とはいえ、こんな危険な部屋の存在を放置しておくわけにもいかず、一度ギルドにこの部屋のことを知らせるため、城塞都市マテリアに戻るのであった。
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