第11話 ダンジョンアタック
ギルドでもらった地図が役に立たなかった以上、ここからはしらみつぶしに道を進んでいくのが、迷宮攻略の定石だ。
シズルたちは前衛をホムラとローザリンデ、そして真ん中にイリス、そして後衛にシズルという形で進んでいた。
『ホムラ、次は右だよ』
「……おう」
先頭を歩くホムラはイリスの指示通りの道を進む。その隣ではローザリンデが辺りを警戒しながら進んでいた。
「あ、ローザリンデ。そこの曲がり角の先、魔物が三体いるから気を付けてね」
「……ああ」
そんな自分の言葉に頷いた彼女は、角を曲がると同時に飛び出した。
そしてシズルが彼女の援護をするために追いかけると、巨大な人型の魔物――トロールがホムラとローザリンデによって倒された。
「おお、お見事」
『ホムラもロザリーも凄いね』
トロールは外界ではB級の魔物扱いされている凶悪な魔物だ。もしこれが地方の村にでも現れれば、一匹で近隣の村が壊滅してしまうだろう。
だと言うのに、彼女たちからすればそこらに転がっているような魔物たちと同じレベルでしかなかったのか、瞬殺である。
「イリス、そろそろ次の層の階段かな?」
『うん……あと少しだよ。えっとね……』
イリスが手に持った紙に簡易の地図を書いていく。
風の通り道を辿って作られたそれは、次の層までの道のりはもちろん、行き止まりや広い部屋などまで明確に記載されていた。
シズルはその地図を見ながら『雷探査』をしてみる。
「あ、この部屋は結構魔物が集まってる。もしかしたらなんかあるのかも」
『行く?』
「え、そりゃあ行くでしょ。せっかくのダンジョン探索なんだし、ちゃんと一層一層、攻略してから進まないと」
シズルは前世でRPGなどを攻略する際、基本的にすべてを攻略してから進むタイプだった。
というのも、そこでしか手に入らない武器や、イベントアイテムなどが手に入る可能性があるからだ。
今回のダンジョン攻略は、もちろん貴族として最深部に到達することが目標だ。
少しでも早ければ、その分だけダンジョンブレイクの危険性も減るのだから、早期解決を求められる。
とはいえ、元々千年も前から存在するダンジョンだ。今日明日、いきなりダンジョンブレイクが起こるとは考えづらい。
それよりもむしろ、どれだけ深い層まで続いてるのか分からない以上、一層一層きっちり攻略していき、後続の危険性を下げることの方が重要だろう。
もっと言えば、せっかくのダンジョン攻略をもっと楽しみたいというシズルの思いがあった。
「ね、兄上もそう思いますよね?」
トロールを倒して戻ってきたホムラに笑顔でそう尋ねるが、ホムラは戦闘後だというのにどこか不満そうな顔をしている。
「兄上?」
「面白くねぇ……」
「……え?」
「面白くねぇぇぇ! んだよこの安全なダンジョン攻略! イリスがマッピングを完全に終わらせて、シズルが魔物の位置全部把握しちまって、全部が先手必勝! 不意打ちで魔物はぶっ殺せちまう! ダンジョン攻略っつったらなんかもっと色々あるだろ! 罠がないか調べたり、いきなり魔物と遭遇して危険な目に合ったりとかよぉ!」
ガァァァ、と不満を爆発させるように大声で叫び、己の想いを全力で伝えてくる兄に、シズルはなるほど、と思う。
兄からしたら、攻略本を片手にゲームをしているような感覚なのだろう。
そもそも命がけのダンジョンアタックをゲームと一緒にしていいはずはないのだが、シズルも確かに物足りなさを感じてはいた。
シズルとて、攻略に関してはなんでも壁は高い方が燃えるタイプなのだ。ただし、貴族の勉強だけは別であるが。
「兄上の言い分はもっともです」
「だよな! だよなぁ! これじゃあなんのワクワクもねえぇよなぁぁぁ!」
「それじゃあイリス、次からはマッピングしないようにしよっか」
『え、いいの?』
「うん。もちろんいい――」
「いいわけあるかぁぁぁ!」
「「がっ⁉」」
脳天にとてつもない衝撃が走り、あまりの痛さに思わず蹲る。
隣を見れば、同じようにホムラも蹲っていた。
そして少し見上げれば、普段から鋭い瞳はさらに釣り上げながら見下ろすローザリンデの姿。
「お前たち二人は……そんなのだからバカだのアホだの言われるのだ! いいか、ダンジョンに危険は付き物だ。その危険が少しでも減るというなら、これほどありがたいことはない!」
「っぅ……だけどロザリーよぉ……」
「だけどもしかしもあるか! イリス、こいつらはバカだから絶対に言うことを聞くなよ!」
『う、うん! わかった!』
ローザリンデの勢いに押されてイリスが言質を取られてしまう。
これでもう、彼女を説得することは不可能だろう。そのことに不満を隠せないシズルとホムラだったが――。
「なんだその目は……お前たち、まさか不満があるのではないだろうな」
そのトロールすら一睨みで石化させてしまいそうなほど凶悪な邪眼を前に、二人はそっとその目を逸らす。
「さて、ようやくお前たちも理解してくれたようで私も嬉しいよ」
「脅迫じゃねぇか……」
「脅迫ですよね……」
そんな明らかに威嚇の意味が込められた笑顔で見下ろしてくるローザリンデに、シズルとホムラは目を合わせて小さく呟く。
「ん? まだなにかあるのか?」
笑顔の裏に、魔界の大悪魔のような圧力をかけてくるローザリンデに、フォルブレイズ家の二人は完全敗北をするのであった。
「二人とも納得してくれたようで何よりだ。さて、とはいえシズルの言うように、我々だけが先に進み続けても危険は残るからな。とりあえず下の層に行くのは明日以降にして、今日は探索しながらマッピングをするとしよう」
そう言いながらローザリンデはイリスが作った地図を指さしながら、このダンジョンを回る順番を決めていく。
「ホムラ、いつまでもそう拗ねるな。もしかしたらシズルの魔術でも察知出来ない魔物が現れるかもしれないだろう?」
「ち……わぁったよ」
「シズルもだ。ここに魔物が集まっているとなれば、なにかがあるのは明白だ。気を引き締めていくぞ」
「ん、了解」
そしてシズルたちはイリスが作った地図を頼りダンジョンの中を進んでいく。
まずは下の層へと向かう階段までまっすぐ辿り着き、道中でどんな危険があるかを調査しつつ、新しい道へと進んでいった。
「とりあえず、入口から階段までに危ねぇ罠とかはなさそうだな」
「ああ……それに他の道もな。あとは……」
ローザリンデが睨む先には、先ほどシズルが見つけた魔物の集まる部屋がある。
他の広場と違い、なにかありますよと言わんばかりに金属の扉が設置され、中に入れないようになっていた。
「シズル、中にはどれくらいの魔物がいるのだ?」
「だいたい二十匹くらいかな……トロールとかスライム系とか、それっぽいのがいるのはわかるけど、さすがになんの魔物かまでは」
「そうか。まあ、そこまでわかれば十分だ」
「へへ、腕がなるぜ!」
ローザリンデは自身の持つ紅い槍に力を籠める。どうやらこの扉を壊す気のようだ。
「あ、ちょっと待ってね」
せっかくの歴史的建造物を壊すなど、もったいない。そう思ったシズルが扉に近づき、そっと掌を鍵がある部分にあてる。
「『
魔力を込めたその瞬間、ガチャンと鈍い音がして鍵が動く。
以前から雷魔術で何ができるだろうと思い、こうして色々なアイデアを形にしていたが、それがこんなところで役に立つとは思わなかった。
基本的には、電力で金属を動かしているだけだが、重要なところにある鍵のほとんどが金属製なので、ある意味使い勝手のいい魔術になるかもしれない。
「よし、開いたよ」
どうだと言わんばかりに笑顔で三人に振り返ると、彼らはみんなどこか複雑そうな表情をしていた。
いったい何事だろうかと思っていると、ホムラがぽつりと――。
「……お前、絶対にその力を悪用するなよ」
「しませんよ!」
しかし、たしかに危険な力だと、言われて初めて気付くシズルであった。
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