第10話 ダンジョンとは
シズルたちがダンジョンに入ってから、かなり奥へと進んでいた。
事前にセリアから得ていた情報によると、ヘルメス大迷宮に存在する敵は二パターン。
一つは千年前にヘルメス・トリスメギストスが作り上げたガーディアン・ゴーレム。
どのような金属を使って作り上げているのか不明であるが、その強靭な肉体は普通の冒険者では太刀打ちできないほど硬く、B級冒険者たちが壊滅させられたのも、結果的にはこのガーディアンが原因だという話である。
その金属を持ち帰られればいいのだが、どういう理屈か倒されたガーディアンはダンジョンに溶けるように消えてしまい、素材を持って帰ることができない。
そしてもう一つが、この迷宮から生まれる魔物たちの存在。
「人口のダンジョンだからてっきり、中で繁殖した魔物がいるんだと思ってたけど……」
シズルの目の前で、ダンジョンの壁からボコボコと音を立てながら出てくる魔物を見ながら、自身の想像と違う展開に若干の焦りを覚える。
「うお、ダンジョンから魔物が出てくる瞬間とか、初めて見たぜ」
「私もだが……結構気持ち悪いな」
「とりあえず、倒しとこっか」
魔物の頭や足などがダンジョンから少しずつ出てくるので、それらが生れ落ちる前に一匹一匹『
ビクンッ、と一瞬身体を振るわせた魔物たちは、途中で息絶えたせいか、その状態のまま地面に落下した。
人間大のカエルの下半身だけが情けなく落ちたその様子があまりにもグロいせいか、イリスが少し顔をしかめている。
「……ごめん」
『ううん……大丈夫だよ』
ダンジョンの生体については専門知識があるというわけではないが、ここは人口的に作られた迷宮だと聞いていた。
そのためこれは後でギルドに報告しなければと思いつつ、先に進む。
「もうギルドで渡された地図は役に立たないな……」
「そうだね」
このヘルメス大迷宮は一層が広いうえ、かなり複雑な構造をしている。
地図などがなければ迷ってしまい、最悪の場合は魔物ではなく餓えによって倒れてしまうかもしれない。
そのため事前に冒険者たちはローラー作戦で地図を作り出してくれていたのだが、出てくる魔物たちはフォルセティア大森林にも負けないくらい凶悪な魔物が多く、第二層の途中までしか地図は出来上がっていなかった。
「仕方がない。闇雲に歩いて我々も遭難するわけにはいかないからな。ここからはマッピングを優先して動くか」
「後は魔物やゴーレムたちの生態系もだな」
ホムラとローザリンデの二人が話を纏めているところを黙って見ていると、イリスが裾を引っ張ってきた。
「ん、どうしたの?」
『二人はなんの話をしているの?』
「ああ……なんて言ったらいいかな。俺たちはこの迷宮に入る前に、セリアから事前情報を貰ったよね?」
『うん、あれのおかげでここまでスムーズだった』
「そうだよね。で、俺たちは強いから、どんどん先に進める。けど俺たちだけが先に進めても、迷宮攻略はきっと時間がかかると思うんだ。だから、出来る限り情報を共有して、後続の人たちが少しでも攻略を進められるようにするんだよ」
そう言うとイリスは首を傾げていた。
『私たちだけで攻略したら駄目なの? ダンジョンにはお宝とかもあるんだよね?』
「あー、まあね。普通の冒険者だったら、多分みんなそういう考えを持つと思うけど……」
なにせ、ダンジョンは一獲千金を狙える、冒険者たちの夢の舞台だ。
それこそ情報を独占し、その情報を高値で売りつけるなどザラにある。しかもそこに信憑性など皆無なものまであるのだから、たちが悪い。
「だけどさイリス。俺たちは冒険者である前に、フォルブレイズ侯爵家の人間なんだ。だから優先するべきはダンジョン内部の宝や情報の独占じゃなくて、早期の攻略。そうしないと、領内の人たちが危険だからね」
『あ……』
今はダンジョンの情報もかなり多く出ているうえ、それなりに専門家たちが攻略法について考えるためダンジョンブレイクが起きたという事例はほとんどないが、昔はそれで一国が滅びたなどという話はよくあったものだ。
そのため各国は当然、ダンジョンが出来れば早期解決を目指していく方針。具体的に言えば、ダンジョン攻略者にはそれなりの身分を用意したり、名誉を与えたりなどだ。
冒険者のほとんどが、家を継げない次男三男以下であったりして、将来性のあまりない人間が多い。
それゆえに、いつか己の立身出世を夢見てダンジョンに向かうのである。
「まあ、そういう理由もあって、二人はここからの動きについて話し合ってる感じかな?」
『そっか、シズルは話に入らないの?』
「俺はダンジョンに関しては素人だからね。二人の方が冒険者歴は長いし、それに――」
ローザリンデはもちろん、意外とホムラもそのあたりの考えに関してはしっかりしている。
自分が楽しむことこそ至上に置いている割には、領内のことに関してきちんと貴族らしい考え方ができるのだ。
「あのあたりは、見習わないとなぁ」
自分はあまり貴族的な考え方が身に沁みついていない自覚がある。
これからルキナと共に生きていくならきっちりしていかなければと思うのだが、どうしても前世の一般人的な考え方が抜けずにいることが多々あるのだ。
とはいえ、シズルももうすぐ十二歳。この世界では十五歳から成人扱いされるので、そう遠くないうちに一人の大人の貴族として扱われるようになる。
そうなれば他のみんなが言っているように、一人の貴族として、フォルブレイズ家から出ていかなければならない場面も出てくるだろう。
「っと、そう言ってる間にゴーレムが来たね」
『あ、本当だ』
鈍い鉛色のアイアンゴーレムはホムラの剣ですら正面からでは弾き返すほどの強靭だ。だが金属の継ぎ接ぎで出来たその肉体は、関節部分が脆く、そこが弱点となる。
「シッ――」
シズルは雷で短刀を生み出すと、それらをアイアンゴーレムに向かって投げつける。
マール直伝の投合術は寸分の狂いもなくゴーレムの関節に突き刺さり、まるで爆発したような轟音と共に内部で激しいスパークは発していく。
『……ガガガ』
そしてそのまま倒れたゴーレムは、ダンジョンに吸い込まれるように消えていった。
「うん、やっぱり攻略法が分かってるとだいぶ楽だね」
『シズル凄い……また強くなった?』
「どうだろう? 自分じゃわからないけど……」
とはいえ、学園にいた間も鍛錬は欠かさなかった。
特に学園内では激しい魔術の鍛錬などが出来なかった分、こうした技術的なものを重点的に鍛錬したため、たしかにレベルは上がったのかもしれない。
「まあ、強くなったんだったら嬉しいかな」
そう言って微笑むと、イリスもまた嬉しそうに微笑んだ。
『あ、そういえばシズル』
「ん? なに?」
『私、このダンジョンの内部構造だいたいわかるよ』
「え? あ、もしかして風の通り道とかで?」
実はシズルも同じ要領で、ダンジョンのおおよその流れは掴めていたので、もしかしたらそうかと思っていると、イリスはコクリと頷いた。
「ちなみに、どんな感じ?」
『とりあえず、地下に繋がる階段のところは行けると思う』
「あ、凄い。俺は階段の位置はわからないけど、魔物の位置とかが分かるから、それと合わせてマッピングしちゃおっか」
自分が活躍できる場を得られたからだろう。イリスは嬉しそうに微笑んでローザリンデたちのところに向かっていく。
そして大精霊に携わる二人の出鱈目ぶりを、このあと二人は目にするのであった。
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