第56話



「ラート!手伝いにきたよ!」


「おお!レナートおぼっちゃま!いつもいつもありがとうございますっ!」


「むしろ、私の願いを、いつも聞いてくれて、こちらこそ、ありがとう。」


ラートさんは、レナートさんを見ると、まるで実の孫がきたかのようにお喜びになりました。


おそらく、これが、ラートさんの素でしょう。やはり、とてもお優しそうな方ですね。






「………………オ、オリヴィエ様!?」


「はい、オリヴィエです。ラートさんにお話がありまして、こちらに参りました。」


レナートさんの後ろからやってきたわたくしを見て、驚きました。


その表情、初めてお会いした時も見ましたね。


「も、もしや、儂は、オリヴィエ様に、何か、失礼なことを………!?」


「えっ!?いえいえ、違います。貴方に対して失礼だとは思ったこと、ありませんよ?」


むしろ、なぜ、そうお思いになったのですか?


もしかして、一般国民に対して高圧的な態度を取る貴族と思われてる?


まあ、リーム公爵家の関係者ならあり得なくはないけれど…………わたくしは、違いますから、ご安心を。ラートさん。


「………ふうむ。でしたら、オリヴィエ様、なぜ儂のような貴族ではない一般国民のもんに話があるとおっしゃるのかね?義娘に用事かい?」


「義娘?ああ、フィロメーナ夫人のことね。」


これは、フィロメーナ夫人と知り合いだと思われていますね。


フィロメーナ夫人が嫁入りしたのは、10年も前のことだからお会いしたことがありません。


噂が好きな幼馴染から、噂で聞いたことがあるくらいですよ。


「わたくしは、フィロメーナ夫人ともお話しをしてみたいとも思っておりますが………今回は、ラートさん、貴方に用事があるのですよ。」


「ふむ。義娘に用事があるわけではないと………オリヴィエ様、その御用事とは何なのかね?」


「わたくしを庭師見習いにして下さい………!」


シーン…………っと辺りが昼間なのに夜のような静寂に包まれました。


ぽかんとした顔をして、ラートさんは、何にも言えなくなっているようです。


「こ、公爵令嬢である貴女様が庭師見習い?」


「はい、庭師見習いになりとうございます。」


庭師見習い……おそらく、今、ラートさんが持つ巨大なハサミで樹木を整えたり、花を育てたりするお仕事なのでしょう?


非常に、気になりますし。なにより、レナートさんがいらっしゃるから、心強いです。


「これは、聞き間違いかのう?年寄りになってくると、たまに、聞き間違えるんじゃよ。」


「いえ、これは聞き間違いではございません。ラートさん、よろしくお願いいたします……!」

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