第14話 機械仕掛けのリベリオン

ヴァニッツを撃破したコーディン達。


しかし、基地ではゾルとヤコブが何やら不穏な動きを見せていて……


「何も難しいことは無いじゃあねぇか……ちょっと手伝ってくれればいいんだ」


「うぐっ……」


締め付ける力がさらに強くなる。


「なあ、このままでいいのか?圧倒的なパワーを評価されないで閉じ込められてるままでいいのかよアアーん!」


「………さい……」


「ん?何?」


「うるさいっつってんだこのド外道がよおおおおおおおおおおおおおおお」


突然トランスは人が変わったかのような叫び声をあげながらヤコブの顔面を裏拳で殴りつけた。


「ぶげぁっ!?」


壁にぶつかったヤコブの後頭部から鈍い金属音が響いた。


「うるせぇぇぇぇぇんだよぉぉぉぉぉぉ……いいぜ……やってやるよ……望み通り全部ぶっ壊してやる!!GROORYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


雄叫びを上げて走り去るトランス。


そこには先ほどまでの気弱そうな雰囲気は全く残っていない。


完全にパニックに陥っているようだ。


「あぁァ……痛ぇクソッ、頭蓋が変形しちまった……あの糞アマが……」


苦痛に呻きながら起き上がるヤコブ。その頭からは鈍い金属音が漏れ出ていた。


「……しかしここでトランスをこちら側に引き込めたのはデカい!あの爆発力、なかなか強力な武器になるぜ……!」


そう呟くと、ヤコブは意味あり気な笑みを浮かべるのだった。










「あの、あんまこういうこと言いたくないんですけど、本当に救難信号送りました?」


ロクショウが不安そうな顔でコーディンに尋ねた。


コーディン、ロクショウ、ファラデー、カスケードの4人は上位種リバース獣のヴァニッツを撃破した。


その際に交通手段のビークルが破損したため、救助を待っているのだ。


しかし、信号を送ってから既に10分が経過しつつあった。


普段は2分もあれば来る救援が全く来ないとなれば不安も一塩だ。


「確かに呼んだ。それなのに迎えが来ないというのは、何かあったということかもしれん……」


「!!」


ロクショウとその場でぐったり寝転がっていたファラデーとカスケードはその言葉に反応した。


「この前の虫みたいなリバース獣が基地内に出たってことですか!?」


「わからん。とにかく、自分達で帰るしかないな」


「げっ!じゃあ徒歩で帰るってことですかぁ~!?」


「いや、それよりもいい方法がある。今から地面を掘って穴を作る」


「……?穴?なんで?」


トンチキな指示に三人は面食らった。


「いいから早く掘れ!横幅を広くしろ!」


わけがわからないまま穴を掘る三人


「よし、そのぐらいでいい。よっ……ぬぉああああッ!」


出来た穴にコーディンが腕を突っ込み力んでみせる。


「な……なにぃぃぃぃっ!?」


3人が驚愕したのも無理はない。


穴から小型のビークルが出てきたのだから。


「び、ビークルだ……ちょっとばかり古いけど……一体なぜ!?」


「廃棄処分になる旧型を買い取り万が一に備えて亜空間の中にしまっておいたのだ。さぁ乗れ!」


4人を乗せたビークルは急加速で基地へと向かった。


「基地が見えてきたぞ、外からは破壊の跡は見えない……ひとまず第二ターミナルから入って中の様子を探るとしよう」


第二ターミナルは第一ターミナルと比べてかなり小さい。


左に旋回し、基地から突き出している第二ターミナルの出入り口へと向かって着陸を試みようというわけだ。


しかしその時、突如外壁に埋め込まれていた対空防御レーザーがコーディン達の乗ったビークルに向けて発射された。


「なっ、何ィィィ!?何故味方のビークルを襲う!?くそっ避けられない!!」


対空防御レーザーは空を舞うリバース獣に向けて開発されたものであり、普通なら味方の期待を襲うということはあり得ないことのはずだった。


至近距離からの射撃に旧型の機動力では対応できず、エンジン部が大破してしまった。


「ターミナル内部に不時着するから瞬間に全員飛び降りろ!!」


内部に滑り込むようにして入り込んだビークル。


地面に接触する瞬間、コーディン達4人はビークルから飛び降り、次の瞬間にビークルは炎上したのだった。


「うわーーーーーーーーーーっ!!」


「ぐえっ」


無事に飛び降りることに成功したロクショウだったが、自分の方向に飛んできたファラデーの体と壁に押しつぶされて蚊の鳴くような悲鳴を上げた。


しかし、そんな茶番を遮るかのように緊急サイレンが鳴り響く。


「どうやら予想以上に深刻な事態だな……」


「リバース獣がメインコンピューター室に侵入しているんでしょうか?」


「その可能性もあるが……別の線もあるかもな……中に入るぞ!どこに敵がいるかわからん、全員負傷している以上慎重に進め!」










「おい、見てくれ!」


カスケードが指指した先にあったのは、何かの衝撃を受けてへこんだ壁だった。


「この破壊の跡……ここで何かがあったに違いないぜ!ここから一番近い部屋を見てくる!」


「待て、カスケード早まるな!」


コーディンの制止を聞かずに走り出すカスケード。


彼を駆りたてているのはテルミットの安否だった。


「テルミット……無事でいてくれよ……!」


カスケードは不安げに呟きながら通路を進んでいくと部屋に突き当たった。


「これは……」


中に入ると、そこには大量の非戦闘員達が倒れこんでいた。


事後ではあったが、明らかに暴力の跡がそこにあった。


「おい、しっかりしろ!何があったんだ⁉」


「うう……」


倒れている非戦闘員の一人から事情を聴こうとするカスケード。


「ぞ、ゾル……ゾルに……」


「ゾル……!!」


ゾル。その名を聞いて合点がいった。


数いる戦造人間の中でも露骨なまでに反発を示していたのはゾルだけ。


周りから見ても明らかに異常であった。


そんな男が遂に反逆を開始したとしたら。


「まさかあいつの仕業だというのかッッ!」


「ゾルが……」


「何?ゾルはどうした!奴は何か言っていたのか!?」


「ああ……お前らの内一人でも足止めしろってな」


「何!?」


ゾルの話を聞いて愕然としていた隙を突いてカスケードの腰にしまわれている銃”イレイザー”に掴みかかった。


「てめぇ!」


非戦闘員よりもカスケードの方が銃を抜くスピードは速かった。


しかし、


「てめぇら……全員そうだってのか!?」


先ほどまで倒れていた他の非戦闘員達がカスケードの周囲を囲んで銃口を向けていた。


目の前の一人を倒すだけでは解決しない。仲間に助けも呼べない。


全員を相手にして負けることは無いだろうが、この上ない足止めを喰らってしまったというわけだ。


「畜生……!」


「はぁぁぁぁぁ!!」


「!!」


その時、凄まじい速度で部屋に入ってきた人影によって非戦闘員達は全員なぎ倒された。


「一人で不用心に突っ込むなんてらしくないじゃん、ファラデーのが移ったの?」


「お、お前……テルミット!無事だったか!!」


人影の正体は女性戦士のテルミット。


彼女の持ち味は脚力であり、それによって超スピードでの走行も可能なのである。


また、この脚力によってカスケードの放った銃弾を蹴り飛ばすという荒業も見せており、二人がコンビ足り得る理由の一つともなっている。


「ゾルの仕業なのか?」


「ええ、ヤコブの野郎も一緒よ」


「あいつら卑怯にも俺達がいない時を狙って……」


「とにかく!一旦みんなと連絡を取らないと!」


”連絡”という言葉に反応したテルミットの胸部のヴァイタルコアから立体映像が映し出された。


「カスケード、テルミット、無事か?」


「ええ」


「ゾルとヤコブの奴らの仕業ですよ。非戦闘員達もみんなグルだ……」


「そうか……お前たち二人はそのまま別行動で行け。二つのチームに分かれて一定の距離を保ちながら探索を続けるが、ゾルかヤコブのどちらかを発見したら一か所に合流しよう」


「わかりました」


「いーや戻らなくていい!俺がお前ら二人の相手をしてやるよ」


「何っ!?……この声はヤコブか!!」


物陰からヤコブが現れた。


どこかからずっとこちらの様子を窺っていたらしい。


「まだ、さぁ行くぜ!!」


直後、カスケードの銃”イレイザー”が火を噴いた。


それをヤコブはひらりと躱した。


「2対1で勝てると思ってんのか糞野郎!テルミット、追ってくれ!」


テルミットは圧倒的なスピードで走り出し、あっという間に射程距離内に入った。


しかしヤコブは焦った様子を見せない。


それどころか二人の攻撃を難なくあしらう余裕すら見せているのだ。


「なんで攻撃が当たらない……実力差は対して開いてないはずだ!」


「こないだのビークル内の戦いでお前らのスタイルは既に見切った。頭いーぜ俺ってよォ~」


「やかましい!!」


遂にテルミットの蹴りがヤコブの腕に直撃した。


「痛……ッ」


「!?」


二人が息をのむのも無理はない。


ヤコブの腕はちぎれ飛び、その切断面からは電気コードがはみ出ていたからだ。


「お……お前、戦造人間じゃないのか……?」


戦造人間は機械ではなく、あくまでも有機的な生命体だ。


しかし、目の前のこの男ヤコブの体は明らかに戦造人間のそれと違った。


「あぁぁ痛ぇなぁオイ……そうだよ俺は戦造人間じゃあねえ~……その正体はな、17年前に開発中止になった戦闘用アンドロイドだよ!!」


「何!?」


戦闘用アンドロイド。


二人も話だけは聞いたことがあった。


戦造人間よりも先に開発されたが、戦造人間よりも耐久性が低いために開発打ちとめになったという歴史の遺物。


「まあどううでもいいことだろ?もう時間稼ぎも十分だ、お前らはここで生き埋めだ。」


「!!」


ヤコブが壁を叩く。


するとたちまち天井が崩れ去り、カスケードとテルミットに降り注いだ。


一足先に脱出したヤコブはその様子を見て満足げに笑った。


「さぁて、ゾルの所に向かうとしますかね……」









「二人との連絡が切れた……まさか敵と遭遇したのでは……」


「こっちに向かってきてるかもしれませんよ……」


残されたコーディン、ファラデー、ロクショウは集まって周囲を警戒していた。


その不安は的中することになる。


「その通りだ」


「ゾル!貴様、一体何を考えている!!」


柱の陰からゾルが姿を現した。


「見ての通り、クーデターさ。ここまで来る間にいろんな設備を破壊してきたから、他の戦闘員達はそっちの対応に追われてここまで来れないだろうな」


「とうとう本性を現したか!てめぇらいったい何のつもりだ?」


ロクショウが憤る。


「コーディン。知っての通り俺達はお前が消耗するタイミングを待っていた。悔しいがはっきり言って全力のあんたとは戦って勝てる気がしなかったんでな……そして今があんたを倒す絶好の好機だ」


「御託はいい!この場で迎え撃つ!」


「はっ!」


ファラデーとゾルが同時に飛び出し、激突した。


「うおぁぁああああああ!!」


「うがっ!!」


ゾルの突進攻撃を食らったファラデーはいともあっさりと引き飛ばされてしまっていた。


「ふん、能力を抜きにすればお前の戦闘力は下から数えた方が早い!ロクショウ、お前もだ!俺が負ける道理はない!」


「くっ……」


言い返せないロクショウ。


ロクショウの戦闘スタイルは相手の攻撃を受け流すという独特なもの。


しかしその技は戦い嫌いな性格の賜物であり、彼は他の攻撃手段を全く持ち合わせていないのだ。


「さぁ、いつまで持つかな?」


ゾルの攻撃をひたすら受け流すロクショウ。


しかしゾルの猛攻は一向に終わる気配がない。


もし一撃でも食らえばそれだけでロクショウは戦闘不能になるだろう。


「つあっ!」


「ぐっ!!」


その窮地を救ったのはコーディンだった。


横からのボディーブローを食らってゾルが大きくよろめいた隙を見てロクショウは間合いの外に逃れることが出来た。


(くそっ、なんて一日だ……立て続けに二連戦だなんて全く厄日だぜ!俺は戦いが嫌いだというのに……こうなったら……!)


「いててててて……ロクショウ!俺達も体調を援護しよ……おっ?ロクショウ、どこ行った?……あっ!」


吹っ飛ばされた先から戻ってきたファラデーの目は、一目散に逃げだすロクショウの姿を捉えていた。


「オイィィィィィイイイイイイイイ嘘だろロクショウ!?マジでどこ行くんだよ!?」


「うるさいッ!!二連戦なんてやったら死んじまう!俺はもう逃げるぜあばよ!!」


「……ロクショウお前さぁ…………」


ファラデーはその後姿をただ見送ることしかできなかった。


「お前は反逆者だ。このまま再起不能になってもらうぞゾル!」


「いいや、まだだ……そろそろ”切り札”が来る頃合いだからな」


「何?」


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


数々の修羅場を潜り抜けてきたコーディンも驚きのあまり手を止めてしまった。


敵になるはずがないと思っていたトランスが壁を突き破ってコーディンに襲い掛かってきたのだから。


「トランス!?馬鹿な、まさかこいつらの味方なのか!?」


「その通り!!今この癇癪女はお前の敵だ!!さぁやれ!!」


「GRORYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」


「ぐっ!?このパワーは……!!」


全力で振り下ろされたトランスの拳。


大して筋肉質には見えなかったが、それを食らったコーディンのガードを一発で崩してしまうほどの破壊力があった。


「よぉ、今来たぜ」


「ふん、遅すぎるぞヤコブ……」


ヤコブが駆け付けた。


彼の役目はカスケードとテルミットを別室に隔離することでコーディン陣の戦力を削ぐことだったようだ。


「あいつらは能力こそ平均的だが、集団戦においては意外とそういう奴が邪魔になるからな……で、トランスは上手い具合にやってるみてぇだな!」


「ああ、あの女がここまでのパワーを秘めていたとは驚かされたぜ……」


「あいつをこっち側に引き込んだ俺の手柄だな、ヒヒ」


ヤコブの顔は心なしか嬉しそうに歪んでいた。


「くたばれっくたばれっっっクタバレぁぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


トランスによる連続の往復攻撃がコーディンを襲う。


「ぐわあああああああああああああ…………!」


強敵ヴァニッツとの死闘を繰り広げてからまだ一時間もたっていない。


ダメージが残った体には、その猛攻を耐えきるだけの余力は残っていない。


肋骨が折れる。内臓が潰され悲鳴を上げる。


コーディンがここまで一方的に苦痛を受けるのは実に19年ぶりだ。


「うっしゃああっっっっ!」


「ガッ!?」


耐えかねたコーディンは絶叫と共に体から放射状エネルギーを放射。


その圧でトランスが一瞬怯んだ隙を見て逃れた。


「はぁっ……はぁっ……トランスの力は危険だということは把握していたが、こんな最悪な形でそれを見せつけられるとは……うぐっ……………………あぁぁ…………」


吐血しそうになるのを抑える。


今はなるべく出血を避けたいという判断からか、あるいは単なる製造本能がそうさせたのか。


しかし敵はそんなことを考えている余裕を与えてくれなかった。


「余計なことをするんじゃあないッ!とっととくたばれ!!」


「ゾル!?っゴハァッ!!!」


みぞおちを狙った無慈悲な一撃。


それを食らったコーディンの口からはダムのように血が噴き出した。


「最強と呼ばれている男に止めを刺すのはこのゾルにこそ相応しい………」


壁にもたれかかった姿勢から動けないコーディンは必死に考える。


(避けなくては………しかし動けん………はっ!!)


「隊長コーディン、その首もらったァァ~ッ!!」


ゾルの手刀がコーディンの体を引き裂こうと振り下ろされた。



















しかし、なんとコーディンはそれを左手で受け止めた。


「何だと!?何故俺の攻撃を耐える………はッ!!」


瞬間、ゾルはその理由を理解した。


コーディンは壁と自分の体の隙間に手を入れ、数々の戦いを共にしてきた鈍器”フラクチュア”を取り出し、それを床に突き刺すことで支柱としていたのだ。


「そんな、そんなバカな………!」


「………ゾル」


「うっ!?」


「………お前を潰す」


その言葉を聞いて、ゾルの顔がみるみるうちに絶望に染まっていく。


「あぁ………違う………俺だ………俺が勝っていたのに………!」


彼は気づいたのだ。


今この瞬間、勝機は完全に潰えたということを。


「うおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


フラクチュアを引き抜く勢いに任せてゾルの腹にフラクチュアの柄がぶち当たる。


勢いよく飛ばされたゾルを追いかけ、空中に飛び出すコーディン。


そのまま間髪入れずに追い打ちのラッシュをかける。


「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ~~~~!!!!!!??」


あまりの激痛にゾルの口からはもはや苦悶の声すら出ない。


「オルああァァァァァァァァァァアッッッッッッッ!!!!!!!!!!」


止めの一撃。


それでヤコブの体はコーディンの射程を離れ、壁を5つもぶち抜いて、先ほどゾルが設備を破壊したエリア。


対応に追われている大勢の戦闘員達がひしめくど真ん中に墜落した。


(勝利は目前だった………なのに………………………なぜ………………………………………)


「グオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


しかし完全に我を忘れているトランスはコーディンの覇気に怯むことなく挑んでくる。


瞬間、コーディンはフラクチュアでその拳を受け止め、ビリビリと大気が揺れる。


長い間フラクチュアをふるい続けてきた経験と体の底から湧き上がる生存本能による反射がそうさせたのだ。


「ウリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR………アッッッッッッッッ!!??」


二人の攻撃はしばらく相殺されていたが、20秒の攻防の末、遂にコーディンの攻撃がトランスの体勢を崩した。


そのまま勢いのままトランスを地面に押し倒す。


「もう止めろ!!止めるんだ!!お前たちでは………俺に敵わない!!!!」


超至近距離で気圧され、トランスの目に正気が戻っていく。


「ウうぅ………あああ…………隊長………ごめんなさい………………ごめんなさい………………っ!」


「はぁっはぁっはあっ………」


こうしてコーディンはゾルとトランスに勝利した。











コーディン達の激闘を横から見ていたヤコブは鼻で笑った。


「隊長さーん………偉そうに啖呵切っとりますが、俺が残ってるってことを忘れてねぇか?今度こそ終わりだろうよ」


「おいヤコブ!!お前の相手はこの俺だ!!」


ファラデーが立ち塞がる。


しかし、ヤコブは余裕を崩さない。


「あのなぁファラデー。お前じゃあ俺には絶対勝てねぇんだよ」


「うるせぇ!!スパァァァァァァキンッ!!!」


ファラデーの拳から電流が飛び出す。


しかし、そのエネルギーはヤコブの腕に吸われていった。


「何!?」


「ああ、言ってなかったか?俺はアンドロイド。お前の電気は無意味だファラデー!!」


「そんな………なら炎はどうだ!ステージ2!!」


ファラデーは勢い良く手をかざすも、炎は出てこない。


「エネルギー切れだな………もういいだろ?俺に従うかどうか、隊長が死ぬまでに考えておけよ」


ファラデーを放置してコーディンのもとへ向かうヤコブ。


「クソッ………また背中を見てるだけかよ……俺って、もしかして強くないのか……?」


無力感に打ちひしがれるファラデー。


「いいやファラデー……お前は強い!!攻撃するんだ!!!!」


後ろから聞き覚えのある声がする。カスケードだ。


カスケードとテルミットがよろめきながらも駆け寄ってくる。


部屋が崩れる瞬間、テルミットがカスケードを抱えて反対側から脱出し、回り道してここまで戻ってきたのだ。


「無理だ……もう俺にそんな力は無い!!」


「いーやファラデー……撃ってみなきゃわからねぇ!ツヴァイレイザーを使うんだ!!!」


カスケードはファラデーの腕に自らの手を添えた。


その手は暖かく、弱弱しいものの強い希望に満ち溢れていた。


「……オッケーわかったぜ!」


ファラデーは腰のホルスターから新型拳銃”ツヴァイレイザー”を取り出し、震える手で引き金を引いた。


その瞬間、眩い光が銃口から放たれ、ヤコブが走っていった方向へと一直線に飛んで行った。


「……何!?ぐおおおおおおおおお!?バカなッもうエネルギーは無いはずなのにィィィィィィ……」


その破壊エネルギーをもろに食らったヤコブは為すすべもなく吹き飛ばされたのだった。





コーディン:重傷

ファラデー:重傷

カスケード:重傷

テルミット:比較的軽傷

ロクショウ:軽傷

ゾル:重傷

ヤコブ:大破

トランス:比較的軽傷



こうして、主要メンバーは全員を巻き込んだ戦いは幕を閉じたのだった。






「折角街に来たんだから、ゆっくりしましょ!」


「私、これからどうなるの……」


「ロクショウてめえぶっ殺してやるからなッッッ」


「俺はただのらりくらりとしてたいだけだからよ……とりあえず生きて帰るぞ!!」












「久しぶりね、コーディン」


「こいつは……!?」


次回 下町アポカリプス

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