第13話 雷神は空を征く

一度倒したにも関わらず復活したヴァーミン。


その驚異の生命力と寄生した相手を支配し操る能力で戦造人間達を翻弄するが、コーディンによって亜空間に放逐され、完全に消滅したのであった。


「今日こうして集まってもらったのには理由がある。お前たちには、次のリバース獣との戦いに参加してもらう」


ファラデー、カスケード、ロクショウ、そしてコーディン。


一同は隊長室に集合していた。


「はぁ………それは構いませんが、いつもはこんな風に呼び出したりしないじゃあないですか?」


「うむ、今回はかなりの強敵でな。あらかじめ知らせておく必要があるんだ。特にファラデー、必要なのはお前だ」


「えっ、オレぇ?」


ファラデーが間の抜けた返事をした。


「次の敵は空にいる。当然上位種だ。だからいつものビークルでは無く武装ジェットに乗りながら戦うことになる。しかし並のミサイルだけで上位種を倒すのは非常に困難!よってお前の電気エネルギーが決定打となるのだ」


「し、しかし何故次の敵が空にいるとわかるんです?リバース獣は神出鬼没と相場が決まっているのに!」


「………奴は150年も前からずっと生きている。俺達戦造人間の追跡を逃れてな」


「!?」


つい最近戦闘員に就任したばかりの新人3人にとってその話は衝撃以外の何物でもなかった。


「驚くのも無理はない。だが奴は一定の周期で姿を消すのだ。必ず30年に一度……戦いの真っ最中であってもな。これまで何人もの戦闘員が撃破に臨んだが、皆一様に逃げられている」


「失踪する、ということですか?」


「うむ。だからこそ短期決戦でなければならない!この”ツヴァイレイザー”でな!!」


「それは!?」


コーディンが取り出したのは重厚な拳銃『ツヴァイレイザー』。


使用者からエネルギーを吸い上げてしまう諸刃の拳銃だ。


「これは元々お前が使うことを想定して作られたものだ。だからファラデー、これから一週間お前に付きっきりで特訓を行う!こいつを完璧に使いこなせるようにな!!」


ファラデーの能力は体から電気を発生させること。


つまり、”無から有を生み出す”ことが可能なわけだ。


その特性を応用すれば、ツヴァイレイザーの欠点を補うことが可能だとコーディンは考えた。


「えっ………特訓~~~~~~~~!?」













”ヴァニッツ”。


それは大型飛行機にも匹敵する大きさを持つ鷲のリバース獣。


その生態は全くもって奇妙であった。


ぴったり30年に一日だけに現れ、1時間程経つと霧のように消え去ってしまうのだ。


何故このような習性を持っているのかは不明だが、人間にとって極めて迷惑なことだった。


多くの戦造人間がそのタイムリミットの内に倒しきれずに逃してしまい、しかも次出現する時には傷が完治していたため振り出しに戻るというわけだ。


30年前、まだボイルが生きていた頃、彼もまたヴァニッツと戦った。


両者は互角に勝負を進め、どちらが倒れてもおかしくない状況だった。


「よせ!もうすぐ奴は消える!これ以上深追いすることはない!!」


「諦めろと言うのか……?そいつは無理だ!こいつは今!ここでこの俺が仕留める!」


「おい!」


ノギのの忠告を無視してボイルは空中に飛び出した。


空気を操る能力で空を飛び、ヴァニッツに接近していく。


「アアハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「……!?」


その時、ヴァニッツは狼狽えたのか動きが止まった。


ボイルの拳がヴァニッツの胴体に命中。それで勝負が決まったかのように思われた


「何……!」


しかし、致命傷には至らなかった。


わずかに表皮を削り取りはしたが、それ以外の部分は既に霧のようになって消えようとしていた。


「一歩及バズ」


ヴァニッツのしゃがれた嘲笑う声を背中に受け、ボイルは止まった。


30年に一度しか現れないヴァニッツを逃がしてしまった。


その事実にボイルの誇りは大きく傷つけられた。


「くそったれがああああああああ……!」


雲が広がる空にボイルの叫びが虚しく響いた。














「えっ、じゃあカスケードじゃなくてファラデーがツヴァイレイザーを使うの!?なんで!?」


病室のベッドでカスケードから話を聞かされたテルミットは思わず素っ頓狂な声を上げた。


「最初は俺も驚いたけどよ、でも仕方のないことだぜ。なんでも過剰なエネルギー吸収をあいつの電気で補えるんだそうだ」


「それはそうかもしれないけど、あいつが射撃してるとこ見たことある?」


「………いや、無いな」


「はぁ………うまくやれるかしら………」


「まぁ、出来る限り上手く教えるよ」


「えっ?カスケードも教えるの?」


「ああ。なんだかんだ言って銃の扱いは俺が一番!ってことだぜへへへ」


「もう………調子に乗らない!!」


その日から、エネルギー制御を教えるコーディン、射撃訓練担当のカスケード、生活管理担当のノギの3人による強化特訓が始まった。








それから一週間が過ぎ、ファラデー達は向かうことになった。


「くたびれたぜ……まさかファラデーの射撃があそこまで下手くそだったとは」


「なんだよ、特訓で強くなったんだからいいじゃんか!」


みっちり鍛えられたファラデー。


カスケードは小言を言っているが、その姿からは多少の頼もしさが感じられた。


「いいか、今回はいつも使っているビークルではなく特殊武装ジェットを使う。そのため内部設備もいつもより削減されている」


「げっ、冷蔵庫が空だ!帰りの楽しみなのによぉ~!」


「それぐらい我慢しろよ!」


「しかし椅子も心なしか固いな……出来るだけ早く終わらせた方がよさそうだ」


「全員揃ったな。では行くぞ!」


4人の戦士を乗せたジェットが大空へと飛び立った。






「見えてきたぞ!」


運転席に座ったロクショウが何かを見つけた。


標的である巨大な鷲のリバース獣、『ヴァニッツ』だ。


「なるほど、デカいな……アレを相手にするのか」


カスケードは既に拳銃を構えて臨戦態勢に入っていた。


ヴァニッツもこちらに気が付いたらしく、爪を立てジェット目がけて突進してきた。


搭載されている銃火器で牽制を試みるも全く退く気配は無く、このまま衝突するかと思われた。


しかしそうはならなかった。


間一髪のところでヴァニッツは悲鳴を上げ後ろにのけ反った。


「ふぅぅ~……物体をすり抜ける弾丸!流石にこれは予測できなかったろうぜ!」


カスケードが放つ弾丸は奇妙なことに障害物をすり抜けて狙ったものだけを破壊することが可能だった。


これは特殊なエネルギーを弾に込める特訓を積んでいるからであり、これを自在に扱える戦造人間はなかなかいない。


「いやしかし!これまで何度も戦造人間の追跡を逃れている奴だぞ?もう同じ手が通じるとは思えない!」


「うっ……」


戦造人間との戦いもヴァニッツにとって初めてではない。


今までのリバース獣とは違い相手もある程度こちらの行動パターンを学習しているのだ。


「……!おいロクショウ!!あいつどこ行った!?」


「何……!」


コックピットの窓からは既にヴァニッツの姿は無かった。


「死角に回り込んだか……ファラデー!外に出るぞ!」


「えっ!!」


ファラデーは驚いているが、決して急に湧いて出てきた無茶ぶりではない。


ジェットの外に出ることは最初から想定されており、そのための訓練も既に済ませてあるのだ。


天井のハッチを開き、そこから二人は外に飛び出した。


当然何の準備もなく飛び出せば吹き飛ばされる。


しかし二人が履いているシューズから発せられる特殊な磁力が機体の上に立つことを可能にした。


しかし、それだけで自在に動けるというわけではない。


体幹でバランスを取りながら相手の攻撃を避け続けるという極めて高度なテクニックが要求されるのっだ。


「うおっとと……!」


「早く構えろ!すぐ敵が来る!!」


コーディンはフラクチュアを取り出した。


「はっ!!」


遠心力に乗って振るわれたフラクチュアがヴァニッツの翼に直撃する。


「クエエエ……」


「どぉぉああああ!」


コーディンの腕に更に力が込められる。


そのまま翼を骨ごと粉砕しようとするためだ。


しかし、次の瞬間ヴァニッツの羽毛がいくつか抜け落ちた。


それは鋭利な刃物のようにコーディンの全身に襲い掛かった。


「ぐあああああ……!」


コーディンが後ろにのけ反ったと同時にヴァニッツは空中に逃れた。


この敵に打撃はあまり決定打にならない。


何しろ敵はこちらよりも自在に空を飛び回れるのだから。


「モウ一撃デ落チルカナ」


ヴァニッツは既にコーディンに勝ったつもりになっていた。


それだけ絶望的な状況。


ヴァニッツが羽による攻撃を見せたのは初めてのことだった。


「喰ラエ!」


しかし、ジェットは突如急降下した。


それによってヴァニッツの攻撃は空振りに終わった。


「ムウ……!」


ヴァニッツの胴体に衝撃が加わった。


「今ノハサッキノ銃弾……何ヲ考エテイルカハ知ランガ、奴ラマダ戦ウ気デイルナ!」


地面めがけて落ちていくジェットを睨みつけ


「ソッチガソノ気ナラ乗ッテヤロウジャアナイカ!我ラ種族ハ違エド人間ノ手デ生ミ出サレタ者同士、徹底的ニ戦ウ!ソレコソガ我ガ使命ヨッッッ」


そう啖呵を切ってヴァニッツはジェットを追いかけて降下する。


追いついた時には既にジェットは地面に激突し大破していた。


「何ノツモリダ?テッキリ急旋回デモシテ不意ヲ突コウトシテイルノカト思ッタガ……」


「フン!ソンナトコロニ隠レテイタカ!サア決着ヲ……ウン?」


岩陰にいたのはコーディン、カスケード、ロクショウの3人。


そこにファラデーの姿は無かった。


「一人足リナイ……マサカ!!」


「今になって気が付いたか……今回の本命は、まだ!お前の頭上にいるぜっ!」


「何!?」


見上げると、空中にファラデーの姿があった。


ジェットが降下を始めると同時に飛び上がっていたのだ。


雷雲を背にして地面に銃口を向けている。


「貴様ラ最初カラ……!」


「食らえヴァニッツ!”ダナーズシュート”ッ!!」


ツヴァイレイザーの銃口に集約された電気エネルギーが放出され、半径50mの円柱となって大地に降り注ぐ。


「グワァアアァアアアアアアアアアアアアアアァッーーーーー!」







空から落ちてきたファラデーはロクショウに受け止められたが、既に体力を使い果たしたようでぐったりしていた。


「ハァ……ハァ……残念ダッタナ!今回モ私ノ勝チ逃ゲトイウワケダ!」


時間が来れば自分は消える。


そうなればこの傷も自動的に癒える。


その自信がヴァニッツを突き動かしていた。


しかし。


「オカシイ……モウ時間ハ過ギテイルトイウノニ何故私ハ消エナイ?」


「狙い通りだ。強力なエネルギーをぶつけることでお前を引き留めることが出来るらしいな………先代隊長ボイルが考案した対策だ」


「クッ、オノレ………ソレダケデ勝ッタツモリカ!?時間切レマデ待ッテ次ノ世代ニ後ヲ任セレバオヨカタモノヲ、前達ハ自ラノ首ヲ絞メタノダゾ!」


「何………後の世代に託す、だと?」


コーディンの眼がヴァニッツを睨みつける。


「違うな………問題を先延ばしにしているだけ。目の前に終着点が見えているのならば!決着をつける!!それが我々の矜持であり義務!!お前との因縁は!今日ここで打ち砕くッッ」


「オオオアアアアアアアアアアアアッ!」


「フン!」


ヴァニッツが飛び出すコーディンが後を追って飛び出す。


「ばあああああああああああ!」


勢いよく突き出された拳がヴァニッツの胴体に命中する。


「マダパワー比べヲシヨウトイウノカ!素手デコノ俺ヲ傷ツケラレル訳ガ無イコトハ既ニワカッテイルダロウニ!!」


しかし、次の瞬間ヴァニッツは呻き苦しみだした。


「GWOOOOOOOON!?」


コーディン一人に気を取られていたため、カスケードの銃弾が目に当たったのだ。


「俺達の事忘れてたな?ちょっとショックだぜ」


「ウガアアアアアアアアアアアア!」


怒り狂ったヴァニッツは空へ飛び上がった。


「ロクショウ!俺を打ち上げろ!」




「はい!」


ロクショウは両手を広げ、コーディンの体をバレーボールのレシーブのように真上に投げ飛ばした。


「ヤハリ追ッテキタカ」


「!?」


コーディンの体をヴァニッツの爪によって掴まれてしまった。


「急降下シテヤル!サッキオ前達ガソウシタヨウニナ!」


「ぐおおおおおお………」


身動きが取れないまま地面に全身を強打。


「うおっ!」


そこはカスケードが立っていた地点だった。


コーディンを放り投げたヴァニッツは次の標的をカスケードに定めたらしい。


「てめぇ!」


カスケードは咄嗟に銃を構えるが、至近距離では分が悪く反撃する間もなくのしかかられてしまった。


「うわあああああああ………」


「調子ニ乗ルナヨ!サッキハ不意ヲツカレタダケダ!!………ン!?」


「何………!?」


「だりゃあああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!」


コーディンとファラデーがエネルギーを帯びて突進してきていたのだ。


「馬鹿ナ!?コノパワーッッッッッッッッッッッッッッッッッ」


巨大な電気エネルギー波を帯びた二人の拳を受けて、ヴァニッツの腹に大きな風穴が空いた。


足をカスケードから離さざるを得ない程に消耗したヴァニッツはゆっくりコーディンの方を見やる。


コーディンも倒れそうになったファラデーの体を支えながら、激闘を繰り広げた相手へと向き直った。


「ウゥゥ……初メテノ感覚ダ……私ハ……死ヌノカ……?」


「ああ、それが死だ」


「ソウカ……ウウ……」


傍から見れば、痛みに苦しんでいるように見えるかもしれない。


怒りにとち狂っているように思われるかもしれない。


しかし、違った。


「ウワハハハハハハ!イヤア~~~~~~~~疲レタァァァァ!!」


「……!?」


ヴァニッツは笑っていたのだ。


それもひどく晴れやかな顔で。


「自分ガイツドコデ生マレタノカ、全ク覚エテイナイ……暴レテハ消エ、戦ッテハ消エ、コノ繰リ返シダッタ……ダカラ死ヌコトナンテコレッポッチモクハナイノサ……」


「……」


「楽シカッタゾ……!マタ会オウ、アノ世トイウモノガアルナラナ、フハハハハハハハ……ハ……」


そう言い残すと、ヴァニッツは完全に消滅した。


もう二度と復活することはないだろう。


「はぁっつはぁっ……強敵だった……そして幸運だった……もしこの4人でなければ、確実に全滅させられていた……!」


コーディンはそこである事に気が付いた。


「……あっ」


それは交通手段のジェットが先ほどの大破していることだ。


「焦って飛び出したのがまずかったか……ジェットを壊してしまったな。よし、お前達!基地まで歩いて帰るぞ!」


『生きて帰るまでが戦い』。そんな格言を実践するかの如く発破をかけるが、肝心の部下達はそれどころではないくらいにくたびれていた。


「無理ですよぉぉぉぉぉ~さっきの突撃で足くじいたからもう歩けない~~~~」


「お……俺も反対です……ていうかもう死ぬ……げほっげほっ」


「ここからだと結構距離ありますし、この二人を運んでいくとなるとまた一苦労ですよ?俺も嫌です」


「なんだと……」


一気に緊張が抜け、コーディンはその場にへなへなと座り込んだ。


「はぁぁ……俺も疲れたし仕方がない、救助が来るまで待つとするか……」















一方そのころ、基地本部のとある一室で二人の戦闘員が話し合いをしていた。


厳密にいえば、『ヤコブがトランスの首を締め上げながら脅迫をしていた』。


「なぁいいかもう一回言うぜ?これから始まる計画にお前も参加してもらう。”はい”か”イエス”のどちらかだけだ……聞き返したり拒否したりしたら即!!!お前の首を切断するッッッ」


「んぐっ……んんんん……!」




所変わってメインコンピューター室。


技術班の一人がゾルに殴り飛ばされた。


それを目の当たりにした他の班員達は恐怖で青ざめている。


「な……何をしているんです!?どうしてこんな事をっ……!」


「やかましい、さっさと言われたことだけを実行しろ!!コーディンが戻ってくる前にな……!」










「これがお前達の本性か!!」


「ごめんなさい、ごめんなさい……!」


「見ての通り、クーデターさ」


「隊長コーディン、その首もらったァァ~ッ!!」



次回 機械仕掛けのリベリオン

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