第12話 アンレスト

ヤコブ達の活躍により、虫のリバース獣は葬られたかに見えた。


しかし、テルミットの様子がおかしく……。

「急に呼び出したりしてごめんねトランス。ちょっとこれからする質問に答えてほしいんだけど」


「?」


虫のリバース獣、ヴァーミンとの戦いから30分も経たない内に、テルミットはトランスを基地の隅に呼び出していた。


トランスは不安を感じていた。


元々人付き合いが好きではない性格だが、それだけではない。


テルミットから、いつもとは違う異様な雰囲気を感じ取っていたのだ。


「この前トカゲのリバース獣と戦ってたの、あれって貴女よね?記録映像を見たけど今とはまるで別人みたいだわ」


「うん……ああやって別人みたいにならないと上手く戦えなくて……」


「いや別に……強そうだって思ってね……だから!」


「!?」


突如、トランスの腹部に激痛が走る。


至近距離からテルミットが蹴りを食らわせてきたのだ。


「どう……し……て……」


口から血を垂れ流し、トランスは倒れ伏した。


「……まずは一人」


そう言うと、テルミットは口角を歪ませた。


まるで凶悪なリバース獣のように。










「こんなところでこそこそと何やってんのヤコブちゃん?」


そこはヤコブの部屋のに秘かに設けられた地下室だった。


「テルミット?どうしてここに来やがった?」


「さぁ?機械のくせして戦造人間の一員ぶってる奴の顔が見たくなっただけよ」


「何だと!?そこまで知ってるとは、てめぇ……本当にテルミットか!?」


「気づくのが遅いんだよとんちき!そうとも私はテルミットじゃない。この前あんたにぶっ叩かれたリバース獣、ヴァーミンだよ!実力未知数で危険なトランスの次は真っ先にあんたをぶち殺してやると決めておったわ!!」


「他人の体を乗っ取っているからといってこの俺が手加減するとでも思っていたのか?まとめて消してやるッ!!」


しかし、ヤコブの攻撃は外れた。


「何ィイイイイ!?」


「潰される寸前にあんたの素性はわかった……あんたの体は機械で出来ている!!」


「!!」


凄まじい力で腕を吹き飛ばす。


その断面には、通常の戦造人間には絶対にないはずの機械配線がむき出しになっていた。


「そしてその回線部を出してしまえば……後は言わなくてもわかるわよね?」


「そんな……止めろ貴様まさか!」


ヴァーミンは神経回線にカッターを突っ込み、力任せにかき回した。


「ぐぉああああああああああ!!」


「精巧な機械ね!痛みもしっかりと感じるとは滑稽だぜ!!」


あまりの激痛に、ヤコブの意識は途切れようとしていた。


(俺は……ここで終わるのか?計画の準備も終わっていないというのに……こんなカスなんぞに……ッ)


「ぐっ!?」


ヴァーミンの攻撃が止んだ。


横から乱入してきたゾルに吹き飛ばされたのだ。


「虫けらがいい気になるんじゃあない……!」


「ちぃ……2対1はちとキツいわね」


形勢不利を確信したヴァーミンは部屋からそそくさと立ち去った。


「逃がすか貴様ああああああああああああああ!!」


「待て!」


「あの野郎をぶちのめさんことには気が済まん……!それを抑えろというのかッ!!」


「目先のことだけに囚われるんじゃあない!その配線を公の目にさらすことになってもいいのか?」


「ッ……!」


その一言でヤコブは冷静さを取り戻した。


ヤコブの正体は10年前に生産終了したはずの戦闘用アンドロイド。


しかし、とある理由でヤコブはその事実を隠し通してきた。


今部屋を出れば、他の職員にそれが露見してしまう。


それだけは絶対に避けなければならない。


「さっさと腕を拾え。直してやる。下準備の続きもあるしな」


「すまねぇゾル……本当に助かった」


そう言うヤコブの表情は、心なしか嬉しそうだった。













「見舞いに来てあげたわよ……カスケードォォォォォォォん」


「……」


続いてヴァーミンが向かったのは、脳震盪のために病室に搬送されたカスケードの部屋だった。


今はベッドで寝ているが、すでに回復しつつる。


そうなる前に楽に始末しておこうという魂胆だ。


「どうしたの?折角来てあげたのにつれないのねぇ」


「いやお前、普段俺が怪我しても見舞いになんて来ないじゃあないか」


「そんなひどいこと言わないでよね、こちとら用があってきたんだからッ」


「ぐふっ!?」


テルミットの本気の蹴りを胸部に食らい、カスケードは吐血した。


あまりにも突然だったのでガードすることすら出来なかった。


「きゃあああああああーっ!?テルミットさん一体何をしているんです!?」


たまたまちょうど入室してきた看護師が惨状を目の当たりにして悲鳴を上げた。


「うっさいわねぇあんた……そんな大声で叫んだら殺されても文句言えねえよなァ!」


しかし、病室から出ようとしたテルミットの背中に衝撃が走る。


カスケードが銃弾を放っていたのだ。


「何ッ!?今の蹴りを食らって生きてるなんて……!」


「こういうことだろうと思って銃を懐に入れてたんでな!はぁっ!」


看護師が逃げた事を確認し、カスケードはテルミットに突撃しながら発砲した。


「フン!いい気になってんじゃあないわよ!アタシのこの体はあんたの銃弾を蹴り返せるということを忘れたかい!」


その言葉通り、カスケードの銃弾はことごとく跳ね返される。


だがカスケードはそれらの一つ一つを涼しい顔でかわしていった。


「いい気になってんのはそっちの方だぜ!俺がどれだけ長い間テルミットとペアを組んでたと思っている!蹴り方やそれによる軌道、大体把握している!」


カスケードはテルミットの足が当たらないギリギリの範囲を攻めることで有利に立ち回った。


そしてヴァーミンを壁に叩きつけ、胸に拳銃を押し付ける。


「これでお前は終わりだ、観念しな」


「そんなことあなたに出来るの?あんたなんかにパートナーの胸を吹っ飛ばす覚悟があるとでもいうのかよぉぉぉこの腐れインポ野郎がぁぁ~ッ!!」


「……」


最愛のパートナーの口から放たれた罵倒にも、カスケードは動じなかった。


目の焦点はぶれておらず、呼吸の乱れも止まっている。


逆にビビり上がったのはヴァーミンの方だった。


(͡コノ男、本気だ……マジ二俺ヲコノ体ゴト始末シヨウトシテイル……!)


このままテルミットの体が致命傷を負えば、それを憑代にしているヴァーミンもただでは済まない。


(……ダガソレガイイ)


カスケードの指が引き金にかかった瞬間、テルミットの口から黒い粉のようなものが吹き出した。


それこそがヴァーミンの本体。


そしてテルミットから抜け出たヴァーミンはカスケードの口から体内に入り込む。


宿主の乗り換えだ。


「……えっ」


テルミットが正気を取り戻した。


その顔には先ほどまでの殺気はなく、代わりに恐怖だけがあった。


乗っ取られている間の記憶がないまま、気が付いたら胸に銃口を突き付けられてたのだから無理もない。


ヴァーミンはカスケードの体で醜い笑みを浮かべてこう言い放った。


「今までありがとうな」


引き金が引かれ、テルミットは吹き飛び、壁に激突した。


「ぅ……!」


大ダメージだ。もはや反撃する力など残っていない。


それどころか、口を動かすことすらままならないようだ。


「おいカスケード!大丈夫か!?テルミットがこないだの虫に乗っ取られたって?!」


慌てた様子のファラデーが駆け込んできた。


そういえば、ヴァーミン達と戦っている最中なにやら口の中に異物感がしていた。


記憶はあいまいだが、ファラデーの言っていることを聞いて思い出した。


「俺は今から隊長を呼んでくる。完全なるとどめを刺してもらうんだ」


「ああ、わかった!」


「……!」


状況を理解した。


さっきまで自分の体内にいたヴァーミンが今度はカスケードを乗っ取っている。


そして、そのことを誰も知らない。


このままでは戦造人間は全滅してしまう。


「ま……待ちなさい……!!」


「おいてめーっ何逃げようとしtんだ!俺がしっかり見張ってるからな!」


ファラデーはまだテルミットが乗っ取られているものだと思い込んでいる。


こうして、ヴァーミンは易々と逃げ延び、コーディンの病室へと向かっていったのだった。





「隊長!」


「ん?どうしたカスケード」


「ご存じかとは思いますが、基地内にリバース獣が入り込んでいます。しかも奴はテルミットの体を乗っ取っている!」


「……何?」




「もう彼女は助かりません。一思いに止めを!」


「そうか……だが、どうして俺にそれを言う?」


「……えっ?いやだから、フラクチュアで確実に止めを刺してもらうために……」


「そうかい、この腕でか?」


「あっ」


コーディンが腕の布を捲ると、そこにはカラカラに干からびた腕があった。


とてもフラクチュアを振り回せる状態ではない。


「戦闘員には既に伝えてあるはずだぜ。なのにそのことを知らないということは……」


(シマッタ!ソコマデハ把握シテネエ!)


「とぼけるんじゃあねえ、お前が敵だって事はもうバレてるんだよ」


(抜ケ目ナイ奴トハ聞イテイタガ、コレ程トハ……ダガコイツハ腕ヲ負傷シテイル。勝機はまだ俺にある!!)


「どうした?攻撃してこないのか?」


「お望み通りしてやるよォオオオ!」


本性を露わにしたヴァーミンは銃を連射しつつ接近する。


しかし、コーディンは銃弾を軽くいなし、難なくカスケードの体を抑えつけた。


「ぐぐ……」


「まともに戦えるのは油断した相手だけか?」


顔を寄せて凄むコーディン。


しかし、それこそがヴァーミンの思う壺だった。


「油断してるのは、てめぇの方だぜ!!」


「!!」


カスケードの体から脱出し、コーディンの口へと侵入していく。


ヴァーミンはこの隙を狙っていたのだ。


(ヤッタ!勝ッタッ!片腕ガ動カナクトモコイツノ性能ナラ他ノ戦闘員ヲ皆殺シニ出来ル!!オ前ラノ負ケダ!!ワハハハハハハーッ)





「……はっ!」


ヴァーミンが抜け落ちたカスケードが我に返った。


「俺は一体……まさか!奴に操られていたのか?」


「あぁ……だが今終わったぜ」


「隊長!?……いや、お前本当に隊長か?」


「身構えるな、コーディン34歳、身長193cm、体重96kg」


「た、確かに本物だ……本物でなきゃこんな正確な情報は知らない……しかしヴァーミンは一体?」


「体内に入って操る能力を持っていたようだが、そこんとこが奴の敗因だな」







(ば、馬鹿ナ!?ナゼコイツノ体ヲ乗ッ取レナイ?ソレドコロカ、動ケン!)


ヴァーミンがいるそこは最早人間の体内ではまく、漆黒の空間だけが広がっていた。


コーディンを操ろうとして逆に拘束されてしまったのだ。


「俺の能力は隙間に亜空間を発生させることだ。それは俺自身の体内であっても例外ではない」


(オノレェェェェ……コノ俺ガ……こんなことでェェェェェェ~~~!)


次の瞬間、ヴァーミンの意識は消えた。


(オゲッ)


亜空間が閉じると同時に、ヴァーミンの体も圧縮されて細胞ひとつ残らずに消滅したのだから。








「えっ?ということは……もう終わりィ~!?二回に渡って続いた戦いが、今のできれいさっぱり片付いたってことぉ!?」


「人間の体を乗っ取って仲間割れを引き起こす……確かに厄介だったがちと俺の能力相性が悪かったようだな」


「……あっ!ファラデーとテルミットがまだ俺の部屋に!早く説明してやらないと!」


こうしてヴァーミンは、今度こそ完全に撃破されたのだった。






「次の敵は空にいる」


「これだけの集中射撃で平然としてやがる!」


「お前にはツヴァイレイザーを使いこなせるようになってもらう」


「と、特訓~!?」


次回 雷神は空を征く

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