ミラクルで和気藹々

冬野こたつ

ミラクルで和気藹々

「もし・・・」

「もし・・・」


「ん?」

誰か呼んでる?日本史の勉強している途中で机に突っ伏して寝てしまったのか。僕は目を擦り顔を上げた。

「えっ?誰?」


「拙者、吉永 信貞と申す。気づいたらここに。お主の家なのか?」


「お主?拙者?」

僕は目の前に立っているちょんまげ姿で腰に日本刀のようなものを下げているおじさんを見た。まだ夢の中なのか?

おじさんを上から下までまじまじと眺めてみた。

どこからどうみても江戸時代の人だ。日本史の勉強しすぎで幻が見えるとか・・・?


「勝手に邪魔してすまない。城から帰る途中急に目眩がしてな。気付いたらここにおったのだ」


「そっそうなんですか」


夢じゃないのか?とするとドッキリか何かか?そういえば裕子の奴、前にテレビ見てて、私も応募するとか騒いでたな。採用されたのか?

それにしても日本刀が本物っぽいし、家の中で草履?


「さとしー、ご飯よー」

リビングから母さんの呼ぶ声がした。


なるほど、みんなが仕掛人なのか?どこかに隠しカメラがあるのかも。悔しいからこの状況を受け入れたってことにして、みんなの反応を見るとするか。


「えっと、吉永さんでしたっけ。まず草履を脱いでもらえますか?」


「おっこれはすまない。土足で上がり込んでしまうとは」


吉永さんは慌てて草履を脱いで、日本刀も腰から外した。

やけに設定が凝ってるな。


「母さんが夕飯作ったので、よかったらどうぞ」


「かたじけない。何がどうなっているかわからないが、腹が減っているのでな。ところでお主の名は?」


「聡です。木村 聡」


「聡か。よろしく頼む。変わった格好に、変わった家だが、ここは何処だ?」


いやいやそこまで芝居に凝らなくても・・・。身分の高い侍の設定か?


「夕飯冷めるので、まずはあちらに」

と吉永さんを連れリビングに向かった。


「聡、お箸とコップ持ってって」

と言いながらこっちを見た母さんが固まった。


「お友達?にしては・・・。先生ですか?」


あれ?母さんは知らないのか。

「こちら吉永 信貞さん。夕飯まだだって言うから」


「そ そうなの?」

母さんは怪訝そうな顔をしながら、何かお出しできるものあったかしらなどと呟いて慌てて台所に向かった。


裕子はこっちを向いて軽く会釈した後、素知らぬ顔でスマホをいじっている。


やっぱり裕子か。母さんにも知らせないなんて人が悪いな。


俺が箸やコップを用意している間に父さんと吉永さんは挨拶を交わしている。


父さんは大の時代劇ファンで、夕飯時はみんなの意見を無視して時代劇の再放送を必ず見ると言うくらい江戸時代が好きな人なので、吉永さんの格好を見て、仲間だと思ったらしくニコニコしている。

さっき僕の部屋に置いてきた日本刀を見たら更に喜ぶだろう。こんな和気藹々で過ごせるならドッキリも悪くないなと僕は思い始めた。


たまたま夕飯は鍋だったので、追加でサラダやおつまみを母さんが作って、ビールで乾杯ってことになった。

そろそろテレビカメラがきてもいいと思うけど。

まったく来る気配はない。吉永さんは缶ビールの缶やコップを不思議そうに眺め一一口飲んだ。まるで初めて飲んだかのようにびっくりした顔をしている。もしかしてドッキリではないのか?


そして父さんが時代劇を見るべくテレピをつけた。

吉永さんを見ると、テレビを見て口をアングリと開けている。まさかの本物の江戸から来た侍?僕は裕子に確かめようと机の下で妹の足を蹴った。

裕子はスマホから目を離さず蹴り返してきた。


母さんは鍋を取り分けるのに忙しく、いつもなら裕子のスマホを注意するが、そんな暇はない。父さんは1人江戸時代の話をして盛り上がっている。吉永さんは目を白黒させて父さんの話にうなづきながら、よほどお腹が空いていたらしく夕飯を一心不乱に食べ始めた。


僕はドッキリでなければ吉永さんはどこからきたのか、これからどうすればいいのか訳が分からなくなり、頭の中が真っ白になった。


ハッと気がつくといつの間にか時代劇が終わり、夕飯もみんな食べ終わっていた。

吉永さんは疲れとビールでうつらうつらしてしまっている。


吉永さんを僕の先生だと勝手に勘違いしている母さんは


「聡、これから帰るのも大変だから聡の部屋に泊まってもらいなさい。もう1組布団押入れから持っていって」

と言ってきた。


「えっそうする?」


僕は言われるがまま布団を出し、吉永さんともに部屋に行った。


布団を敷くスペースを確保するために、散らかっていたノートや教科書を片づけていると、

「うわっ」と声がして、僕が振り向くと、資料集の中に吉永さんが吸い込まれていった。


「えーーーーっ?」

資料集の中の人だったの?ん?ミラクル出版?

僕は資料集をバサバサと振ってみた。


すると黒い煙がもわーっと立ち上り中から人影が・・・。

「吉永さん?」


「Where am I ?」


「ぺ ペリー?」


















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ミラクルで和気藹々 冬野こたつ @kotatsufufufu

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