第5話 骸骨魔女の遺品窟 5
槍衾は絶望の形をしていると思う。
想像してみて欲しい。
手には棒切れが一つ。
眼前には、ハリネズミの背中を連想させる、隙間の無い槍の群れ。
走って逃げようとしても、既に周りは囲まれていて。せめてもの抵抗とばかりに棍棒を振るえば、それをがっつりと受け止められて、後は作業の如く刺殺される。
そう、作業だ。
戦いにすらなっていない。
どれだけ優れた武勇の持ち主と言えど、覆せる数の量には限りがある。ましてや、それが連携する軍隊であるのならば、猶更。一対一ですら、勝率が五分を超えないであろう僕に至っては、戦うこと自体が愚かしい。
「駄目だろ、これ……これは駄目だろ……」
僕は寝室で二回ほど衰弱死を繰り返すほど、テンションが落ちていた。
いや、だって、無理だ。あれは無理だ。あの軍隊を覆すには、力が足りない。足りなさすぎる。不可能だ。今まではどれだけ困難でも、完全に不可能だとは思わなかった。登るべき困難の壁には、必ず、足場があった。
でも、違う、これは違う。
登ろうと思うことすら間違いであると確信できる、足場が一つもない壁の類だ。
挑むことが、間違いだ…………ならば、戦う以外の攻略方法があるはず。
そうとも、これは試練。
諦めなければ、何度も、何度も、繰り返して、諦めずに頭を使い、挑戦を繰り返せば、必ず必ず…………そう、思い込まなければ。
「これが、試練でなく、試験だったのなら? 『物凄く頑張れば超えられる』という代物ではなくて、『この程度を超えなければ資格は無い』と足切りするためのラインが、僕の越えられない絶望であるとすれば? 僕は、僕は…………ええい、考えるな! 考えるな、僕!」
思考を切り替えろ。
そんな前提は考えるだけ無駄だ。諦めるための理由を探すな。死ぬのは、死ぬほど辛いが、もう一度たりとも死にたくなんてないが、それでも、何もかもを諦めて放り投げて、無力感に打ちひしがれながら人生の幕を閉じるよりは、この苦しみが続いた方がマシだ。
さぁ、考えろ。
二十回に及ぶ試行戦闘により、召喚された軍隊と戦うのは無謀だと分かった。
二連続に及ぶ衰弱死によって、時間経過により、召喚が解除されるのではないか? という希望は消え失せだ。そもそも、あの人形に対しての遠距離攻撃を銃器の類で試したのだが、謎の障壁に阻まれて防がれたので、召喚が解除されても遠距離攻撃による奇襲は出来ない。
ならば、どうする?
「こういう時こそ、前任者の知恵を拝借、だな」
何十回と死んだおかげで、頭が冷えた。
手帳に書かれてある解読可能な部分を最初から最後まで読み込み……一つの可能性を見出した。手帳にメモされてある、『静謐なる煙』という物。錬成に仕方が書かれてあるそれ。それならば、もしかして、もしかすると…………物は試しだ。幸いなことにメモに書かれた薬品庫には、充分すぎる程の薬品の在庫がある。これを、描かれてある通りに錬成して…………うん、あれだ。一度失敗したが、二度目は成功した。
黒と、白の薬液を、曇り空のような灰色になるまで混ぜ合わせる。
ここで注意するのは、混ぜ合わせたのならば、コルクで蓋をして、空気に触れさせないこと。触れてしまえば、もくもくと、ミントの匂いのする灰色の煙が部屋に充満してしまうから。
僕はその失敗の所為で、呼吸困難で死にかけたのだから、お笑い種である。
ああ、本当に笑えるぜ。
「こんなに簡単に、絶望ってのは打ち破れるものなのか」
成功品を、あの憎たらしい骸骨兵士たちの軍隊へ投げ込む。
たった、たった、それだけのことでよかったのだ。瞬く間に煙は空洞内に充満して、やがて、それが晴れる頃には、全ての骸骨兵士たちは静かに朽ち果てていた。
たった一つの道具で、知恵で、時に、死者の軍隊すら退けることが出来る。灰色の煙が充満する中、次々と沈黙していく骸骨兵士たちの姿は壮観だった。
そう、死者は動かない物である、とばかりに当然の如く。
力を失い、崩れ落ちた骸骨兵士たちは、塵になって消え去った。
…………再召喚の気配はない。
「ようやく、ボス戦ってわけだ」
僕は灰色の煙の中を進み、銀髪の人形の下まで辿り着く。
恐る恐る、棍棒を構えるが、リアクションは無い。ただ、人形の無表情で僕を眺めているのみ。警戒対象は、扉の前に鎮座する青い古いプレートアーマー……仮称:青騎士であるが、この間合いならば、こちらが人形の頭部を砕くのが恐らく早い。
逃げる気配も、避ける気配も人形からは感じられないが、容赦はするつもりはない。もしも、再召喚などされた場合は、今度こそ詰んでしまう。そのためにも、推定ボスである青騎士との戦いの邪魔になる要素は可能な限り排除を――――
『ま……も……る……』
僕が棍棒を振り下ろそうとした瞬間、きゅがっ、という何かが弾けるような音が聞こえて、気付くと、僕はリスポーン地点であるパイプ椅子まで戻っていた。
「………………は?」
僕は蘇生直後の最低最悪の違和感に耐えつつ、ほぼ無意識に、壁へナイフを使って傷を刻んだ。それでも、なお、疑問は晴れない。疑問が違和感を超えている。
何故、死んだ?
今までは死んだにせよ、死の直前の記憶はある程度保持していたはず、なのに、まるで突然、雷にでも打たれたかのような唐突さで、僕は死んでいた。
「まさか、な」
嫌な予感が止まらない。
蘇生直後の違和感も相まって、このまま何もせず、寝室のベッドに飛び込んで眠るように衰弱死を迎えたくなるが、それを繰り返すと確実に精神が壊れるので検証するしかない。
僕は慣れた手つきで、武器庫から棍棒を手に取ると、慣れ親しんだ素振りを数回。確認を終えると、一定の警戒心を残しつつ、出来るだけ素早く、地下空洞まで駆けて行く。
『こな、い、で』
地下空洞まで辿り着き、ほぼ毎回耳にする、人形が嘆く声を確認。
骸骨兵士たちの軍団は再召喚されない。
だが、人形の前に立ちふさがるように、青騎士が大剣を構えて僕へ視線を向けていた。
…………骸骨兵士たちの感知範囲である五メートルから、かなり離れているというのに。
「は、はははは」
乾いた笑みを漏らしながら、僕はじりじりと青騎士との間合いを測る。
僕が動けば……否、僕が動こうとすれば、それを予測するように青騎士がこちらに大剣の切っ先を向けて、威圧してきた。
驚くことに、とても、とても最悪なことに、あの青騎士は、他の量産型とは性能がまるで違うらしい。あれは、こちらが動いた後ではなく、動く前に、独立した意思を持って動いている。
『ま、も……る……』
そして、青騎士による次の動きで、僕は本当の絶望を知った。
掠れたノイズ交じりのような声。
それでも、勇ましさが感じられる声が空洞に響くと、青騎士は大剣を構えた。明らかに、間合いの外。身の丈ほどの巨大な剣であったとしても、届くわけがないという距離。だというのに、青騎士は躊躇いなく、その大剣を僕に向けて振るって。
――――きゅがっ。
広大な空洞内の空気が弾けて、斬撃が僕の体を荒々しく両断した。
前回は、恐らく上半身がどぱぁん、と弾けたので気づかなかったのだろう。奴は、青騎士は、間合いの範囲外から、よくわからない力を用いて遠距離攻撃が可能だった。
………………強さの格どころか、ジャンルがちがぁーう。
僕は、下半身が弾けた衝撃でリスポーンし、パイプ椅子に座ったまま、傷だらけの机に突っ伏した。
うん、勝てない奴だろ、これ。
●●●
本当の絶望は、青い騎士の形をしていた。
人型の理不尽。
英雄と呼ぶに相応しい力の持ち主。
有象無象が集まろうとも、それらを全て薙ぎ払い、戦場を圧倒するであろう、そいつの力の前に、僕は心を折られていた。
「は、ははは、駄目だろ。駄目だろ……お前みたいな奴が、出てきたら、駄目だろ! だって! だって! 僕は今まで、人間の範疇で戦ってきたんだぞ!? それなのに、それなのに! こんな化け物相手に、勝てるわけがない!」
無様極まりない発言をしている僕であるが、どうか大目に見て欲しい。
何せ、二百回ばかりあの青騎士に挑み、見事にぶち殺されて蘇生したばかりなのだ。二百回ほど、無理を重ねた所為で、部屋の壁に頭を叩きつけて、さらに一回死んでしまうほど精神がボロボロなのだ…………なんかもう、死に過ぎて何が辛くて、何が辛くないのかわからなくなってしまった。ただ、呼吸するだけでもずっと苦痛が続いているような錯覚がある。いよいよ限界が近いのかもしれない。
「勝てるわけが……勝てるわけが……」
弱音を吐きながら、口の端から涎を零す僕。
その姿はさながら、廃人そのものだろうが、残念なことにまだ正気は残っている。勝機は、二百回近く戦っても、まったく見えてこないのだけれど。
まずね、遠距離戦では勝てない。銃弾は意味を為さないし、何より、普通に当たらないし、避けたり、弾いたり、僕が撃つ前に、範囲外からの斬撃で死ぬ。
なので、接近戦にしか勝機が無いと見て、僕は必死に相手の動きを見ながら近づこうとするのだけれど、これが難しい。単純な動きでは遠距離斬撃に当たって死ぬ。青騎士の動きや、意識の流れを読み、棍棒の間合いまで近づかなければならない。そう、近づけるようになるまでに大体、百回ぐらいは死んだ。
そして、近づいてはみたものの、そこから何もできずに百回ほど殺されて現在に至るというわけである。
「でかくて、重くて、怪力の癖に、技量が半端なくて、実は動きも素早いとかやめろよぉ……勝てる要素が皆無じゃねーか……」
辛い、とても辛い。
なんとか遠距離攻撃を避けてから、近づいて、そこから何もできずに一撃で殺されるのはとても辛い。何せ、徒労感が違う。
相手はフルプレートアーマーに加えて、大剣持ち! 素早さはこちらが上だ! 素早さで翻弄してやる! などと僕が考案した我流のクソステップで挑んでみても、あちらは武術の歩法みたいな動きで、するりと近づいてぶち殺してくるし! 基本的には、フルスイングで体をミンチにしてくる癖に、たまには違う殺し方でもしてみるかぁ、みたいなノリで綺麗に上半身と下半身を切断されるのも辛い。
何なの? 激流の如き剛剣に加えて、清流の如き静かなる剣も扱えるなんて、反則じゃん。パワーキャラなのに達人って反則じゃん。
無理だよ、勝てねぇよ。
大体、骸骨兵士の軍隊ですら何もできずに作業で殺されていた僕だったというのに、そいつらを単独で殲滅可能、みたいなバグキャラに勝てるわけがない。
存在の格が違う。
となれば、普通に戦うことが間違いであり、何かしらの攻略ギミックがあるのではないだろうか? と探してみるのだが、これが見つからない。
「何をどうすればいいんだよぉ…………冒険小説は大好きだけど、謎解きは苦手なんだよぉ。攻略サイトを見ながら、ゲームを攻略するヌルゲーマーなんだよぉ……」
駄目だった。
書庫で形を保っている本を読もうとしても、触った時点ですぐに崩れる。あの手帳以外に、まともな本など、いくら探しても無かった。あるのは、塵の山だけ。
『静謐なる煙』という奴を残った在庫で作り、それらを青騎士に全て投擲してみたが、まるで意味を為さない。動きが鈍りすらしない。手帳の記録から見るに、奴は浄化の類すらレジストするスーパーアンデットか、そもそも、アンデットではない何かなのかもしれない。
完全に、詰んだ感じがある。
勝てない。
見つからない。
ならば、残された行動は一つしかない。
「…………は、はは」
何の変哲もない赤いボタン。
ギブアップ用のボタン。
僕にはこれが、どんな絶世の美女の肌よりも魅力的に思えてきた。
「死んで臓物をぶちまけた際、中身が空っぽだった。尿はある程度あるみたいが、糞便は出ない。試練の開始の際、僕の魂は何か別の肉体に移し替えられたのでは? そうであれば、無制限のリスポーンにも説明がつく。ひょっとしたら。諦めたら普通に家に戻れるかもしれない。そうだとも、僕が余計に心配し過ぎだったんだ、そうだとも、ははははは」
口から吐き出されるのは、クソの如き言い訳の羅列。
自らの諦めを正当化するような、とてつもなく醜い言葉の数々。僕はその言葉を吐きながら、ふらふらと誘蛾灯に釣られる虫の如く、ボタンに手を伸ばし、
「――――ぁああああああああああああああああ!!」
絶叫を上げて、自らの腹部をナイフで掻き切り、内臓を引きずり出し、自害した。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 弱い自分は死ね! 死ね! 僕は死ね! 今更、今更諦めるのであれば、最初から死んでしまえ!!」
なけなしの正気をリスポーン地点に投げ捨てて、僕は本能のまま駆け出した。
諦めたくない。
負けたくない。
惨めなままは嫌だ。
稚気溢れる、クソみたいな感情が死の恐怖を凌駕して、理性の一部が完全に壊れたらしい。ここから先、僕は狂人の如く、一切、死を恐れることなく青騎士へと挑むこととなった。
「――――ぐはぁ!!」
まぁ、正気を捨てたからと言って勝てるわけではないのだが。
追加で二百回ほど死んだ果てに、僕はぼそぼそと自分でも訳の分からない言葉を呟いて、反省した。駄目だ、落ち着こう。落ち着いて、相手の動きを見て、読んで、真似るようにしっかりと戦おう、良し。
「お、接近してからの回避が初成功――」
追加で三百回死んだ。
ようやく、接近してからの青騎士の一撃目を回避できるようになった。まぁ、二撃目で死ぬわけだが。
「は、ははは、ははは」
追加で四百ほど死んだ。
我ながら棍棒の持ち方が様になって来たが、まだまだだろう。年単位で武術に身を費やしてきた人に比べれば、たかが千を超えて死んだ程度で、何を習得できるというのか? 五回ほど連続して相手の攻撃を回避できるようになったからといって、喜んではいけない。
「…………」
追加で六百死んだ。
ずっと青騎士の動きを見ていたせいか、似たようで微妙に違う気持ち悪い動きが出来るようになった。歩法の一種なのだろうか? 体重移動と視線の向け方がポイントである。相手の呼吸に合わせて動くだけなので、速度が向上しているわけではなく、ただ、無駄なくするりと動けるだけだ。だが、青騎士に一撃与えたのは成果として、喜んで良い。
もっとも、かんっ、などと言う音を立てて棍棒は青い鎧に弾かれたが。
そうだよな。普通に考えて、棍棒で鎧は砕けないよな。
「…………あ、あ?」
追加で…………どれくらい、だっただろうか? 千までは数えていたんだが、もはや死の回数に意味は無いと知って、数えるのを止めてしまった。合計で四千は超えたと思うのだが。
なんだろう? 何をしていたんだっけ? ああ、そうだ、青騎士を倒すのだった。なんのために? どうして?
「僕、は…………鈴山皆人……だっけ、か?」
記憶の混濁が見られるが、まぁ、珍しいことではない。
合計千回を超える死亡回数の頃から、段々と記憶が怪しくなってきた。蘇生の副作用というよりは、何回も同じことを続けていて精神がおかしくなったのだろう、多分。きっと、この試練を乗り越えて、家に帰ることが出来たのならば、何もかも思い出すはずだ。
「僕は、僕は、僕は……」
トライアンドエラー。
繰り返す、繰り返す、繰り返す、繰り返す。
何度も、何度も、何度も、何度も、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、死んで、その果てに、僕は何かが見えたような気がした。いいや、気の所為かな?
『もう、や、め、て?』
嘆く人形の声が聞こえる。
繰り返しの果てに、まともに与えた一撃が鎧にヒビを入れたけれども、リスポーン後ではその傷も修復されてしまっている。
不可能だ。
絶対に無理だ。
成長しない僕の肉体では、どれだけ足掻いても届かない。
結局。僕のやっていることなんて、ただの徒労で、悪あがきで、無駄で。
凡人は、英雄には敵わない。
絶対的な、絶望的な差という物が存在するということを、嫌というほど知った。
「僕、は、鈴山、皆人…………」
やがて、僕は冷たい床で倒れていた。
痛み? 苦しみ? 違和感? 吐き気? 倦怠感? そのような物はとっくに味わい尽くした。ただ、いよいよ精神の限界とやらが近いのだろう。そもそも、人間という奴は一度たりとも死を受け入れたくない物なのだから。
「ぼ、く、は…………」
熱意は消えた。
好奇心は死んだ。
正気は朽ち果てた。
狂気は尽きた。
惰性は終わった。
だから、僕は最後の最後、たった一滴の意地に縋って立ち上がる。
「僕は。鈴山……皆人…………嫌いな、事は――諦める事、だっ!!」
吠えるようにして立ち上がり、僕は再び、処刑場へと向かおうとする。
例え、幾千幾万とぶち殺されようが、それでも、何もかもを失って死ぬとしても、それでも、僕は何かを諦めて死ぬより、何かから逃げて死ぬより、立ち向かって死にたい。
僕は、馬鹿だ。
愚かで、どうしようもなく、度し難い。
それでも、それでも僕は――――
『あーあ、まったく、見てられねぇよ』
蝋燭が消える瞬間の輝きの如き、最後の足掻き。
その途中で、ふと、何処からが声が聞こえた。
まいったな、また幻聴か? やれ、どうやらまた、頭を叩き割って出来の悪い脳みそを壊さなければいけないらしい。
『ちげぇよ、馬鹿が。つーか、普通に自害を躊躇いなく選ぶんじゃねぇ。頭おかしいのか? いや、七千回近く死ねば、おかしくもなるわな…………もうちょっと、早めに干渉出来ればよかったんだがな、そこは謝っておくぜ』
「あ、え、あ…………ま、さか?」
僕は無意識に、学生服のポケットに手を突っ込んでいた。
指先が、触れる。
もうほとんど忘れかけていたそれに、触れる。
てっきり、僕の死亡と共に、いつの間にか壊れていたと思っていたそれ。すっかり、存在すら忘れていた、カードキー。
それから、意思のような物が伝達して僕の精神に伝わってくるのだと、直感で理解した。
『自己紹介が遅れて悪かったな、鈴山皆人。俺ァ、【悪魔を盗んだ男】。名も無き、端役のエキストラ。だが、あえて、ここまで到達したテメェには教えてやる。名も無き端役の、名前を教えてやる』
鈍った頭で、ようやく思い至った。
そうか、この、声の主こそが。
『俺の名は、ジャック。街盗賊のジャックだ。さぁ、皆人――――――テメェに逆転と栄光を与えてやるぜ』
僕にとっての救いであり、千載一遇の好機なのだと。
かくして、僕の冒険は幕を閉じる。
平凡で、愚かで、何も為せず、ただ、朽ちていくだけだった僕の冒険は終わりだ。
だから、これから始まるのは、『僕ら』の冒険だ。
挫折と栄光に満ちた、僕とジャックの物語が、今、ようやく始まったのだった。
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