密輸

そこそこの数のアルミ板を確保した。

そんな事をしている間にもう夜に。


取り敢えずホテルにでも泊まろう。



予め目星を付けておいた高級ホテル、"広州飯店"にチェックイン。


料金は先払い。一泊1,600香港ドル(21,000円)と少々値が張るが、部屋はとても広く、サービスも充実している。


資材や現金は車内においてきたが、タワーパーキングに停めてあるのでまず奪われることはないだろう。


下手すると室内より安全だ。



ディナーを食べたら部屋に戻り、船舶の構想を練る。


求めるのは一人乗りで、航続距離150キロ以上であること。

最高速度は30ノットあれば嬉しい。

レーダーの反射断面積を最小限に抑える事も重要だ。


エンジン馬力や燃費の都合も考えて、船体の長さは7メートル以内に抑えたい。



アルミの塊を変形させて、イメージを現実に変えてゆく。

船舶工学は専門外だが、最善を尽くそう。



風呂に湯を張り、模型を浮かべて実験する。

双胴船は駄目だ、大きすぎる。単胴船にしよう。


上部構造物には強烈なステルスコーティングを。

分厚いCMC板を貼り付ける。


搭乗席は天井付き。空調設備は無し。

スクリューは5枚羽、鋼鉄製。


出力は、動かすまで分からない。


エンジンのギアは無し。進むか止まるかの2択だ。


更に巨大な燃料タンクを装備。

少々の機動力を犠牲にして、多大な航続距離を得る。


それに6億円の隠し場所を内蔵。

アルミ板で完全に覆ってしまうのでまずバレない。


更に万が一の為に6億円の切り離し装置も完備。

浅瀬なら投棄しても良いかも知れない。


だが回収が非常に面倒だし、最悪底引き網に引っ掛かると全て奪われてしまう。正直やりたくない。




そんなこんなでモデルの完成だ。





後はこれを組み立てるだけ。

だが計算上、アルミがかなりの量要求される。

到底車に積める量じゃ無い。ピストン輸送を覚悟しよう。


燃料はガソリンを使用する。

フルで給油すると大体400リットル程入る。


船体の殆どが燃料タンクだからこそ出来る技だ。

ガソリンはガソスタでチャチャッと貰ってこよう。




ボートの出来に満足したので、俺は寝る事にした。

とても寝心地の良いベッド。


仙人に感謝の祈りをしてから眠りにつく。


枕元には日本語で般若心経が置いてあった。

中々コアだなぁ。読む人居るのかしら。







次の日の早朝、ホテルをチェックアウト。

ホームセンターが開くまでの間、ガソリンを給油する。

ガス缶に直接給油。


日本だと咎められるだろうがここは中国。

その辺りは結構寛容なのだ。




400リットル分のガス缶を車に詰め込み、ホームセンターに直行。アルミなら何でも良い。



それから車を海岸にまで走らせる。

産業廃棄物にカモフラージュしてアルミとガス缶を隠しておく。


ピストン輸送だ。あとはこれを4回繰り返す。

このようにして必要量のアルミを確保した。


レンタカーを返却したら作業開始。

そしてここは無人の海岸。人は殆ど寄り付かない。






「原子操作、不純物の除去」



アルミを操作、不純物を排出し、純粋なアルミを作り出す。


「原子操作、船体の整形」


抽出されたアルミを変形、あっという間に船体を作り上げる。


「原子操作、スクリュー、舵の整形」


鋼鉄製のパイプを、スクリューや舵に変形させる。


「原子操作、CMC板の作成」


1つのガス缶の炭化水素を分離、炭素のみを取り出し、水素を放出する。さらにこの炭素をカールさせ、結合させる。


CMC板の完成。


それからホームセンターで買った電子機器を組み上げて、エンジンにギアを噛ませ、スクリューと完全に結合させたら完成。舵も搭乗席から操作できるよう工夫する。



「原子操作、6億円を浮かせて」


現金に上向きのモーメントを加えて宙に浮かせ、そのまま船内に格納する。


「原子操作、給油して」


ガス缶がひとりでに浮き上がり、船の燃料が補給される。

空のガス缶は地面に転がった。



完成だ。全長6メートル、幅2メートル。

上部構造物は強烈なステルス設計となっている。


これでレーダーには映るまい。

準備でき次第出港だ。


操縦席に乗り移りドアを締め、それから念じる。


「原子操作、船を浮かせて」



エレベーターが急発進したような感覚と共に浮き上がり、船は浅瀬に打ち付けられる。




派手な水飛沫。だがこっちは一切濡れてない。

操縦席は完全密閉式なのだ。


ホームセンターで買った電気スイッチを押す。

瞬間、エンジンプラグに点火された。


エンジンから爆音が鳴り響く。

消音装置を組み込んでもこの音か。

なかなか酷いな。


だが出力は確かな物だった。

船は急加速。波を切り裂きながらグイグイと進む。


GPSを頼りに、進むべき道を割り出す。

最短ルートは北北東方向だ。

季節的にも潮の流れに乗れるはず。



舵を切り、全速前進。

沖縄方面は穏やかな海だから安心だ。

難破の危険はほぼないだろう。


長い航海が始まった。



「原子操作、バッグから弁当出して」


ホテルで買った弁当だ。

試食して美味しかったから買ってきた。


割り箸を割って木の蓋を開ける。


中身は日本の物とあまり変わらなかった。

台湾料理に近い独特な香りがするが。




暫くリラックスしていたら、もう島が見えてきた。

どうやらレーダー網を突破したらしい。


恐らくあれは与那国島、目的地だ。




近くのモーターボートより速度が速い。

これはなかなかに強烈なエンジンですなぁ。


感心しながらボートを岩壁に移動させ、原子操作。

人が居ないのを確認してから、近くの硬質な岸壁に穴を開け、現金を埋め込み、元に戻す。


偽装し終えたらそそくさと退散。

帰りには辺りの写真を撮って場所を記録しておく。


燃料は半分も減ってない。このまま無給油で帰ろう。





舵を切り、香港島を目指す。

このまま中国軍の警備艇にバレなければ完全犯罪。

あとは祈るだけだ。






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