密輸準備
その後、香港ドルを全て日本円に変換した。
福澤諭吉の塊を見た瞬間、急に金銭感覚が戻ったのは内緒。
だがこれから大きな問題が発生する。
そう、このような大金をどうやって日本まで輸送するかだ。
税務署に申告したならば穏便に済むだろうが、所得税で5割持っていかれる。
いや、でもよく考えてみてくれ。
こっちが苦労して稼いだ金を、累進課税とかいう社会主義国もドン引きするような名目で分捕るのは流石に酷いと思うの。
俺はドケチである。勿論、納税の大切さは十二分に承知しているのだが...流石に5割は鬼畜すぎる。
こりゃ富裕層も租税回避するわ。
身を持って味わってようやく分かった。
密輸しよう。
飛行機での密輸はどうか?
いや駄目だ、普通に捕まる。
漁船での密輸は?
バレそうになれば投棄して、後から回収すれば良い。
ビザは1週間分取っている。
金に物を言わせて漁船を借用し、国境警備艇の目をかいくぐりながら日本まで輸送し、海岸に埋める。
それから香港に戻り、漁船を返却。
その後何事も無かったかのように飛行機で日本に帰り、埋めた現金を掘り返す。香港から日本までの距離はわずか150キロだ。
理論上はこれでいける。だがそこには大きな障害がある。
1に国境警備艇をどのように避けるか、2に漁船をどこで借りるかだ。
漁船は多分簡単に貸してくれるだろう。
だが国境警備艇、奴の目は誤魔化せない。
更に奴には海上捜索レーダーがある。
レーダー反射を抑える電波吸収体のコーティングが不可欠だ。
そして速力も。20、いや30ノットは欲しい。
漁船でそこまでの速力は到底出せない上、レーダーサイトにバッチリ映ってしまう。困った。
となると、自分で船を作るしかないのか。
原子操作では金属加工も出来る事は実証済みだ。
材料さえあれば、適当な船くらい組み立てられるはず。
エンジンはそこらの車の物を買えばいいだろう。
精密機器だけは買って、それ以外は自前。
悪くない。
確か近くに中古バイクの売り場があった筈だ。
やれるだけやってみよう。
俺はレンタカーに金を押し込み、銀行を後にした。
「ええ?バイクのエンジンだけ?ああええよええよ、無名なメーカーのやけど値段は安いで」
友好的な店主に連れられて、店の奥まで案内される。
「これや、俺ではこれがどこのエンジンか良うわからんわ、その代わり出力はものすごいはずやで」
「推奨オクタン価は?」
「95や、ガソリンスタンドのやつをそのまま使って構わんわ」
「値段は?」
「1,900香港ドル(25,000円)や、整備無しでそのまま使えるで」
「よし買った」
そんなこんなで裸のエンジンを入手した。
ギアボックスは無し。水冷式、並列4気筒。
恐らく中国製のデッドコピー商品だろう。
後はこれをどう改造するかだな。
だが機械工学は大学での専攻科目だ。
こういうのだけは得意なのだ。
それと電波吸収体について。
アレにはカーボンマクロコイル(CMC)を使おう。
CMCは約0.01~1μmのピッチでコイル型に巻いた炭素繊維の名称で、これには電磁波を吸収する特性がある。つまり、電磁波を吸収して、レーダー反射を抑えるというスグレモノなのだ。
コイツを船体の表面にコーティングする事によって、レーダーサイトに映りにくくなる。
イージス艦クラスのレーダーなら話は別だが。
とにかく、CMCの生成実験は後でやる事にして、とりあえずはホームセンターで大量のアルミ板を買おう。お話は船体パーツを作ってからだ。
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