操作されたジャックポット

あれから一週間経った。

ここはマカオ。

カジノが盛んな中国の特別行政区だ。



俺はあれから軍資金を用意するために奔走した。

だが最終的には50万円を用意した。

これで一発ドカンとかける。


そして俺は"ルーレット"に目をつけた。

ボールを操作すれば出る目を自由に操れるからだ。


ルールに則れば最高倍率は36倍、ここに大金を一点掛けすれば、文字通り元手を36倍に増やすことができる。単純計算で行くと、50万✕36=1800万だ。これなら楽して億万長者になれる。


意を決して、俺はカジノ店に足を踏み入れる。



予想通り中は喧騒に包まれていた。英語や中国語が飛び交っていてとても騒がしい。だがかえって好都合。これほどやかましければ、能力を使ってもバレないだろうから。





ディーラーがベルを鳴らす。各人が自由にチップをテーブルの上に配置していく。ディーラーがルーレット台を回し、台にボールが投入される。


そう、ここはルーレットの会場。

最低ベッド数は日本円換算で約5000円。

小手調べに、5000円分のチップを購入した。


ディーラーの掛け声とともにベットタイムが始まる。


俺は18のマスにチップを掛けた。




チリンチリン♪


高速でルーレットが回転し、ボールが投入される。


ボールの軌道がふらつき始めたら、狙い目のマスに重なった瞬間強い力をかけ静止させる。

  

カランカランカラン♪

大当たりを知らせるベルが鳴る。


17万5000円分の勝ち。


だがこれからが本番だ。

50万円相当のカジノチップを購入し、勝負続行。


偽札チェックを受けてから、大量のチップを受け取る。


次に俺が賭けたのは16番。

当たれば36倍、はずれれば全て没収。


50万円がかかった大勝負が始まった。




ディーラーがルーレットを回す。



直ぐに、ボールは16番に引き寄せられ、そのまま落下。


あたりから猛烈な歓声が上がる。

約1800万円分の勝利。


あっという間だった。

30秒もしない間に1800万を獲得したのだ。

かなりの大金なので金銭感覚が狂いそうだ。


だがこんな楽な稼ぎ方が他にあるだろうか?


このままもう一発行きたいところだが、しかし俺はかなり怪しまれている。


続きは他の店でやろう。


そう考えた俺は、札束をバックに詰め込み、カジノを後にする。







2軒目の犠牲者となるのは、近くの大型カジノ店だ。

さっきの店から歩いて10分くらいの場所にある。

繁盛している所悪いが、死んでもらおう。


札束でパンパンに膨れたバッグを背負い、全力で走る。


さっきから嫌な視線が向けられている。

スリや強盗にだけは会いたくないからだ。


そして俺は逃げるようにその店に駆け込んだ。





陽気な音楽。


雰囲気は富裕層向けだった。

さっきまでの嫌な視線もピタリと止んだ。


ここなら大金をかけても怪しまれないだろう。

バックの中の札束を全て取り出し、チップに変換する。


1800万円相当の香港ドル紙幣。

それだけの価値にふさわしいチップが渡される。


300万円相当のチップが6枚。

紫の高級感溢れる高額チップだ。


チップを受け取り、一度深呼吸してからルーレット会場へと足を進める。


途中、事の重大さに怯え、緊張で手が震える。


だが焦るな。呼吸を整えて。必ずやれる筈だ。


この能力を信じろ。そうだ。全てを託せ。






ディーラーの掛け声と共にベットタイムがスタートする。


陽気な音楽が更に焦りを加速させる。


手の震えが止まらない。

駄目だ、一回パスだ。一度落ち着こう。


手に握られたチップを離さない。

これ一つで300万だ。全部で1800万。


だが焦るな。全てうまく行く。


チリンチリン♪


ルーレットが回転し、ボールは31の穴に落下。

ボールの挙動も前のとほとんど変わらない。


「ベットタイムでーす!」


掛け声と共に、8番のマスにチップを積み上げる。

周りは驚く。馬鹿馬鹿しいと言う奴もいた。


確かにそれはそうだ。

俺がかけたのは最も確率が低いマス。

当選確率は36分の1。


確かに、普通なら馬鹿馬鹿しいと思うだろう。

普通なら金をドブに捨てているようなものだ。


だが俺は違う。そう、俺にはこの能力があるのだ。


チリンチリン♪


ルーレットが回る。狙うは8番ホールのみだ。

十分減速したボールが8番の上に来た瞬間、力をかける。



一周、また一周とボールが回転する。

もう止まる。そう確信した俺はボールに力を加えた。


下向きのモーメント。ボールの軌道を曲げる。




コトッ。


ボールは落下した。


8番ホールに。






「ヒューーッ!」「ブラボー!」



チリンチリンチリンチリン♪


辺りに歓声が巻き上がる。

ディーラーも客もみんな騒ぎ出す。

大当たりだ。ここ一番の大当たりだ。


1800万の36倍、6億4800万の大当たりだ。


張り詰めた緊張が、一気に緩んだ。


掛けに負けた人間も、負けを忘れて大騒ぎ。


ハイタッチに胴上げ。辺りは混沌と化した。







裏方から、巨大な"塊"が運ばれてくる。

台車に乗ったそれは、よく見ると一つ一つが札束だった。


意識が遠くなるような量だ。


客がパシャパシャと写真を撮っている。

フラッシュで目がチカチカする。


「おめでとうございます!ジャックポットですねっ!」


「現金輸送車を手配しますね、何処の銀行にお送りしましょうか?」



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