成功

3時間ほど経っただろうか。

国境も越えて安心しきった頃、ようやく島が見えてきた。


香港島だ!


密輸は成功した!


有頂天になりながら、ボートを砂浜に乗り上げる。


「原子操作、ボートを解体」


CMC板のみは炭素に戻し、それ以外はスクラップにして放置する。


さあ、日本に帰ろう。


飛行機の座席を確保するため、俺は空港へと走った。






日本に帰るとまず一番に実家の車を借りた。

あとはフェリーで与那国島まで行き、6億円を回収するだけ。



一刻も早く回収しなくては。

誰かに取られたらどうするんだ。


焦燥に駆られながら当日券を購入する。

チケット代など大した出費ではない。


フェリーに車を載せ、客室へと向かう。

出港の汽笛が待ち遠しかった。


待ち時間、与那国島の衛星写真をチェック。

どの車線を使えば良いか予め調べておく。





フェリーはすぐに到着した。

乗り場から車を降ろし、公道を走る。

最短距離はこの道で合ってるはずだ。


10分ほど走らせると、目的の岩場が見えてきた。

人は何処にも居ない。無人だ。


車を路上に放置し、浅瀬に飛び込む。

それから必死に泳ぎ、岸壁まで辿り着いた。


全身ビシャビシャだ。

ここの海はお世辞にも綺麗とは言えない。


岩にしがみつき、原子操作。


岩の表面を切断する。



6億円が見えた。


取られてない!

喜ぶ間も惜しんでその塊を背負い、浅瀬へと這い上がる。


6億円をトランクに押し込み、安堵する。


回収成功。


全身ビチャビチャで、髪に汚い藻が絡みついているが、それでも俺は勝ったのだ。



「原子操作、汚れを分解」


海水や絡みついたゴミを原子レベルで分解。

汚れをキレイさっぱり落としてから、運転席に戻る。


完全勝利だ。さっさと家に帰ろう。










2日程かかったが、車は無事名古屋に着いた。


実家に帰ればこっちのもんだ。

6億円はそのまんま頂く。


タンス貯金をしよう。


銀行にもやすやすと預けられまい。

税務署に目を付けられてしまうからだ。


赤信号で待機中、警察車両が通り掛かったので焦ったが、ターゲットは他のスピード違反車両だった。


セーフ。


そんな事をしている内に、青色の光が一斉に点灯した。


青信号だ、進もう。









「ハルちゃんおかえり、大学はどうしたん?」


「今日は授業がないんやで、ちょっと帰ってきただけや」


「あーそうかい、それならええんやけどな」



実家に帰り、部屋に段ボールを運び込む。

勿論これは例の金だ。

暫くこの家に置かせて貰うことにする。


だがその事は伝えない。

騒がれても困るからだ。


屋根裏に上がり、現金の入った段ボールを隠す。

[見つけても騒がないように、息子より]


というメモを貼り付けておいたので、多分大丈夫だ。


しかしこの金はそのままは使えない。

レストランとかで豪遊とかなら問題ないが、高級車や家など、名義が必要な物を買おうとするとまたもや税務署に目を付けられてしまう。



金の出処が不透明なのだ。


だからあまり大々的に使う事が出来ない。



ビットコインも簡単に足がつくし、困った。


これでは派手に遊べない。

足がつかない様な所でしか金を使えない。


チェッ、税金をケチったツケが回ってきたな。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る