入学したのは良かった……

俺はもう嘘はつかねえ。こう心の中で唱えたまま高校生になった。少し自由の幅が広がり、ストレスも大きく減った。それである種の戸惑いもあったし、中学時代に教室にあまり行かなかった私は人間関係の築きかたさえよく分かっていなかった。登下校はスクールバス。一時間を要するが、寝ているなり、携帯を弄るなりしていれば簡単に着いた。前は厳しかった体育の授業も一転して全く緊張感のないものに変わった。まだ厳しさを思い出しながら勉強を続けていた私は、1学期の中間テストで上位を獲得。こうなってしまうと私の甘えが爆発した。2学期になれば私は学校に行かなくなった。2、3人いた仲の良い友達に心配され、ときどきLINEが着ていた。家でゲームと夜遊び三昧で、薬で酔っ払ったまま道で眠ったり、逆にハイになって10km以上走り続けたりとめちゃくちゃな生活をしていた。


ここで紹介したいエピソードがある。

体育祭の前日の夜中、滅茶苦茶な流れでリレーの選手に選ばれたので行かなきゃならなくなった。私は近くのドラックストアまで飲み物をいくつか買っていった。ドラックストアまで歩いて行く途中で、挙動不審な男の人がボーッと橋の上から川を見ていた。何度もグルグルと周ったり、橋のヘリに脚を置いて覗き込んだりしていた。買い物の間少しだけ気になっていた。帰り道、パトカーがサイレンを鳴らしたまま私の前で止まった。私は警察にマークされていたのかと思ったが、それは間違っていた。男性警察官二人が私の近くに着て、

「自殺志願者がいるとの通報があったのできました。通報者はあなたですか。」と聞かれたので少しホッとした。「いいえ、スーツ姿で川を眺めている男ならさっきここに居ましたが」と返すと、パトカーからでかい懐中電灯を取り出し川面を照らして探していた。住所、名前、電話番号、学校名等色々メモを取っていた。この時間にいたことについては、学校には内緒にしてくれるとの事で、警官にもいい人がいると思った。その最中に志願者が現れ、「あ、あの人です」と言うとその男に2,3質問した後、今度はサイレンを鳴らさずに帰っていった。男は最後に「通報したの、私です。」と言った。その時、自分と同種の人間の存在の意志がビリビリ伝わって来た。

「誰かが止めてくれるのを待っていた」

そう言っているように感じた。

私は自殺志願者と話がしたいと思った。しっかりと目に彼の顔を焼き付けた。1週間後、チャンスが一度だけあった。学校の帰り道。くたくたになって帰ると、信号のすれ違いざまにふと目があった。暗い中だったが、お互いハッキリと認識した。疲れた目、青白い顔、痩せた体。あの日見た顔。同種の人間が沈黙を保ったまま、手を伸ばせばとどくところを通り過ぎる。私に話しかける勇気はなかった。ただ、すれ違いの風切りの音とともに「迷惑かけたな」と伝わってきた。厨二めいた表現だし恥ずかしいけれども、当時は本当にそう思った。


今考えればこの経験は夜中に出回ってなければできなかったことだし、貴重だった。だからこういうブランクがあっても、人生回り道しまくっても後悔はない。たった3年前のこと全然成長していない。かわったのは心持ちと目標ができたことくらいだ。私の異常な行動で人生が残り10年に縮んだとしても、一歩ずつ目標に向かって近づければ良いと思う。私は2年間厳しい教育を受け、表面だけでも、まっさらな人間になれたと思う。

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自分は嘘つき、そしてひきこもり ゆうひ @pcscmania

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