カードマスターさくら編 2
「それではまず、ソウルチャージです」
私は机にあるボタンを押すと、机の中央部分にある画面に1と表示されました。
このゲームのルールをざっくり説明すると、まずターンの開始時に召喚エネルギーが1つずつチャージされて行き、その召喚エネルギーのコスト分だけカードが使えるといった感じになっています。
1ターン目は召喚エネルギーが1なのでコスト1のカード、2ターン目は召喚エネルギーが2なのでコスト1のカード2枚かコスト2のカードを1枚使うみたいな使い方ですね。
カードの種類は主に3種類。
1度出したらやられるまでフィールドに残って毎ターン相手を攻撃するこのゲームの主力であるモンスターカード。
1回使い切りだけど強力な効果を持っている魔法カード。
相手の攻撃や行動に反応して発動する罠カード。
…………まあ要はソーシャルゲームなどでよくあるアレ的な感じのゲームですね。
「ではまず最初は……………おや?」
「ん? どうかしたの、桜?」
「どうやら出せるカードが無いみたいです」
私の手札は全てコストが2以上で、最初のターンに出せるカードは1枚もありませんでした。
「も~。なら早くターン終わらせなさいよね~」
「そうですね。ではターンエンドです」
「それじゃあ次はこっちの番ね。ドロー!」
私は忍さんに手番を譲ると忍さんの召喚エネルギーの数字も1になり、さっきまでの私と同じくコスト1までのカードが使えるようになりました。
「ん~と。どうしようかな~」
「忍さん。まずはナイフエッジマスターを出すのがセオリーでは無いでしょうか?」
「――――そうね。それじゃあ早速……………って何で桜が私の手札知ってるのよ?」
「……いえ、何となく持ってそうな気がしただけです」
「ふ~ん? ま、別にいいけど」
――――本当の事を言うと、私は忍さんの手札の半分以上が把握出来ています。
何故なら忍さんは全てのカードをスリーブに入れているのですが、カードスリーブに入れたらどんな事をしても傷が付かないと思っているようで普段からカードを結構乱暴に扱っているのです。
なのでスリーブに付いた小さな傷が忍さんが今どのカードを使っているのか私には手に取るように解るのでした。
ちなみに私のデッキはスリーブを定期的にランダムに入れ替えているので、誰かに手札がバレるという危険はまず無いと思います。
それと勘違いしないで欲しいのですが、私がやっている事はあくまでルール内で行っている事で、カードのすり替えや後ろのお客さんにサインを遅らせるなどのルール違反は全くしていません。
あくまで偶然カードスリーブの傷を覚えている。ただそれだけの事。
公式ルールにスリーブの傷を覚えるのは禁止と書いてあるなら一瞬で記憶から全て消し去る準備はすでに出来ています。しかしルールに書いて無いと言う事は覚えても構わないと言う事なので、これは全く問題の無いテクニックなのです。
「それじゃあナイフエッジマスターを召喚してぇ」
忍さんは片手にナイフを持った盗賊の様な見た目の攻撃力1体力1のモンスターカードを場に出しました。
このカードは一見攻撃力も守備力も最低の…………まあ本当の最低値は0なのですが、それは今は置いといて…………。えっと、数値は最低なのですが、このカードにはちょっと厄介な能力があって――――。
「ナイフエッジマスターの特殊能力はっつどう。このカードは召喚後すぐに行動が出来る! 今桜のフィールドはガラ空きだから、桜に直接攻撃。いっけ~ナイフエッジアタ~ック!」
忍さんの召喚したモンスターは私に向かって一直線に走ってきて、ナイフでザシュと私を切りつけました。
「……………ッ」
防御手段の無い私は体力に1ダメージを受けてしまいました。
まあこれくらいのダメージは誤差の内なので、気にしないで早く体制を建て直さなければいけませんね。
「私のターンはこれでおしまい。じゃあ次は桜の番ね」
「では私のターン。ドローです!」
2ターン目なので召喚エネルギーが2まで上昇して2コストまでのカードが使えるようになりました。
手札はコストの高いカードばかりでしたが新しくドローしたカードがちょうど2コストだったので、このターンはモンスターカードを召喚出来そうです。
「私はシールドナイトを召喚します!」
私は全身を鎧で身を包み、巨大なシールドを持った攻撃力2 体力2のカードを場にだしました。
「このカードがフィールドにある限り、忍さんは他のカードを攻撃する事は出来ません」
「うげっ。厄介なカードを出して来たわね」
忍さんのカードは攻撃力1と体力が1、私のカードが両方共2なのでこのカードで戦ったら忍さんのカードが捨て札になり、私のカードが体力1だけ残ってフィールドに留まることが出来ます。
ただ、忍さんの召喚したナイフエッジマスターのような特殊能力が無いと召喚したターンは動けないので、今回は戦闘をしないでターンを終えるしか無いのですが――――。
「私のターンはこれで終了です」
「じゃあこっちの番ね。ドロー!」
ドローした忍さんがニヤリと悪い笑顔を浮かべました。
なんだか嫌な予感がします。
「じゃあ私は今度もナイフエッジマスターで攻撃ぃ!」
「――――え!?」
ナイフエッジマスターは再び私に向かって突撃して来ました。
しかし今回は大丈夫。何故ならさっきのターンとは違い私の前には私を守ってくれる盾があるのですから!
「私はシールドナイトで防御します! ――――忍さん、プレイミスしましたね?」
「ふっふ~。私はここで魔法カード発動。ナイフエッジデスマッチ!!!」
「――――なっ!?」
ナイフエッジマスターの行く手を阻む様に立ち塞がったシールドナイトでしたが、こちからの攻撃が当たる瞬間、忍さんが魔法カードを使いナイフエッジマスターとシールドナイトの足元に2本のナイフが出現しました。
「ナイフエッジデスマッチの効果はお互いに地面に刺したナイフの刃を踏んで戦って、負けた方が破壊される!」
「しかし、忍さん。攻撃力はこちらの方が高いのでナイフエッジデスマッチをしても、こちらの勝利は変わりませんよ?」
「甘いわね桜。ナイフエッジマスターはナイフエッジデスマッチで負けた事は無いのよ! いっけ~、ナイフエッジヘッドバット!」
魔法カードの効果で拳で攻撃し合っていたナイフエッジマスターとシールドナイトでしたが、突然ナイフエッジマスターがヘッドバットを繰り出した事により予想外の攻撃に対応出来なかったシールドナイトは破壊されてしまいました。
「シールドナイトが破壊された事により桜には破壊されたカードの攻撃力と同じだけ、つまり2ダメージを受けてもらうわ。そして、ナイフエッジマスターの攻撃もまだ終わっていな~~~い! ナイフエッジマスターで桜を直接攻撃!」
「―――――くっ」
私はカード効果と直接ダメージで合計3ダメージを受けてしまいました。
ちょっとピンチかもしれません。
「どう? 私のマジックコンボは?」
「…………まだこれからです、ドロー!」
――――3ターン目。召喚エネルギーが3になったこの辺りからお互い強力なカードが使えるようになってきます。
攻撃力1は誤差だと思っていましたが、ダメージが蓄積されていくと結構厄介ですね。
…………ここは。
「私はてるてる仮面を召喚します」
私のフィールドに白い布を被った幽霊の様なモンスターが召喚されました。
攻撃力0 体力2のステータスだけ見たら何とも言えない微妙なカードです。
「そして、罠カードを一枚設置してターンエンドです」
テンポ重視の為このゲームの罠カードは一枚しか設置出来ないので考えて使わなければいけませんが、その分強力な効果を持っている物が多いので使い所を間違えなければかなり重要な戦力になってくれる頼もしい種類のカードです。
「私のターン、ドロー。よ~し、このターンで一気に決めるわよ! 私はコスト3の騎士王ナルティスを召喚。そして―――――――」
忍さんの場にマントの付いた重厚な鎧を身にまとい、巨大な剣を両手で持ったモンスターカードが召喚されました。攻撃力と体力は共に4の強力なカードですが、私はこの瞬間を待ってたんです!
「罠カード発動、天地反転。このカードはフィールド上にいるモンスターの攻撃力と体力を全て入れ替える事が出来ます」
景色が一瞬だけひっくり返ったような演出が入り、全てのモンスターの数値が入れ替わりました。
「続けて、てるてる仮面の効果を発動します。てるてる仮面は体力が0になった瞬間、姿を変える事が出来るのです」
てるてる仮面は空中でくるりと逆さまになると、白い布がふわりとひっくり返るように下がっていき、裏側の黒い布が表に現れました。
「攻撃力0を2にしたからってなに? そんな攻撃力じゃ私の騎士王には勝てないわよ?」
「忍さん。誰もバトルで騎士王を倒すとは言ってませんよ?」
「――――どういう事!?」
「てるてる仮面の更なる効果発動。てるてる仮面の姿が変わった事により天候も変化します」
「天候を変える? ―――――ああっ!?」
「行きます! てるてる仮面、ウェザーチェンジ!」
てるてる仮面が空を指差して指先からビームを放つと、晴天だったフィールドの天気が雷雨へと一瞬で変化しました。
「フィールドが雷雨になった事により金属。つまりナイフを持っているナイフエッジマスターと剣を持っている騎士王ナルティスに雷での攻撃が可能になりました。―――雷轟招来!」
忍さんの場に召喚されているナイフエッジマスターと騎士王ナルティスは落雷攻撃により破壊され、忍さんの場はガラ空きになって私の場にはモンスターが1体。完全に形勢逆転です。
「なあっ!?」
「さて、忍さん。どうしますか?」
「うぐっ。召喚コストも使い果たしちゃったし…………これでターンエンド」
罠カードを使ったのは忍さんのターンだったので、コストを使い果たした忍さんはそのまま何もせず私にターンを明け渡しました。
「私のターン、ドロー! 私はフィールドのてるてる仮面で忍さんに攻撃、レインレインボー!」
空から降り注ぐ虹色の雨が忍さんに2ダメージを与えました。
「そして私は罠カードを一枚セットして―――――」
あれ? なんだか忍さんが口に手を当てて考え事を始めたみたいです。
もしかして、あの事に気が付いてしまったのでしょうか。
「…………ねえ、桜?」
「おや? 忍さん、どうかしましたか?」
「さっきから思ってたんだけど、私達モンスターカード出してすぐに破壊みたいなのを繰り返してない?」
「…………はぁ。忍さん。せっかく私が言わないようにしてたのに、あまりカンがいいのは良くないと思うのですが…………」
「ど、どういう意味よ?」
「――――よく考えてください。今も半分くらいどうなってるのか解らないのに4体も5体も特殊効果のあるモンスターカードを並べて、文章だけで全て把握させる事なんて出来る訳ないじゃないですか。なので大味な対戦にするしか無いんです」
「な、何よそれ! それくらい頑張って何とかしなさいよ!」
「大丈夫です。そう言われると思って、対策手段も用意しておいたので安心してください。魔法カード発動、スモールシェルター!」
私は魔法カードを発動するとお互いのフィールドに小さなシェルターが1個ずつ出現して、他の場所にデンジャーの警告マークが出現しました。
「スモールシェルターの効果は1人用シェルターをお互いのフィールドに出現させて、ターンの終了時にシェルターに入っていないモンスターカードを全て破壊する効果です。これで常にお互いのフィールド上のカードが1枚になるので安心ですね」
「…………で、今回はそれでいいとして次からどうするのよ? もしかして毎回そのカードを使う気?」
「忍さん。もうこのゲームは今回限りで終わりなので安心してください。というか次のお話自体無い可能性がですね――――」
「うがああああああ~」
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