バトロワ編 その17

 ――――そして、数分間のバスの旅を楽しんだ私達はなんとかキャメルさんのお店に到着したのでした。


 バス停から徒歩5分の所にある6階建てビルの4階にあるこのお店はかなり繁盛しているみたいで、ガラス越しに見えるお店の中からは楽しそうに遊んでいるお客さんの姿が何人も見えます。そして、それを見た忍さんが歓声の声をあげました。


「わ〜。ここが脱法ゲームバーか〜」

「違います、忍さん。ここは脱法では無く――――」

「脱法じゃなくて合法かもです」


 私の忍さんへのツッコミは後ろからの声によって遮られてしまいました。

 だれだろうと後ろを振り向くとそこには沖縄の太陽で真っ黒に日焼けした人物が、姿が隠れてしまうくらい大きなダンボール箱を両手に持って立っていました。どうやらこのお店に入る用事があるみたいんですが、私達が入り口に立っているので通行止めをしているような形になっているみたいです。


「おはゆ~。荷物を運んでいるのでちょっとどいて欲しいかもです」

「あっ、ごめなんなさい」


 と忍さんが少し横に移動して道をゆずるとダンボールを持った人は軽く会釈をしながらお店の中へと入っていきました。


「あれ、あの人たしかどこかで見たような―――――」


 私は手持ちの観光ガイドを開くと、そこにはさっきすれ違った人が写っていました。


「忍さん。どうやらさっきの人がキャメルさんみたいです」

「――――そうなの? 私は良く見えなかったんだけど」

「ダンボールで隠れてよく見えなかったのですが、すれ違った時に確認したので間違いないと思います」

「いるなら丁度いいじゃん。早く会いに行こうよ」

「そうですね。それではお店に入りましょう」


 カランコロンとベルの付いた扉を開けて中に入っていくと、店内では小洒落たラテン系の音楽が店内に流れていました。

 そして、私達の入店に気がついた店員さんの1人が私達の元へとやって来て、入り口の横に設置してあるレジに移動しました。


「3名様ですか?」

「はい。3人でお願いします」

「時間はどうされますか?」


 店員さんはお店の名前が書いてあるエプロンをつけている20代前半くらいの女性の人でした。

 店員さんは利用時間のプラン一覧が書かれたメニュー表を机の上にコトンと置くと、私はそれを持ち上げて忍さん達にも見やすい位置に移動させます。


「1時間500円でお得な長時間コースもあるみたいです」

「そうなんだ。――じゃあ何時間にしよっか?」

「この3時間パックでいいんじゃない? 料金お得だし、2人とも1時間じゃ少ないでしょう?」

「そだね~」


「――――あの。私達はいいですが、鳴海さんはゲームとか大丈夫なんですか?」

「そういやナル姉ってゲームとかあんまりしなかったよね」

「別に私は見てるだけでも楽しいから問題無いわよ」

「では最初は鳴海さんも参加できる軽めのゲームをする事にしましょう」


 遊ぶ時間を決めた私はメニュー表をレジのある机に置いて店員さんにプランを伝える事にします。


「では3時間パックでお願いしたいのですが――――」

「かしこまりました。料金は先払いになります」

「わかりました。それではお金を――――」


 私はカバンからお財布を取り出そうとすると、鳴海さんが。


「あ~、ここは私が払うから。2人はいいわよ」

「えっ。でも――――」

「ま~ま~。ここはお姉さんに任せちゃって」

「ナル姉もああ言ってるし、払ってもらっちゃえば?」


 あまりご迷惑をかける訳にもいかないと思って遊ぶ分くらいは自分のお小遣いから出そうと思っていたのですが、こうなった鳴海さんは意地でも引かないのを私は知っていたので、ここは鳴海さんに従う事にしました。


「――――わかりました。では、お言葉に甘える事にします」

「うんうん。子供はそれくらい素直でよろしい」


 そう言うと鳴海さんはカバンからお財布を取り出して店員さんに。


「じゃあお支払いは3人分まとめてお願しますね」


 ――――と言ってお支払いをはじめました。私は鳴海さんがお支払いをしている隣で店内を見回したのですが、さっきすれ違ったキャメルさんを見つける事が出来なかったので店員さんに聞いてみる事にします。


「――――あの。キャメルさんはいませんか? 私達の少し前にダンボールを抱えてお店に入ってきたと思うのですが?」

「――――キャメル? ああ、オーナーなら荷物を倉庫に持って行ったと思うんだけど、もしかして知り合い?」

「はい。ゲームでちょっとお世話になりました」

「あ~。ゲーム仲間か~。オーナーそっち系の知り合い多いからね~」

「そこまで仲が良いわけではないのですが。近くに来たので挨拶だけでもしようかと思いまして――――」

「じゃあ。すぐに呼んでくるから適当なゲームでもして待ってて。ここに置いてあるゲームは全部面白いからオススメよ」


 店員さんはレジの横に置いてある端末に入力してから、後ろの壁にかけてあるプラカードの1つを取り出して。


「はい。5番テーブルになります」


 ――――と、言ってすぐにお店の奥へと早足で向かって行きました。

 私達は番号の書かれたテーブルまで行くと、そこには少し古めの木で出来たテーブルと椅子が置いてあって、まるで中世の世界でカードを集めて対戦するゲームの中に入って来たかのような不思議な感覚に包まれました。


「お~。まるでオッシャーみたいな感じね~」

「忍さんもそう思いましたか? 実は私も少し前にクリアしてあの世界に行けたらいいなと思っていたので、私もそんな風に思いました」

「後はお酒の入ったビンとランプがあれば完璧かな~」

「こ~ら。お酒は未成年だからダメでしょ」

「―――ランプもカードが燃えてしまうのでダメです」


 私と鳴海さんが忍さんにツッコミを入れつつ荷物を後ろにある棚に置いてから椅子に座ると、ギィと心地の良い音を鳴らしながら少しだけ椅子がきしみました。


「――――これは年季を感じます」

「んじゃ私は何かゲーム持ってくるね~」


 私がドヤ顔で椅子の座り心地を楽しんでいるのをスルーして忍さんはゲームが沢山置かれている棚へと向かっていってしまいました。


「なかなかいい感じのお店ね」

「そうですね。後は忍さんがこの雰囲気にあったゲームを持ってきてくれたら完璧です」


 ――――数分後、忍さんはトランプくらいの大きさの小さな小箱を持って戻って来ました。


「じゃあこれやろっか」


 忍さんは小箱を机にコトンと置くと、箱にはポップでエピックな絵柄の二頭身の女の子がカードを持って戦っているパッケージが書いてありました。


「…………こ、これは。――――あ、あの、忍さん。もう少しシックな感じのゲームは無かったんですか?」

「う~ん。私も最初はそういうのにしようと思ったんだけど、少し前にこのアニメが流行ってたから気になっちゃった」

「けど、これは今年出たカードゲームを紹介するガイドブックに何とも言えないゲームと紹介されていた物なのですが――――」

「そう言わずに1回やってみない? 面白いかもしれないし、これならルールも簡単に覚える事が出来るからナル姉も一緒にプレイ出来るんじゃない?」

「――――けど。忍さん」

「あら? 可愛い絵だし楽しそうじゃない。私は別に構わないわよ?」


 あまりゲームをしない人にこういうゲームを勧める場合、まず最初に面白いゲームをプレイさせてゲームの楽しさから教えるのがセオリーなのですが、忍さんの用意した様なとがったゲームからいきなり初めて大丈夫なのでしょうか。

 けど、やる気になっている鳴海さんに水を差すような事を言うのもなんですし、ここは2、3回軽くやって他のゲームに変える事にしましょう。


「――――それでは、まずは私が忍さんの相手になります」

「ふっふっふ。かかって来なさい」


 忍さんは両手を腰にあてながらまるで悪の親玉のような邪悪な笑みを浮かべて椅子に座っている私を見下ろしたのですが、なんかすでに負けフラグが立っている様な気がするのは気の所為でしょうか――――。


「まずはルールの確認をしたのですが、忍さんはこのゲームをやった事は?」

「ふぇ? あるわけ無いでしょ?」

「――――だと思いました」


 私はゲームの箱を開けると中には50枚くらいのカードと説明書が入っていたので、軽く目を通してルールを把握してから忍さんに説明をする事にしました。


「えっと、まずはお互いにカードを2枚持った状態で始まって自分の番が来たら1枚カードを引いて――――――使えるだけ場に出します」

「え? 初期手札少なくない? それにカードにコストとか召喚の制限とかないの?」

「無いです。何も考えずに持ってるカードを全て出しても問題は無いかと。そしてカードに書かれている攻撃力を比べて低い方がカードを捨て札置き場に移動するといった流れですね。一応攻撃をしなかったら防御にも使える様ですが、防御力とかはありません」


「ええっ!? なにそれ、もしかしてこのゲームってク―――――」

「――――忍さん。私は最初にそう言ったのですが――――止めますか?」

「ううん。せっかくだし1回だけやろ」

「まあ私もちょっとだけ気にはなっていたので忍さんがそう言うなら」


 私達は机に向き合うように陣取って、カードを軽くシャッフルして配ってから。


「二人とも頑張れ~」


 鳴海さんの声援を受けながらゲームが開始されました。

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