バトロワ編 その18





「――――では私の先行で行きます」

「ああっ。私から始めたかったのに!?」

「早いもの勝ちです。――――私のターン、ドロー」


 私は山札の一番上からカードを一枚抜き出して手札へと加えました。

 手札のカードを確認してみると、攻撃力の書かれたキャラクターカードが2枚とキャラの攻撃力をアップさせる魔法カードが1枚。――――まあ初プレイで慎重になっていても面白くはないので、ここは手札を全て使いきる事にしました。


「まずはこの攻撃力5のポップ梶田を召喚します」


 カードにはサングラスをかけてバイクにまたがっている女の子の絵が書いてありました。

 バイクに乗っていると言う事は、このキャラは免許が取れる年齢なのでしょうか?

 まあ特に意味も無くまたがっているだけの可能性もあるのですが、今はそんな事はどうでもいいですね。


「――――ねえ桜。攻撃力5って多いの? 少ないの?」

「私に聞かれても解らないのですが…………多分このカードよりは少ないかと」


 私は2枚めのキャラクターカードを場に出すと、そこに書かれていた数字は――――。


「そして次は隣に攻撃力8000のポップドラゴンを―――」

「ちょ。ちょっと、待って桜。いくら何でもカードの攻撃力の幅が大きすぎでしょ!」

「大きすぎと言われてもこのゲームのバランスはかなりガバガバで素人にはオススメ出来ないので、これをやるくらいなら1人でトランプをして遊んでいたほうがマシ―――――とガイドブックにも書いてあったのですが…………」


「そ、そうなんだ…………。もしかして、とんでも無いゲームを選んじゃった?」

「まあゲームのテンポはいいみたいなので、とりあえず終わらせましょう。――――最後に攻撃力を500に変更する魔法カードを使って攻撃力5のキャラを攻撃力500に変更して、ターンエンドです」


 ――――とりあえず攻撃力が8000もあれば一安心ですね。

 それにしてもカードを2枚使ってコンボをするより何も考えずに出しただけのカードの方が強いとか何とも言えないバランスなのですが、むしろこのガバガバぶりが楽しいのかもしれません。


 それに私が知らないだけで一見使えないと思ったカードも特定の組み合わせて強くなる可能性も捨てきれないですし、ひとまず忍さんの様子を見つつ戦略を考えるとしましょう。――――まあ今の手札は0なので次にドローするカードをそのまま使うしか私の次の選択肢はないのですが…………。


「じゃあ次は私の番ね。ドロー!!」


 忍さんはカードを一枚引いて少しだけ考えてから私と同じように2枚キャラクターカードを場に出しました。攻撃力は50と1200とこっちもかなりの幅があるみたいです。


「ふっふ~。次はさっき引いたこのカードっ!!」


 忍さんは続けて魔法カードを発動して効果を読み上げました。


「このカードはキャラ1人の攻撃力を5000兆にする事が出来る!」

「…………はい?」

「だから攻撃力を5000兆に出来るんだってば」

「――――インフレしすぎです!?」


 私は理解が追いつくまでちょっとだけ時間がかかった後に改めて場に出されたカードのテキストを確認してみると、確かに攻撃力を5000兆にすると書かれていました。


 ――――そして、テキストの後ろに更なる効果が書かれているみたいです。


「――――攻撃力を上げる以外に追加効果で攻撃力を上げたカードがフィールドに存在しなくなったら即ゲームに敗北する?」


 一応このカードを倒したらゲーム即敗北レベルのデメリットも付いてるみたいなのですが、これは――――。


「……………あの、どうやってこのカードを倒せばいいんでしょう?」

「さあ? ――――ともかく、5000兆にしたキャラで攻撃ぃ~」

「ああっ!? ポップドラゴン…………」


 私の場の最大戦力だった攻撃力8000のポップドラゴンは忍さんの攻撃力5000兆のキャラに無慈悲にも撃破されてしまいました――――。それより兆ダメージとかオーバーキルすぎます。


「それじゃあ残りのキャラでもう1つの桜のキャラを撃破して――――」


 忍さんの容赦のない攻撃は続き、私の場のカードが全てなくなっていましました。


「これで私のターンは終了っと、次は桜のターンね」

「…………」


 これは絶体絶命のピンチになってしまいました。


 ――――けど、次のターンで私のスペシャルドローが決まればこの不利な状況だって覆せるはず。


「私はこのドローに全てを賭けます! 私のターン、ドロー!」


 私は渾身の力を込めて山札からカードをドローして内容を確認すると、そこにはこの状況を大逆転出来る奇跡のカードが――――――手に入る訳も無く、私はそのまま忍さんの圧倒的な攻撃力を誇るキャラにゴリ押しされて負けてしまいました。


「いえ~い、私の勝ちぃ。いや~桜にゲームで勝ったの久しぶりかも」

「――――むぅ。かなり大味のバランスです」

「じゃあ次は私の番かしら?」


 負けてしまった私は横で観戦していた鳴海さんに席を譲ると、鳴海さんはそのまま私の座っていた椅子にこしかけてカードをシャッフルし始めました。 


「鳴海さん。ルールは大丈夫ですか?」

「うん。さっき2人がやってたの見てたし大丈夫だと思う」

「ふっふ~。妹の方がお姉ちゃんより凄いって事を教えてあげよう」


 どうやら私に勝利した忍さんはノリノリな様子で鳴海さんにも勝つ気マンマンみたいです。ここは何としても鳴海さんに勝ってもらって忍さんをぎゃふんと言わせないといけませんね。


 ――――私はスススと鳴海さんの後ろへと移動して忍さんと向き合う位置に立ちました。


「あれ? そんな場所に移動してどうしたの?」

「――――鳴海さんをサポートする事にしました」

「あっ。これは協力な助っ人ゲットかな~」

「――――よろしくお願いします」


 私は鳴海さんにペコリとお辞儀をして今ここにサクナル同盟が爆誕したのでした。


「ええっ。2人がかりなんてズルい!?」

「チャレンジャーが王者に挑む為のハンデです。それにサポートがメインなので安心してください」

「……う~ん。あんまり納得出来ないけど、まあそれならいっか」


 忍さんも納得してくれたみたいなので、早速2回戦の開始です。


「それじゃあ忍、始めましょうか?」

「忍さん。覚悟してください」

「こ、こうなったら2人まとめて相手してあげるんだから!」

「――――では、次もこっちが先行で行きます。鳴海さんドローしてください」

「オッケー、桜ちゃん。ここから一枚引けばいいのね?」

「ああっ!? また先行取られた」

「油断大敵です」


 カードゲームは基本的に先行が有利な場合が多いので、とりあえず先行を取ったのはいいのですが肝心の手札はどうなっているのでしょうか。


 ――――私は鳴海さんの背中越しに手札を覗き込むと、キャラカードが2枚とサポートカードが1枚とさっきの私と同じような手札になっていました。


「桜ちゃん、どうしよっか?」

「――――そうですね。まずは様子見でサポートは温存しておいてキャラを2枚出しましょう」

「えっと――――こうかしら?」


 鳴海さんはゲームにあまり慣れていない為か、少しおぼつかない手つきでカードを2枚場に出しました。一応さっき負けた教訓として手札を温存する事にしたのですが、さてさてどうなる事か。


「……ねえ。ほとんど桜がプレイしてる気がするんだけど――――気の所為?」

「忍さん。カードゲームの花形と言えばなんでしょうか?」

「ふぇ? う~ん、よく解らないけど凄いカードを出す――――とか?」

「その通りです。そして強力なカードを出すためには運命力のこもったドローが不可欠。――――つまり、一番重要なドローを鳴海さんに任せる事で私はサポート役に徹する事が出来るわけなのです!!」



「な、なんだってーーー!? …………って、そんな事あるかいっ!」

「――――むぅ。やっぱりダメですか」

「今回はいいけど、次のターンからはサポートだけにしなさいよ」

「――――仕方ないですがそうします」

「ひとまず私達のターンはこれで終了ね」

「なら次は私のターン。ドロー!」


 忍さんは山札からカードを1枚引くと、そのまま自分の手札に入れテキストを確認した瞬間またもや不敵な笑みを浮かべました。――――なんだか忍さんの方から圧の様な物を感じて嫌な予感がします。


「ふっふ~。勝利は私の為にありってねっ!」


 忍さんは攻撃力がそこそこのキャラカードを出した後に続けてサポートカードをプレイしました。――――こ、このカードはさっきも見たような気が。


「私はサポートカードの効果で攻撃力を5000兆に変更ぅ」

「なっ!?」


 あのカードは確か1枚しか山札に入って無いはずなのに2回も連続で引くなんて、どうやら忍さんの運命力をあなどってしまっていたみたいです。――――っと、そんな事よりこれからどうするのかを考えないと。とりあえずさっきの二の舞になる事だけは避けないといけませんね。


「ふっふ~。2人がかりで来られても私にはかなわないかもね~」


 召喚したターンは攻撃出来ないので忍さんはカードを一枚手札に温存したままターンを終了しました。


「鳴海さん、このままではかなりピンチです。頑張って次のドローでいいカードを引いてください」

「うん。任せて―――――ドローッ!」


 鳴海さんが引いたのは攻撃力2000のキャラクターカードでした。他のカードと比べて攻撃力は高めだと思うのですが、攻撃力5000兆の前では無いも同然なので守備に周るしかなさそうです。


「ねぇ桜ちゃん。このカード何か書いてあるみたいなんだけど――――」

「ふむふむ――――それはカード効果ですね。一部のカードには場に出た時にオマケがもらえるみたいな感じです」

「なるほど~、そういう事も出来るんだ~」

「――出来るんです」

「それなら早速このカードを使うわね」


 鳴海さんはさっきドローしたカードを場に出すと即座にカード効果を発動させて、デッキから同名カードを2枚サーチして場に出しました。



「これで少しは持ちこたえる事が出来るようになりました」

「ふっふ~。そんな雑魚カードいくら並べたってすぐに蹴散らしてあげる」

「――――忍さん、その言い方だとなんか悪者の下っ端みたいです

「べ、別にこっちが圧倒的に有利なんだし、いいじゃない!」


 しかしこのままだと忍さんの言う通り蹴散らされて終わってしまうので何とかしないといけませんね。忍さんのカードは一見強力に見えるのですが、出しただけで勝負が決まるのならカード効果をこのカードを出したプレイヤーは勝利するにすればいいはず――――なのに、そうしていないと言うことはこの状況を打開出来るカードが必ず入っているはずなんです。


 …………まあデッキに入ってるカードを全部確認したわけではないので、そんなカードは存在しない可能性もあるのですが、ゲームデザインをした人を信じるしかないですね。


「今回もやれる事は無さそうだし、私達のターンはこれで終わりね」

「――――早く何とかしないといけません」

「じゃあ次はこっちの番ね~」


 ――――それからも忍さんの猛攻は続き私達はかなり追い詰められてしまい、もって後1,2ターンと言った感じの状況になってしまいました。


「鳴海さん。次でいいカードを引かないと負けちゃいそうです」

「大丈夫。この鳴海お姉ちゃんに任せなさ~い」


 ほぼ負けの状況にもかかわらず鳴海さんは笑顔で私に微笑みかけてくれました。

 どんな状況でも諦めない鳴海さんの笑顔を見ていると、不思議とまだ行けそうな気がしてきます。


「おおっ!? なぜだか、、まだ行けそうな気がしてきました」

「じゃあ引くわね――――ドロー!」

「ふっふ~。今更どんなカードを引いたって私の最強軍団には勝てないと思うけどな~」


 どうやら忍さんは勝ちを確信したみたいですが、勝負は終わってみるまで何が起こるか解らない物。忍さんには悪いのですが、私は鳴海さんのドローしたカードを見た瞬間こちらの勝ちを確信したのでした。


「――――忍さん。どうやら最後に勝つのはこっちみたいです」

「……ふぇ?」

「鳴海さん、場に残ってるキャラで忍さんの攻撃力5000兆のキャラに攻撃してください」

「え? 桜ちゃん、このキャラの攻撃力って3000だけどいいの?」

「いいんです」


 私達の場にある攻撃力3000のキャラは忍さんの場の攻撃力5000兆のキャラへと無謀にも攻撃をしかけました。普通なら攻撃力の低いカードが倒されてしまって終わりなのですが。


 ――――――本番はここからです。


「今です鳴海さん! さっき引いたカードを使ってください」

「りょーかい、桜ちゃん」


 鳴海さんが手札に残っている一枚のカードを場に出すと私がカード効果を宣言しました。


「私達はサポートカード緊急回避を発動です!このカードはバトルになった時に攻撃対象となったカードをターン終了まで裏返しにして攻撃対象から除外する事が出来ます。――――そして今、攻撃対象となっているカードは忍さんの場の攻撃力5000兆のキャラなのでそのカードをターン終了まで裏返しにします」


「ふっ、ふ~ん。そんな使い方も出来たんだ。けど、次の私のターンになったら――――」

「次の忍さんのターンはありません」

「………ふぇっ?」

「忍さん。ちょっと場にあるカードを確認してください」


「……場? 桜達の場にはキャラカードが1枚でこっちの場には圧倒的な忍軍団が沢山並んでるんだけど――――まあ1枚だけ裏返ってるけど、桜のターンが終わったら戻ってくるんでしょ?」

「――――その通りです。そして、その1枚は裏返っていてフィールド上には存在していません。つまり――――」

「………………あっ!?」 



「忍さんのカード効果発動。このカードがフィールドから離れた事で忍さんは敗北します」

「えっ、ええええ~~~っ!?」


 ――――ふぅ。ギリギリの所でしたが何とか勝つことが出来ました。

 これは鳴海さんの運命力に感謝しないといけませんね。


「鳴海さん、私達の勝利です」

「やったね、桜ちゃん」


 イエ~イとハイタッチをして勝利を分かち合う私達を横目に忍さんが。


「なんか終盤はほとんど桜がプレイしてた気がするんだけど――――それに何よそのインチキカード」


「忍さんの使ってたカードもじゅうぶんインチキだった気もするのですが…………。それにしてもこのゲーム、かなり大味に見えて実はかなり考えられてゲームバランスを作られているのかもしれません。なかなか奥の深いゲームです」


「――――――ふふふ。気に入ってもらえたみたいで良かったかもです」


 後ろからの声に振り向くと、そこにはお店の名前の入ったエプロンをつけているキャメルさんの姿がありました。


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