バトロワ編 その15
―――――後日。
学校から帰ってきた私が部屋に行こうと階段を登り始めたら厨房からお父さんが何やらチケットのような物をヒラヒラと持ちながらやってきました。
「おお桜ではないか。いい物が手に入ったんだが、これが何か知りたいか?」
「えっと。映画のチケットですか?」
「ククク。残念ハズレだ。これは商店街の福引券なのだよ」
「福引券!? ど、どうやってそれを手に入れたんですか?」
「知りたいか? ククク、では特別に教えてやろう。なんと隣のスーパーで買物をしたら貰えたのだ」
「おおっ!? 凄いです!」
福引券。あのガラガラをクルクル回して何が出てくるかのワクワク感は何事にも変えられない楽しさがある、あの!福引券を持ってるなんて凄く羨ましいです。
「あ、あの。良ければ、それを――――」
「ダメだ。これはワガハイが貰ったんだから誰にもあげないんだからね」
「――――むぅ。ケチンボです」
「ケチンボで結構毛だらけ猫まっしぐら。さてと、それではワガハイはクジを引きに行ってくるので後は任せる――――」
お父さんはそのまま玄関までズンズンと歩いていったのですが、門の直前でピタリと止まり。
「――――と、言いたい所だが今回は特別に桜に譲ってやろうではないか」
「えっ!? いいんですか!?」
「さっき予約の電話が入ったからワガハイはこれから店の準備をしないといけないのだ」
「なるほど、そういう事なら仕方ないのでお父さんの代わりに行ってきてあげます」
「ククク。口ではそう言っても顔は凄く嬉しそうではないか?」
「そ、そうですか?」
ふぅ。私とした事がうっかり顔に出てしまっていたみたいです。
平常心、平常心っと。
「それでは、すぐに行ってきます!」
「ククク。せいぜい楽しんでくるがいい」
私はお父さんから福引券を奪い取るように譲り受け、そのまま2階の部屋まで走って向かいカバンを机に置いて制服から私服に急いで着替えてから家を飛び出して駅前へと走って向かいました。
「はあっ。はあっ。まだ1等が残っていたらいいのですが――――」
駅前の福引場に到着すると丁度ピークが終ったのかガラガラを回している人は1人もいなくて、受付を担当しているタコ焼き屋さんの店長さんが暇そうにパタパタとお化粧をしている所でした。
「店長さん。こんにちわ」
店長さんは私に気が付くとお化粧をする手を止めて接客をする時の笑顔で私に話しかけてくれました。
「あらあら。誰かと思えば、サァ~クラちゃんじゃないの。あたちに何か御用かちら?」
「――お父さんから福引券を貰ったので回しにきました」
「そうなの? じゃあちゃっちゃと回しちゃいなちゃいよ」
「えっと――――――それでは2枚お願いします」
私が手に持った福引券を2枚渡すと、店長さんはどうぞと手を差し伸べてガラガラを回すのを急かしてきました。
「――――あの。学校の帰りに見た時は結構並んでいたのですが、1等はもう出ちゃいましたか?」
「それは大丈夫よ。まだ1等どころか5等まで1回も出てないんだから」
「確率低すぎです!? ――――あの。本当に当たりは入ってるんですか?」
「なぁに。あたちを疑ってるの? あたちはタコ焼きにタコを入れ忘れる事は毎日あるけど、クジを入れ忘れた事は今まで一度もないのよ!」
「――――どちらかと言うとタコを入れ忘れないで欲しいのですが」
「あらそう? じゃあ桜ちゃんには今度タコだけ焼いてあげるわね」
「タコ焼きを作ってください」
私はガラガラを回す取っ手に手をかけると、1回深呼吸をして精神を集中すると中に入ってる当たりが見えているような感覚になったので、そのまま勢いよくグルグルと回し始めました。
「――――見えました!」
「当たるといいわね」
「当たるでは無く当てます―――――――それっ!!」
私が回すのをやめてしばらくすると、中からコロンと真っ白な玉がコロンと出てきました。
「あら、残念ね。 はい残念賞のティッシュ」
「ありがとうござ―――――!?」
店長さんから貰ったティッシュには何やらポーズを決めている店長さんの姿がプリントされていました。
「――――あの、これは?」
「全部で10種類あるからコンプリートするといいわよ。オマケにウチの割引クーポンも付いてるから良かったら使いなちゃい」
「――――どちらかと言うと割引クーポンの方がメインな気がするのですが」
「残り1回よ。次もハズレたら好きな絵のティッシュを選んでいいからね」
「別に絵柄はどれでもいいのですが――――」
私は気を取り直してもう1度回す事にしました。
店長さんが当たりが入ってると言うなら当たりは絶対に入ってるはず――――――たぶん。
ガラガラと中に入っている玉がシェイクされていく音が実に心地よい音色を奏でています。
ずっとこの音を聞いていたい気もしますが、そろそろ何かが起こりそうな気がしてきました。今度こそ私の中に秘めた力が当たりを手繰り寄せている、そんな気がします。
1等が当たるとしたら――――――今!!
「今度こそ1等です!」
私が一心に見つめる中、ガラガラの中からはさっきと同じ真っ白な玉がカランと落ちて来ました。
「はい、残念賞。好きなティッシュ選んでいいわよ」
「――――むぅ」
おかしいです。さっきの私には確かに不思議パワーが降りてきたはずなのに――――。
まあ、ハズレでしまった物は仕方ないですし、これ以上福引券も持っていないので今回は諦めて次の機会に…………おや?
「桜ちゃん。どうかちたのかちら?」
「いえ。何だかこの玉がさっきのと少し違う気がして――――」
私は出てきた玉を手に持ってクルクルと回してみると、手に何やら粉のような物がカサカサとふりかかって来たので手についた粉を舐めてみる事にしました。
「ペロリ。これは…………小麦粉?」
私はポケットからハンカチを取り出して玉をキュキュっと拭いてみると、白い玉の下から黄金に輝く玉が出てきました。
「…………あの、店長さん。これは何ですか?」
「そういえばタコと間違えてタコ焼きに入れて焼いちゃったのが何個かあったわね。その時に小麦粉がついたんだと思うわ」
「なるほど、それなら仕方ありませんね」
「はい。じゃあその玉ちょうだいな」
私は店長さんに金で出来た玉を渡すと、店長さんは下からベルを取り出してカンカンと鳴らしながら、くす玉をパカンと割りました。
くす玉の中の垂れ幕からは特賞と書かれています。
「大当たり~~~~~」
買い物に訪れたお客さんが少しづつ増えてきた夕方時の商店街に店長さんの少し高めの声が響き渡りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます