バトロワ編 その14


「えっと、忍さんは――――――」


 私は早足で広場に向かうとベンチに座りながら缶ジュースを飲んでいる忍さんの姿を見つける事が出来たので、私はそのまま忍さんの横まで歩いて行きました。

 ゲームの中なのでジュースを飲んでも喉が潤ったりはしないのですが、まあ気分的な物なのですね。


「忍さん。お待たせしました」

「おつかれ~。単独ライブ結構よかったじゃない」

「今度はもっと完成度の高いライブが出来るように練習しておきます…………」

「そういや、桜のライブが終わった瞬間、広場で見てた人が消えちゃったけど、どこにいったのかな?」


 広場には人は疎らで私達の他には数える程度の人数しかいませんでした。

 そして、広場の真ん中にあるモニターでは別の新しいゲームが始まったみたいです。


「ゲーム中継は自分の番が始まるまでの待ち時間に見る人が多いですからね。そのうちまた増えてくると思います」

「へ~そうなんだ。だけど、せっかく1位を取ったんだし大歓声で出迎えてくれてもいいと思うんだけどな~」

「人気プレイヤーならそうかもしれませんが、普通のプレイヤーが1回1位を取ったくらいでそこまでする人はいないかと――――」


「そんなもんなのかな~。じゃあ頑張って超人気プレイヤーを目指さないとね」

「はい。頑張ってこの広場に100万人集めてみせます!」

「この場所にそんなに入れないでしょうが…………あっ、そういや桜の分のジュースも買っといたけどいる?」

「はい。いただきます」


 私は忍さんから受け取った缶を開けるとプシュッというスッキリするような音と共に缶から軽く炭酸の泡が吹き出て来たので、こぼれてしまう前に急いで缶に口を付けてゴクゴクと飲み始めました。


 バーチャル空間でジュースを飲む事は意味のない事に見えますが、リアルで装着しているデバイスから発せられる振動が私の喉を震わせて、まるで本当に炭酸飲料を飲んでいるかのような感覚が楽しめるのです。


「わっ!? ちょっと、桜大丈夫?」

「はい。ギリギリセーフでした」

「――ふぅ。危なかった~」

「別に中身がこぼれてもアバターは汚れないので大丈夫ないのですが」

「あれ、そうだっけ? 凄くリアルだからシミになると思っちゃった」

「私もとっさの事なのでついやってしまいました。VR恐るべしです」

「ふふっ、なにそれ」


 私達はクスクスと笑っているとピロンと何かを知らせる音が鳴ったので、私は何だろうとメニュー画面を開いてみると見知らぬ人からのグループチャットの参加要請が来ていました。


「ん? 何かのお知らせ?」

「グループチャットの参加要請のようです。――――えっと、キャメルと言う人からみたいなんですが」

「あ~。確かそれって最後に私達が戦ってたヤツ等の1人だった気がする。中継モニターでその名前見たし」

「――――そうでしたか。では一応参加しますね」


 私はグループチャットの欄の下にある参加と拒否の選択肢から参加を選ぶと、私達の前に小さな画面が1つ表示されました。

 画面にはさっき対戦した人の顔が映っていたので一応は知らない人では無いのですが、感想戦でもしたいのでしょうか。


「おはゆ~。さっきはやられてしまったかもです」

「こちらこそ対戦ありがとうございました」

「なに? 私達に何か文句でもあるわけ?」

「――――忍さん。いきなり噛みつかないで下さい。すみません、その――――あ、あれっ?」

「桜、どうかした?」

「いえ、確かこの人どこかで見たことがあった気がしたのですが――――」



 ええ~っと。あれはどこでしたか。確かつい最近だった気がしたのですが――――。

 私がつい最近見た物と言えば――――あっ!?


「あのっ。――――もしかしてプロの人ですか?」

「ふふふ。正解かもです」

「……プロ? ねえ、桜。この人って有名な人なの?」

「最近このゲームのプロになったキャメルさんです。他のゲームからの移籍と言う事で先週の週刊ブレマジ通信で特集を組まれてました」

「ふ~ん、そうなんだ。 ――――ん? プロに勝ったって事はもしかして私達って凄かったりしない?」

「忍さん。大会ならともかく野良ゲームで偶然1回勝てただけでは、そこまで凄くはないのですが」

「ええ~っ。勝ちは勝ちじゃん」


 まあ実際は10回に1回勝てたら上々といった感じで今回は何とかその1回を引けた感じだとは思うのですが、もし大会に出る事になったらその1回を引ける様に運命力を高めて置かねばなりませんね。


「――――それよりキャメルさん、私達に何か用ですか?」

「さっきのリベンジをしたいかもです。ルールはそっちにまかせるかもです」

「私は構いませんが、忍さんもまだ行けますか?」

「モチロン。まだまだ全然余裕なんだから!」

「それではキャメルさん。私達は次に始まるデュオに参加するので、それでいいですか?」

「了解かもです」


 まあプレイ人数とマップの広さを考えるとゲーム中にまた会える確率はかなり低いので、最初に降りる場所を同じ辺りにしといた方がいいかもしれませんね。


「キャメルさん。最初に向かう場所ですが――――」


 最初に全体チャットで自分の降りる場所を宣言して指定した場所とあえて違う場所に降りると言う戦略もあるのですが、せっかくプロの人と再戦出来るかもしれないので今回は普通に宣言した場所に降りる事にした方がいいですね。


 キャメルさんが待ち合わせと違う場所からスタートする可能性もありますがプロが素人相手にそんな姑息な事はしてこないと思いますし。


 ――――それから私達は何度か同じマップでゲームを楽しみ、結果的には私達は負け越してしまったのですが楽しい時間を過ごす事が出来ました。


 解散する直前にキャメルさんが沖縄在住だと言う事を聞いて自分の経営しているお店でこのゲームの大会を開いているので良かったら遊びに来なよといわれました。


 けど、流石に沖縄まで遊びに行くことは難しいので、泣く泣く断る事に。

 機会があれば行きたいのですが、飛行機に乗った事すら無い私にはかなりの難題です。

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