バトロワ編 その13
「えっと、忍さんの場所は――――――おや? 予定の場所よりちょっとだけズレてます」
…………もしかして必要以上に突撃してしまったのでしょうか。
まあ、これくらいの誤差なら射程範囲内なので問題は無いのでいいですが、次はちゃんと指定した場所に行って欲しいものです。
「忍さんがやられた瞬間に特に音は聞こえて来ませんでした。――――なので、爆発系のトラップの可能性は無い――――そして、一瞬で体力が全て無くなっていたので状態異常系や矢の可能性もありません。つまり、落とし穴の可能性が高いでのですが――――」
落とし穴は下を見ていれば一瞬で判別出来るはずなのですが、どうやら忍さんは注意を怠ってしまったみたいです。
――――っと、今はそんな事より。
「落とし穴系トラップの射程範囲とアイテム回収の為に近付く速度を考えると――――そろそろですね」
私は杖を掲げロードフレアのスキルを選ぶと私の前にマップ画面が表示されたので、発動場所を選ぶ事にしました。
相手が見えないと場所が解らない? いいえ、そんな事はありません。相手はアイテムを回収するはずなので、私は回収するアイテムのある場所を指定すればいいのですから。
忍さんにはなるべく動き回ったり魔法を使っての罠の解除をお願いしていたので、トラップマスターさん達のアイテムストックはもうカツカツになっているはず。
そしてセーフエリア内に建物は残っていないのでアイテム補給もかなり厳しくなっています。
――――なので万全を期す為には眼の前にあるアイテムは必ず回収しに向かわなければなりません。
つまり、その場所は――――。忍さんのやられてしまった場所です!
「火の粉を周る精霊よ」
――――私は詠唱をしながら右足を軸にクルリと右に一回転しました。
別に呪文の詠唱をする必要も回ったりする必要も無いのですが、魔法発動まで魔力ゲージが溜まるのをずっと待っているのも退屈ですし、それにせっかく忍さんが考えてくれたので使う事にしました。
「火を3つ回し合わせて火炎となり」
――――クルリ。
「廻り巡って……………ふぅ。なんだかクルクルしすぎて目が回ってきました。――――えっと、次は…………あ、あれ?」
――――私とした事がうっかり続きを忘れてしまいました。
まあ丁度ゲージも溜まったので残りは飛ばしてっと。
「えっと――――ロードフレアです!」
私が呪文の名前を言い終えると耳をつんざくような爆音が周辺に響き渡り、真っ赤に燃える火炎の柱が天空へと立ち昇りました。
轟々と燃え盛る派手な呪文エフェクトに見とれていると、どこからともなくファンファーレの様な音と共にアナウンス音声が聞こえてきました。
「ザ・ウイナーズ!」
ハッとなった私はメニュー画面を開き残り人数を確認するとそこには黄金に輝く1の文字が―――――。
今このフィールドに残っているプレイヤーは私だけ。つまり私が―――――。
「…………勝った?」
私は緊張の糸が切れてしまい、その場にヘタリと倒れるように座ってしまいました。
1位を取ったのは久しぶりなので、高鳴る鼓動が収まらずまだ気持ちの整理が出来てはいないのですが、1つだけ言える事があります。
「おとり大作戦が成功して天国の忍さんも喜んでます」
「コラー、私はまだ死んでな~い!」
「――おや? 忍さんいつの間に」
ゲームが終了した事で外部とボイスチャットのやり取りが可能になった瞬間、忍さんの声が聞こえてきました。
この勝利も半分くらいは忍さんのおかげなので、早く会って勝利を分かち合う事にしましょう。
「――まったく。私も頑張ったんだからね?」
「理解ってます。――――おや?」
勝利の余韻に浸っている私の元に運営さんからアナウンスが流れて来ました。
「アピールタイムが開始されます。何かパフォーマンスをなされる場合は開始を、何もせずご帰還なされる場合は帰還を選択してください」
アピールタイム? そういえば勝利した後にそんなのがあったような――――。
たしか最後に勝利した人は最後に告知をしたりダンスをしたり自分の好きな事をやっていい時間が与えられ、その様子が広間の大画面に表示されるんでした―――――って、ああっ!?
「……ど、どうしましょう」
「ん? どうかしたの、桜?」
「最近勝ってなかったので、アピールの練習をしてませんでした……」
「あ~、そういえば最後にそんなのあったかも。でも別に何もやらずに帰ってきてもいいんじゃない?」
「そ、そうですね。では即帰還を選んで―――――」
私は帰還ボタンを押そうとしたのですが、かなり動揺してしまっていたようで間違えてアピール開始のボタンを押してしましました。
「ああっ!?」
押すボタンを誤爆してしまったせいでアピールタイムが始まってしまいました。
「あれ? 桜、何か始めるの?」
「い……いえ、そんなつもりは無かったのですが」
私に与えられた時間は5分間。別に5分間何もしないで立ちっぱなしでもいいんですが、流石に大画面に立ってるだけの姿が映し続けられるのは放送事故どころではありません…………。
こうなったら腹をくくって例の取っておきを披露するしか。
――――私はカラオケモードを起動して曲を選ぶと、ステージが地面からゴゴゴと現れて、衣装もバトル用の物からアイドル系の衣装にチェンジしました。
「こうなったら。やるしかありません!」
「頑張れー、桜~」
他人行儀な忍さんの応援を受けながら、私は少し前に練習していた歌とダンスを披露する事にしました。
ゲームを始めた時はゲームと同じくらいダンスの練習をしていたのですが、なかなか勝てずダンスを披露する場に恵まれなかったせいで、最近は練習を疎かにしていたのであまり上手く踊れませんでしたが、私は気合でなんとか踊りきりました。
ヘトヘトの思いでロビーに戻った私は忍さんと合流する為に広場に向かう事にしました。
私はメニュー画面を開いてフィールドからの離脱を選択します。
すると足元から少しづつフワッとした白い光に包まれていって、私の体全体を覆った瞬間私の体はこのフィールドから消えてゲーム開始のエントリーをしたゲームロビーに戻ってきました。
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